第353話 塔のダンジョン攻略 2

 九十一階層を全員が攻略できることは理解できた。

 だからこそ、次の階層へ上がっていく。


 ゲームをしていない者たちは、この先に現れるボスたちを知らない。

 だが、ボクは塔のダンジョンを攻略したことがある。


 もちろんゲームで、という言葉を続けるが。

 ゲームでは攻略後に、レベルをカンストさせて武器や装備も最強にして、塔のダンジョン攻略が始まる。 


 その際に現れる九十一階層からの魔物たちは、他のダンジョンで登場したなら、ボスとして扱われるレベルの強さを持つ。


 最後に現れる九十九階層は特にヤバい。

 できれば、そこにいくまでに力は温存しておきたい。

 戦えない者が出れば、各階層を突破ごとに帰還させられる。


 死にさえしなければ、ボクが必ず治してみせる。


「リューク、行きますの」

「うん。アイリス。行こう」


 カリスマ性があるからか、アイリスがいるだけで士気が上がる。

 エリーナは大軍を指揮する際に旗印として役目を果たすタイプのリーダーだ。

 大軍の指揮を任せるのに向いている。

 だが、精鋭が集まる中では見劣りしてしまう。


 それに比べてアイリスは、大群であろうと、精鋭が集まった小部隊であろうと、存在が強いために見劣りすることもない。


「どうかしましたの?」

「いや、なんでもないよ。頼りにしているね。アイリス」

「ふっ、ふん。当たり前ですの。わたくしがいればリュークは戦わなくても良いくらいですの」

「ふふ、それは凄く嬉しいよ。ボクは動くのが嫌いだから、アイリスは頼りになるね」

「まっ! まぁ、当たり前ですの!」


 アイリスは褒めれば褒めるほどやる気を出してくれるのでありがたい。

 ふと、ボクの袖を引かれる気がして振り返るとノーラがいた。


「わっちも頑張るでありんす」

「うん。ノーラは最強だからね! 間違いなく頼りだよ」

「ふふん、そうでありんす!」


 アイリスとノーラが率先して、九十二階層へと進んでいく。


「おいおい、あんなノリで大丈夫なのか?」

「ダン先輩。あの三人に割り込むのはやめた方がいいっす。ダン先輩の耐久力でも、一瞬で滅ぼされる戦力っす。まぁ、ダン先輩なら綺麗なお姉さん二人にぶっ飛ばされても強化されそうだから、マジでキモいっすけど」


 あっちの二人も随分と仲が良いようだ。


 サポートをしてくれているシーラスは、聖女ティアとチューシンを交えて話をしている。

 アクージは、仕事を命令するまでは目を閉じて動こうとしない。

 ある意味で荷馬車に乗って動かない怠惰だから、ボクとしてはアクージに共感を感じてしまう。


「九十二階層は未開の地でありんす」


 ノーラの言葉に扉が開いて、真っ暗な部屋の中に光が灯る。


 堕天使は90階層以降最弱。


 そう言われるほど弱い。


 九十二階層に光が灯ると、一気に肩にかかる重圧。


 見え始めた体は大きく黒竜を思い起こさせる。

 だが、その体は獅子のような四足歩行で、蛇の尾と竜の顔をグリフォンの翼を持つ。四種混合キメラだ。


「気持ち悪いですの」

「可愛くないでありんす」


 先頭で部屋へと入った二人が、見た目の気持ち悪い風貌に嫌そうな声を出す。


「油断してはしてはいけません! キメラは合わさる獣の数が増えれば増えるほど各々の力を増幅してきます。見えている範囲で四種。他にも合わせた獣がいるかもしれません」


 シーラスの警戒を訴える言葉に、みんなの気が引き締まる中でボクの前にオウキが近づいてくる。


「ブルル」

「えっ? 戦いたい?」


 荷馬車を外して欲しいという麒麟のオウキ。

 どうやら獣系の魔物だったこともあり、戦いを志願してきたようだ。


「ああ、いいよ。行っておいで。ダン」

「なんだ?」

「オウキと一緒に戦ってやってくれないか? 騎士であるお前の方がオウキと相性がいいだろう」

「わかった。任せろ!」


 ダンは張り切ってオウキと前に出る。


 ハヤセとシーラス、聖女ティアは援護をするために距離を取り戦いを観戦する。

 ボクはバルニャンマットが引かれた荷馬車でアイリスを呼んだ。


「なっ、なんですの? 見なくても良いですの?」

「ああ、オウキが幻獣としてのプライドを賭けた戦いに、ボクが出ていくのは無粋だからね。アイリス。お膝を貸して」

「えっ? まぁ、ふふ」


 ボクはアイリスに膝枕をしてもらって横になった。

 ダンがいれば誰も死ぬことはない。

 これはボクなりの信頼だ。


「わっちもゆっくりするでありんす」


 ノーラも乗り込んできて、マジックバックから本を取り出して読み聞かせてくれる。


「リュークはワガママですの」


 そう言いながらアイリスがボクの頭を撫でてくれる。


 愛おしそうに髪を撫でられると心地よくて、つい眠くなってしまう。

 警戒はバルニャンに頼んでいるので、問題はない。

 ここが塔のダンジョンの九十二階層に来ていることすら忘れそうになる。


「そろそろ終わりそうでありんす」


 数十分が経って、ノーラが外の様子を教えてくれる。


「そうか。なら、決着を見ようか」


 ボクは一眠りから目を覚まして外に出た。

 アクージとチューシンが焚き火をしてお茶を飲んでいた。


「飲まれますか?」

「ああ、もらうよ」


 チューシンが入れてくれた紅茶は香りがよくて気持ちを落ち着けてくれる。


 荷馬車の中は、バルニャンのおかげで振動もなく音も全て遮断されて気づいていなかったが、随分と暴れたようだ。壁や柱が倒れて、床もひび割れている。


「ハァハァハァ」


 吹き飛ばされてきたダンは息を切らせながら立ち上がってこちらを見た。


「なんで、ティータイムしてんだよ! こっちは必死に」


 疲労を訴えるダンにボクが視線を合わせる。


「ダン、信じているぞ。お前の強さを」

「はっ! なら応えねぇわけにはいかねぇな」


 チョロい奴だ。


 ダンはそのまま絆の聖剣に力をためて走っていく。

 途中からハヤセの弾丸が、ダンの眉間に撃ち込まれた。

 急所のはずなのに、ダンは最高にテンションが上がったようで、光の刃を持ってどこまでも伸びる蛇の尻尾を切り裂いた。


「GYAAAAAA」


 同時にオウキがドラゴンの首を蹴り飛ばして、キメラの体を上空から踏み抜いた。


「決着だな」


 時間はかかったようだが、幻獣対決は麒麟のオウキが勝利を収めた。

 厄介な再生能力があったようだが、シーラスと聖女ティアがキメラの力を封じ込めるように動いていたようだ。


「チューシン、ありがとう。お茶、美味かった」

「喜んで頂きありがとうございます」


 イケメンで穏やかな顔をしたチューシンは心から嬉しそうに微笑んだ。



 


 

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