第280話 王国剣帝杯 23

《side実況解説》


《実況》「ベストフォーが出揃いました。今年の王国剣帝杯も、素晴らしい戦いの数々を繰り広げてくれました。彼らを倒して、勝ち上がった勇者を紹介したいと思います」

《解説》「まずは、邪道M騎士、性駄犬師ダンでしょうね」

《実況》「全ての攻撃を受け止め、それでも前進する姿はまさしく変態。騎士とは思えない。戦い方に王国人として恥ずかしいのか、誇らしいのか不明です」

《解説》「続いては、流浪の剣士フリーですね。美少女です」

《実況》「ベスト八までベールに包まれた正体は絶世の美少女。その剣技は剣帝アーサーを彷彿とさせる。姿も似ているので、隠し子なのか? どのような縁があるのか不明です」

《解説》「今回の最有力選手、戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージ」

《実況》「その強さは圧倒的。全方位から張り巡らされる糸は回避不可能。最強はこの男か?」

《解説》「そして、前回大会覇者、剣帝アーサー」

《実況》「一試合目の激闘とは裏腹に、二試合目は、圧巻の一撃瞬殺。その強さはいまだに計り知れない!」


 ベストフォーの紹介に会場中が沸き立つ。


《解説》「一癖も二癖もある者たちが出揃いましたね」

《実況》「そうですね。王国を代表する顔ぶれに、誇らしい気持ちでいっぱいです。剣帝アーサー、流浪の剣士フリー、この二人が王国出身なのか不明ではありますが、王国の剣士と言っても良いでしょう!」

《解説》「強引ですね」

《実況》「準決勝戦は、本日続けて行われます! このまま明日の決勝へ勝ち上がるのは誰なのか? 準決勝の相手を発表します」


 コロッセウムの巨大モニターに映し出される対戦相手。


 剣帝アーサー VS 邪道M騎士、性駄犬師ダン

 

 流浪の剣士フリー VS 戦争請負人ディアスポラ・グフ・アクージ


《実況》「なっ、なんと! 準決勝で師弟対決だ!!! 剣帝アーサーは連戦です。大丈夫でしょうか?」

《解説》「大丈夫だと思いますが、果たして師と弟子はどちらが強いのでしょうか?」

《実況》「圧倒的な強さと攻撃力を持って、勝ち上がってきた剣帝アーサーの強さは疑う者はいないでしょう。それに対して邪道M騎士ダンの強さは未だ未知数。いったいどこまでの強さを持っているのか?!」

