幕間 終 決別

《sideアグリ・ゴルゴン・ゴードン》


【汝らに問おう。ダンジョンを統べる者は誰ぞ?】


 百階層、そこはダンジョンマスタールームとして、塔のダンジョンを管理する権限を与える場所だった。


「うむ、ダンジョンを統べる者とはどういう意味だ」

「そうね、私もダンジョンの最奥には行ったことがあるけど、こんな問いかけは初めてよ」


 そんな困惑する私たちの中で、プラウドが一歩前に出た。


「俺様がダンジョンを攻略したぞ!」

「ちょっと待て! それならば我も攻略者だ!

「そうね。私もよ!」


 三人共が名乗りを上げる。


【塔のダンジョン走破者三名、該当者として認識。専属武器保持による資格保持者三名。ダンジョンマスターの資格を持つ者が三名いることを承認しました。それでは質問を進行します】


 三人を分けるように私たちの間に壁がせり上がり、声も姿も見えなくなった。


 そして、個別の質問が始まっていく。 


【汝に問う。塔のダンジョンを管理する権限を得て何をする】


 他の二人が何を答えたのか知らない。


 だけど、言えることは一つだけ。


 私は《強欲》のゴードン。


「そうね。私は世界中に優れた品物が欲しいわね。優れた職人に優れた品々。そんな素晴らしい者たちに囲まれていたいから、塔のダンジョンと迷宮都市ゴルゴンを支配して、そんな街を作って、人も物も全てを集めるわ」


【汝に問う。他の二人がダンジョンマスターを望んだ時、争う覚悟はあるか?】


「あるわ。だって、欲しいものを手に入れる。それが《強欲》じゃなくて?」


【汝に問う。ダンジョンマスターの権限を受け入れるか?】


「答えはイエスよ。私は欲しいものは手に入れる」


【全ての問いは為された。ならば最後の試練を突破せよ】


 そこには二人が武器を構えて、戦っている姿が目に入る。


 私よりも先に答えて、戦闘を始めているのね。

 ふふ、面白いじゃない。

 この二人と戦って手に入れろって……。


「二人が欲しいなら、私は放棄するわ。どちらかにあげて頂戴」


【それが汝の答えか?】


「ええ、そうよ」


【……汝を試練の塔ダンジョンのマスターとして権限を授与する】


「なっ! どういうことよ! 私は放棄したわよ!」


【ここは神々が作った特殊なダンジョンであり、試練の塔と言われている。それは人々が困難に打ち勝とうとも、間違った答えを出した際に試練を与えるダンジョンとして作られた。そのため私利私欲に走る者、野心を持つ者には権限を授与できない】


「私が仲間に譲渡すると言ったから、認められたってこと?」


【そうだ。だが、そうでもない】


「どういうことよ」


【確かに他の二人は私利私欲を持ち、野心を抱く答えを発した。だが、仲間と争えと言った際に、二人とも他の二人に委ねると答えた】


「なっ、何よ、それ! それなのにどうして私に?」


【野心を抱く者からは、我は自分の国に帰る。このようなダンジョンの管理は要らぬ。どちらかに譲って管理させよ】


「カウサルね」


【私利私欲を持つ者からは、俺様が試練の管理者? はっ、馬鹿にしているのか? このようなダンジョンは要らぬ。俺様に相応しいダンジョンがあるはずだ。どちらかに管理させよ】


