第368話 いざ、行かん
ボクはタシテ君の妻となったナターシャを助けるために、帝国へ潜入をすることを決めた。
「えっ? このまま帝国へ向かうんですか?」
「まぁ、準備してからね。アンナとクウがいれば、料理やお茶の心配しなくて良いからね。オウキを連れて行くと目立ちすぎるから、今回はお留守番だね」
オウキはヒナタに預けることにして、ボクはタシテ君の伝手を使って帝国へ侵入することにした。
クロマがいるので、変装はお手のものだ。
「なるほど、確かにベストなメンバーかもしれませんね」
タシテ君はボクの説明を聞いて動き出してくれた。
現在の状況は、テスタ兄さんの命令によってアクージ領が最前線になって戦いになっている。
そこでネズール伯爵領から、教国を通って帝国へ侵入する。
それが決まったので一旦、カリビアン領へ戻ったボクは妻たちに今後の動きを伝えた。
「わかったわ、リューク。あなたはいつも一つのところにいられない運命なのでしょうね」
カリンがボク抱きしめてくれる。
やっぱりカリンはボクが働くように理解してくれる。
「リューク! 私たちにできることはあるか?」
「リンシャン、君たちには平和なまま子供達の子育てを任せたい。だけど、少しだけ手伝いをしてくれるなら、マーシャル公爵、ベルーガ辺境伯に連絡をとって皇国へ支援をしてやってほしい」
ボクの下へクーガから、指示を仰ぐ手紙が届いていた。
だが、それと同時にクーガは、ボクを頼るだけでなく自ら動き出した。
それは彼が王として、自ら選んだ判断だ。
そして、現在の戦争において皇国の敗北は王国の敗北に繋がってしまう。
だからこそ、クーガには国境を守る防衛戦を頑張ってもらう必要がある。
「物資の輸送ね。カリビアン領から船を出したいけど、途中にある魔国領がどうしても邪魔になるわね」
「ああ、だからマーシャル領やペルーガ領へは、こちらから物資を送り。そちらの物資を皇国に。そして、できるのであればオリガに皇国の軍師として手助けを頼んでほしい」
ボク以上の策士が王国にいるとするならば、オリガをおいて他にいない。
王国側の総大将はテスタ兄さんが取るだろう。
なら、皇国に必要なのは策士に他ならない。
もしもテスタ兄さんが負けて崩壊した時は、何をおいても妻たちを守りに戻ってくるつもりだ。
「今回は、お供できぬのですね」
「シロップ。ボクに代わって、カリンやリンシャン、それに子供達のことを頼む」
「かしこまりました」
ノーラやシーラス、ココロは身重で現在は一番大変な時期だ。
カスミやユヅキなど、忍び集が一緒に来てくれたら心強いが、彼女たちにも別の任務を頼んだ。
「皇国との連絡役を?」
「ああ、あちらへの使者は皇国の者の方が上手くいくだろう」
「旦那様!」
まだ幼いミソラをココロだけに任せるのも心もとない。カスミは悲しそうに、ユヅキは献身的に私にそっと抱きついて、願いを聞いてくれた。
「ミリル、子供達のことを頼む」
「もちろんです。私におまかせください。ルビーちゃんも手伝ってくれますから」
「任せるにゃ」
アカリやリベラも、現在のリューには必要な人材だ。
皆に役目を任せ、リューで役目を持たない。
エリーナ、アンナ、クロマ、クウを共として選んだ。
「カリン。後のことを頼むね」
「ええ、リュークはあなたのしたいことをして、それが一番王国を、そして世界を助けることになるんじゃないかって私は思うの」
「買い被りすぎだよ。ボクはそんな大したもんじゃない。家族と平和に暮らして、100%気持ちいい昼寝ができれば問題ないんだから」
「ふふ、そうね。そのための準備に忙しいだけね」
カリンはやっぱりボクのことをよくわかってくれている。
「任せておいて、リュークがゆっくり寝られる場所を準備して帰りを待っているわ」
「うん。量産型バルはおいていくから、防衛にも使えるよ。もしもの時は」
「わかっているわ」
ボクは帝国に潜入して、いつ帰れるかわからない。
塔のダンジョンでも死を覚悟した。
帰ってくるまでに半年もかかってしまった。
夕食はカリンが作ってくれた料理を家族で食べた。
子供が泣いて騒がしい中で、妻たちに注がれる酒を飲んで楽しく笑う。
こんな当たり前の日常が、ずっと続いてくれるだけでいいのにな。
次の日。
ボクらはオウキが引いてくれる荷馬車に乗って迷宮都市ゴルゴンを目指した。
途中のデスクストス領へよって、アイリスにも挨拶をしておく。
「そうですの。帝国へ行きますの」
「ああ、アイリスもどうか無事で」
「あなたはいつもそうですの。自分の身をもっと大切にしてほしいですの。一つ言えることは、絶対に無事に帰って来てほしいですの!」
アイリスはボクを優しく抱きしめてくれた。
「帰ってきたら、あなたに見てほしいダンジョンがありますの」
「ダンジョン?」
デスクストス領にダンジョン? ボクは聞いたことのない情報に首を傾げる。
「わかった覚えておくよ」
「約束ですの」
「ああ」
アイリスに別れを告げて、迷宮都市ゴルゴンでヒナタにオウキを預ける。
「どうかご武運を」
一年の歳月はヒナタを成長させていた。
今ではノーラに代わって、迷宮都市ゴルゴンの領主代行を立派に勤めている。
「ありがとう」
ボクらは普通の馬車に乗り換えて、ネズール領へと向かった。
荒野に煌めく派手な街が見えてきた。
「ここが」
「ようこそ、リューク様! 我が領へ!」
一週間ほどの旅は、タシテ君の嬉しそうな声で終わりを迎える。まだ先は長いが、それでも休める場所にやってきた。
「ここがネズールパークか」
街全体がテーマパークとして作り替えられたネズール領は、一度は来てみたいと思っていた場所だ。
「さぁリューク様。どうぞ中へ、今宵はここでお休みください」
タシテ君に導かれて、馬車はネズールパークの中へ招き入れられる。
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