《解説》「そうですね。全ての攻撃を受け切ったダン選手は、強くはあると思いますが、計り知れないと言うのが正しいでしょうね」

《実況》「片や最強の矛。片や最強の盾といったところでしょうか?」

《解説》「剣帝アーサーの攻撃を全て受け切れるのであれば、ダンにも勝ち目があるかもしれませんね」


 控えの間の扉が開いて、ダンとアーサーが姿を見せる。


「師匠、出来れば決勝で戦いたかったです。ですが、対決ができる場所まで到達しました」

「戦うタイミングなんて、どこでもいいさ。だが、お前が俺を超えられるとは思えない戦いばかりだったぞ」

「それはやってみて判断してください」

「もちろんだ。ダン」

「はい?」

「これは試合じゃない。死合いだ。俺を殺す気で来い」

「……俺に剣を、そして戦い方を教えてくれたのはアーサー師匠でした。マーシャル流剣術に、アーサー流戦闘術を組み合わせた俺のスタイルをお見せします」

「くくく、言うようになったじゃねぇか! やってみろよ!」


 一段と威圧を増していく剣帝アーサー。

 その殺気はダンに襲いかかる。


 ダンは、殺気と言う痛みを笑顔で受け止めた。


「心地よいですよ」

「くくく、お前はやっぱり変態だよ」


《実況》「それでは王国剣帝杯準決勝第一試合を開始します!」


「ちと疲れているからな。最初から全力で行くぞ」


《解説》「剣帝アーサーの全身が炎に包まれていく! その光景はまるで燃え盛る焔のようだ」

《実況》「体も剣も全てが炎に包まれ、温度など超越した存在として一刀ごとに炎が舞い上がる。炎を操る自由な動きは、軍神イフリートそのものですね!」


「師匠に鎧など意味がありませんね。容易に貫いていく」


 一刀ごとに切られた鎧は溶けて消えていく。


《実況》「アーサーは炎の輝きが、闘志に燃えるダンの瞳に映し出される!」

《解説》「その姿はまさに剣帝の威厳を感じさせるものですね!」


「倒れるなよ、ダン!」


 何度目かわからないほどの斬り合いが行われ、剣速は圧倒的に剣帝アーサーが上。力量ではダンが剣帝アーサーに追いついていないことが伺える。


 だが、ダンは攻撃を受けても決して屈することはなかった。


《実況》「鎧はなくなり、上半身は傷だらけでありながらも、その瞳の輝きは一瞬も揺らぐことはない!」

《解説》「彼の心には不屈の意志が宿っていますね! 戦いの中でさらに強くなっていくように感じます!」


 ダンの剣術は決して、剣帝アーサーには及んでいない。

 だが、一撃一撃を大切にして、且つ緻密に剣帝アーサーを捉えようと重みをましていく。反撃の瞬間には周囲の者すらも驚かせるほどだった。


「おっと、今の一撃は危なかったな」


 まだ、まともな一撃も剣帝アーサーは受けてはいない。

 だが、緊張感が伝わってくるような剣帝アーサーの顔色は、次第に険しくなっていた。二人の攻防が激しく交錯し始める。

 

 ダンの剣と、アーサーの剣が激しくぶつかり合う音が響き渡る。


《実況》「なんと! ダンの剣が剣帝アーサーを捉えた」

《解説》「まさしく自らの肌で、剣帝アーサーの攻撃を感じて、合わせているようですね!」

《実況》「炎と意思、剣帝と聖騎士、互いの攻防が戦闘の熱気で満たされていく」


 いつの間にか、ハイレベルな攻防が繰り広げられることで、ダンのことをバカしていた観客も魅力されていく。

 コロッセウムに集まった観客は、常にグラディエーターたちの戦いを見てきた者たちが多くいる。そんな彼らも魅力する攻防は、剣帝アーサーに圧倒されると思っていた、ダンによって周囲の視線を変えさせる。


 二人の激しい闘志に呼応しているのように息をのむ。


《実況》「アーサーは炎の剣で猛然と斬りかかる! しかし、ダンはその攻撃を受け止めながらも、体を捻って応戦だ! 戦いの中で、ダンがどんどん成長を遂げていくぞ! 何度も倒れながらも立ち上がり、そのたびに周囲の者たちは彼の不屈の精神に敬意を表す」


 実況にも熱が入る。


 激闘が続く中、アーサーとダンの視線が交錯する。


 互いの闘志がぶつかり合い、まるで炎と岩の激突のような瞬間だった。


 彼らの意志がひとつに集まり、それぞれの力が最大限に発揮される。


「まさか、一日に二度も使うことになるとはな。ロートルの体を壊す気か?」

「使わないなら負けますよ」


 それは絆の聖騎士本来の覚醒と言えただろう。


 絆の聖騎士として、白きオーラに包まれたダンは、絆の聖剣へ力を集約させる。


「良いだろう。見せてやるよ。光剣」

「俺も全力で行きます。絆剣」


 剣帝アーサーの体が光りを放ち、光の速さでダンを通り過ぎる。


 ダンは、集約させた絆の剣を通り過ぎる剣帝アーサーへ振り下ろした。


《実況》「どっちだ?!どっちが勝ったんだ?」


 無傷のロリエルを葬り去った剣帝アーサーの秘奥義に、誰もが剣帝アーサーの勝利を確信する。

 

 ダンの体から四肢が砕ける音が響き、会場に悲鳴が上がる。


 だが、通りすぎたはずの剣帝アーサーもまた、ダンの剣を受けて会場の端まで吹き飛んだ。


《実況》「なんと! 互角! 両者相打ちだったようです。これより先に立った方を、勝者として宣言させていただきます」


 会場中が固唾を飲んで見守る中、壁の瓦礫が吹き飛んで剣帝アーサーが這い出るように現れる。


 同時に四肢を破壊されたダンが立ち上がるためにもがきだした。


《解説》「両者一歩も譲らない!」


 静まり帰っていた会場は、互いの選手を応援するように叫び声が上がる。


「頑張れ!」

「剣帝! 立ってくれ!」

「駄犬! 不屈のお前なら立てる!」


 観客たちの声援に応えるように同時に二人が立ち上がる。


「負けたら許さないっす!」


 両者が立ち上がる歓声が飛び交う中で、女性の声が響くと同時に、剣帝アーサーが血を吐いて倒れた。


 四肢が砕け、震えながらもダンは一点を見続けて立ち続けていた。


《実況》「大番狂せ!!!!!勝者ダン!!!!誰がこの結果を予想したのでしょうか!!!」

《解説》「弟子が師を超える。良い物が見れましたね」

《実況》「もう駄犬とは呼べない!!! それほどの快挙を成し遂げた!!! 一人目の決勝進出者は、絆の聖M騎士、性犬ダン!!!」


 会場中に響く歓声はしばらく鳴り響いた。

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