「プラウドったら、もう、二人とも面倒ごとを嫌ってるだけじゃない。わかったわ。私が管理者になるわ。それでいいの?」


【承認されました。それでは試練の塔ダンジョンマスター、アグリ・ゴルゴン・ゴードンを登録しました】


 塔のダンジョンを出た私は二人に出迎えられる。


「ちょっと、どういうことよ」


 私が問い詰めると、二人が私を見る。


「お前もわかっているだろう?」


 塔のダンジョンを攻略したことで、この三人で過ごす時間は終わりなんだとわかってしまう。


 腕を組んで立っている戦友たちは笑っていた。


「我はお前たちとダンジョンを攻略できたことで力を得られた。不安はもう何もない。だから国に戻ってイシュタロスを再興するために動くつもりだ」

「俺様も、もう鍛錬は必要ない。今後は貴族として、そして魔王へ挑む力を得るために準備に入るつもりだ」


 二人はそれぞれの目標に向かって旅立とうとしている。


 三人で、楽しく冒険者として過ごす時間は終わりを迎える。


「そう……、そうね。冒険者パーティーフリーダムは今日をもって解散。私も迷宮都市ゴルゴンを、どんな年寄りも豊かで強さと美しさによる繁栄をさせてみせるわ」


 私たちは、別に親友という仲ではない。


 お互いの目的が合ったから、手を組んだだけ。


「我は巨大な国を作る。その時は貴様らの王国すらも飲み込んでくれるわ! その時は我の配下として、魔王を倒すのを手伝え!」

「何よそれ、どうして私たちが配下にならないといけないのよ。あなたが負けてこっちの配下になるかもね」

「俺様が最強だ。お前がいくらデカい国を作ろうと関係ない」

「ガハハハ! 我々は魔王と対峙した仲間だ。あの脅威はいつか排除しなければならぬ。どんな力でもな」


 カウサルは勇者の剣を差し出した。 

 プラウドは双剣を、私は鉄扇を互いに重ねる。


「我ら道は違えども、志は一つなり」

「美とエゴを讃え、最強であり続ける」

「傲慢であろうと、己の道を逸れぬ」


 誓いではない、これは別れの言葉。


 武器を掲げて私たちは互いの道を歩み始めた。 



【sideリューク】


 ボクは過去の話を聞き終えて、ため息を吐いてしまう。


 聞きたくない話を永遠に聞かなければいけないんじゃないかと思って辛かった。


 そのおかげで魔力は完全に回復して、バルをクッションにして、クマを快眠枕にして眠っている。

 

 流石は《怠惰》のクマだ。


 ボクを最高に怠惰にさせてくれる快眠枕へと姿を変えられるなんて、にくいやつだ。


「もう、ここから私たちの活躍の話なのに、そんなに興味ない?」

「まったく」

「どうして、あなたのお父さんが、あなたに毒を盛った理由とか、あなたのお母さんが死んだのとかもあるのよ」


 アグリお姉様は、一人で塔のダンジョンにやってきて寂しかったそうだ。


 ダンジョンマスターになったことで、寿命の概念が薄れ。

 だけど、次世代に町を譲らなければいけないと判断して、ノーラに領地を託したそうだ。


「なんて面倒な」

「お黙り! ノーラは、可愛いでしょ? ちゃんと可愛がってあげているのかしら?」

「まぁね、ノーラは献身的にボクの世話をしてくれているよ」

「そう、あのノーラちゃんが、ふふ、流石はリュークちゃんね。だけど、あなたが誰も成し得なかった王都のダンジョンを攻略したときは驚いたわ」

「誰も成し得なかった?」


 ボクはバルのレアメタルを奪って、魔力を活性化させただけだ。

 ダンジョンマスターなんてシステムはゲームの知識でも知らなかったので、ラッキーだったけど。


「だって、ダンジョンマスターになるためには鍵がいるのよ。王都のダンジョンは鍵がなくて、誰もマスターになれなかったのよ」

「鍵?」

「そうよ。ここでなら、ノーラちゃんにあげた鉄扇がそうよ。他にも聖なる武器と言われている物は全てダンジョンの鍵なの」


 そう言われてみれば、バルがダンの絆の聖剣を解析していた気がする。

 それに力の弱い王都の山ダンジョンから強引にレアメタルをとってバルを作った。


 もしかしたら、バルニャンのことを聖なる武器認定したのかもな。


 リンク繋げたし。


「とにかく、ここは管理が必要なダンジョンなの。攻略したご褒美はあげるけど、管理なんて面倒でしょ? だから戦うのは無しよ」

「あ〜、うん。いらない。ご褒美は転移できるようにしてくれたいいや」

「えっ? そんなことでいいの?」

「うん。他の場所に移動ができて便利だから」

「欲がないわね。もっと金銀財宝とか、一日、私を自由にできる権利とかもあるのに」

「うん、どっちもいらない。便利に移動できる方がいい」

「釣れないわね、わかったわ」


 ボクは試練の塔で傷ついた体を癒す間に、アグリお姉様の話を聞かされて、報酬を受け取った。


 塔のダンジョン攻略者に名前を連ねた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。

サポーター様、フォローして読んでくださる読者様。

いつもお付き合いありがとうござます!


過去編は、ここで終了です。


帝国の帝王。

アグリお姉様。

傲慢な悪役貴族の父。


三人の人柄を知り、帝国編へ突入していく前に。


明日からは、帝国侵略前夜編をお送りします。


リュークを欠いた王国は、テスタとユーシュンを中心に動き出す。


王国で過ごす者たちの、帝国と戦う前夜。


それぞれは何を思うのか? 五、六話を挟んで帝国編突入です。


最強の帝国を作ったカウサルに、三ヶ国同盟はどう対処するのか?

沈黙を守る魔王は動くのか? 

リュークは帝国の侵略に動くのか?


乞うご期待!!


ちょっと言ってみたかったので書いてみましたw


それでは明日からも、どうぞ楽しんでもらえるように頑張りますので、よろしくお願いします。



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