前夜 4

《sideタシテ・パーク・ネズール》


 帝国に統一の兆しありと報告を受け、潜ませていた草に協力してもらって、帝国の思惑と動きを調査するために帝国内に潜入していた。


 だが、そこで知り得た情報を、あの方に知らせるために急ぎ帰還した。


 しかし、相変わらず彼の方はマイペースに過ごされているようだ。


「まだ出てきていないのですね」


 エリーナ王女の元で報告を終えて、リューク様がおられた迷宮都市ゴルゴンから帰還されたのを聞いたためでした。


 迷宮都市ゴルゴンに向かわなければいけないようですね。


 リューク様の妾であり、エリーナ様のメイドを務めるアンナ様から、アイリス様とリューク様が結ばれたことを聞きました。


 あのアイリス様を娶られるほどの存在はリューク様しかいないと思っておりましたが、やっぱり私が予想した通りになりました。


「タシテ様、テスタ・ヒュガロ・デスクストス様がお呼びです」

「来ましたか」


 手の者を使って連絡が来るということはそういうことなのでしょう。


 私はリューク様へ手紙を手の者に託して、テスタ・ヒュガロ・デスクストス家の屋敷へと向かいました。


 執事のトーマスさんに案内してもらって部屋の中に入ると、すでに貴族派の重鎮たちが集まっていました。


「よくぞ参った。ネズール伯爵」

「私が最後のようで、お待たせしまい申し訳ございません」


 テスタ・ヒュガロ・デスクストス様を中央に左右に各家の代表者様たちが座っておられます。


・テスタ様の右腕である、バドゥ・グフ・アクージ侯爵様。


・左手にはアイリス様の側近と言われる、チューシン・ドスーベ・ブフ伯爵様。


・カリン様に引き継いだばかりですが、身重なため代理としてこられた。カリビアン前伯爵。


・ゴードン侯爵家からは、王都にあるゴードン家の管理をしている家令がこられていますね。こういう場にノーラ嬢を出しても意味がありませんからね。彼女は戦闘でこそ活躍する。


・そして、最後の人物に目を止めて私は驚いてしまいました。セルシル・コーマン・チリス侯爵殿がこの会合に参加するとは思っていなかった。


「良い。急な呼び出しに応じてくれただけでもありがたい。それに貴殿が持っている情報は貴重だ。どれだけ待ったとしても惜しくはない」

「はっ、ありがたきお言葉」

「うむ。早速ではあるが、状況の説明を頼めるか? 今のこの場にいる者たちは仲間であると思って欲しい」

「わかりました。デスクストス様のお言葉に従います」


 私は帝国で知り得た情報を共有しました。


 リューク様が戻られない今。


 現在の王国を指揮するカリスマ性を持っている方はテスタ様にしかおられません。


「なるほど、帝国の人口は500万人ほどで、王国の人口は200万人ほどか、皇国80万人、教国30万人」 


 三カ国を合わせても、帝国の総人口に追いつくことはできない。


「だが、すべてが戦えるわけではないのだろう?」

「もちろんです。現在、小国家郡を統一するまでに帝国が動かしていた軍の数は30万ほどです」

「うむ」


 軍とは様々なことにお金が発生してしまうものだ。

 武器、食料、人材、移動手段、雑費など。

 

 いくら帝王が戦争をすると言ってもすぐに動ける人数は限られる。

 それでもさすがは帝国と言わなければいけない。


「常に10万単位で動きができるか……」


 テスタ様の発言に、全身の顔が曇る。


 王国は老若男女を合わせても戦える兵はよくて30万人程度。

 それも戦力となる人物や将軍などを思えば難しい。


 なぜならば、常に迷いの森の脅威や魔王の脅威を背後に抱えなければいけないのだ。


 そうなれば、マーシャル家。ベルーガ辺境伯は動けない。

 精々、マーシャル家から出せるのは、元々王都を守護するために用意された第一近衛騎士団ぐらいだ。


 そんな者たちが出てきたところで邪魔でしかない。


「元々、帝国とことを構える場合は、我々が矢面に立たなければ成立はしない。カウサル帝王も、アレシダス王族だけの首を所望するだけであれば差し出したものを。我々貴族の領地までめし上げるなど何を考えているのか!」


 アクージの発言に、他のメンツは困った顔を見せる。


「帝王は、自分以外の権力者を排除したいと考えているのでしょうね。小国家郡で国を持っていた王や長は全て殺されています。戦士や副指揮官などは生かされて息継ぎは行われたようですが、息子などは殺され娘は帝王の妻か、その息子の妻に据えられています」


 私は帝国で見聞きした情報を共有していく。


「つまりは、男は逆らう恐れがあるため殺し。女は子を成して家族になると言うことか」

「そうなります。実際に帝王は妻を三十名以上娶っています。妻がおられる場所は秘密が多く我々でも入り込むことはできませんでした。中で働く者は千を超えているとも言われています」

「とんでもないですね」


 チューシン様は、己が父君が九十八名の奥方を持っていたのを思い出したのか疲れた顔をされている。


「状況は把握できたと思う。帝国との全面戦争は避けられない。その上で、皆に問おう貴族位を返上して帝国に与する者はいるか?」


 テスタ様の発言に、空気がビリっと電気が走ったように鋭くなった。


 だが、私の心は決まっている彼の方の望むがままに。


「私の心は決まっています」


 真っ先に私は声をあげる。


「彼の方の望むがままに、失礼します」


 指揮をするのはテスタ様でも構わない。

 だが、私が従うのはリューク様以外にいない。


「ネズール卿の情報に感謝を」


 それ以降の話し合いを私は知らない。

 ただ、カリビアン領からは物資を、ゴードン領からは武器や鉱物がアクージ領へ運ばれることが決まったと言うことはそう言うことなのだろう。


 帝国との戦争が始まろうとしている。

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