第279話 王国剣帝杯 22

 ウィルヘルミーナ・フォン・ハイデンライヒ伯爵、イシュタロスナイツ第四席。


 タシテ君が調べてきた情報によって大物が釣れたことに、ボクは内心で焦りを感じていた。

 そのため、その者が商人として王国内へ侵入していることを知って、取り扱っている商品のことを調べた。


 戦略戦術ゲーム。


 それは、駒を動かすボードゲームでありながら、リソースやダイスを使った。

 カードゲームの要素を組み合わせた、複雑性を含んでいた。

 ゲームを行いながら、奴の本質を見極める必要があったので、ボクはウィルとゲームをする中で、性格、言動、思想、作戦、どの程度、自分を晒す人間なのか見極めることにした。


 その一つとして、勝敗の決着時の賭けを吹っ掛けた。

 何をさせられるのかわからない状況になれば、人は勝たなければならないと本質を出しやすくなる。


 そして、実際にウィルに勝ってこちらの思惑通りに動かす必要もある。


 それでは、ウィルに勝ためにはどうすればいいか?


 単純な話だ。


 攻撃を通す、通さないをこちらで操作できれば問題ない。


 ダイスの目をこちらで自由に出せるようになれば、相手が出す目を予測してある程度操作ができる。ボク自身にそれを訓練する時間も根気も存在しない。


 だけど、魔法陣を正確に描くことができるバルに身を預け、会話の意識をボクが行えばダイスの操作はそれほど難しくはない。

 あとは、戦うフィールドをこちらが指定して。ルールに則り作戦を考えただけだ。


 戦う場所、駒の優劣、ダイスの出目の操作。


 運否天賦などで、勝負を決めさせるわけにはいかない。

 

 全ては、勝負を行う前から勝ちを確信して行われていた。


 そして、わかったことはウィルの器の小ささと、プライドの高さだ。

 こちらが取引相手や、自分よりも若い人間だと、幾つか自分の中で負けたとしても言い訳が立つと判断して負けを宣言した。


 ゲーム中の作戦は、兵は惜しまず、一気に攻め滅ぼすことを考える人間。それも華々しく目立つ方法で行うことを好む。


 自分の作戦に自信があり、それを疑うこともしない。

 戦争に負けても、指揮官は高みの見物ができる場所にいて、傷を負わない位置で終わらせる。


 ボクはイシュタロスナイツと聞いたことで過大評価していた自分を恥じた。


 ジュリアは、剣技や作戦。どちらも素晴らしい力量を見せてくれた。

 そして、ジュリアを迎えにきた巨人族のイシュタロスナイツ第二席は、あの当時のボクですら身震いするほどの強さを感じられた。


 だが、第四席を名乗るウィルからは、戦えば負けるかもしれないという恐怖は感じない。作戦もお座なりで将軍や指揮官というタイプでもない。


 それでも第四席に座る力量が、やつにはあるということか?


 ボクの見極めが甘いのかと、正体を暴くのではなく利用することにシフトを切り替えた。


「まだ見えていない底があるのかもしれない。


 イシュタロスナイツにも様々な人間がいるのだろう。

 完全に把握したと思ってボクの方が踊らされているという最悪を想定しておく必要もある。


「だが、指揮官として行いそうな作戦は幾つか理解できた。場所、人物、そして行いそうな作戦はなんとなく見えてきた。最後は行うべき時間だが。それもわかったような気がする」


 今回のターゲットとなりえる人物。


 王太子のユーシュン。

 辺境伯のオリガ。

 

 二人に絞られた。


「あとは作戦を潰すだけだ。魔物使い。お前は逃げれると思うなよ」


 ボクが闘技場を出ると愛すべき女性たちに出迎えられる。


「シロップ、首尾はどう?」

「はっ! 敵の探索を終えて場所の特定も叶いました」

「ルビー。相手の力量は?」

「うーん、強くはあるにゃ。だけど、脅威と言えるほどじゃないにゃ。ただ、得体の知れない不気味さを感じるのにゃ」


 シロップとルビーには相手の見極めを頼んだ。


「リンシャン。オリガの調子はどうだい?」

「バルと話した後から、少し塞ぎ込んでいたようだが、数日かけて元気は取り戻しつつある」

「エリーナ。兵は揃いそうかな?」

「辺境伯に今回の件で兵を割いてもらう準備はできました。指揮は私が」


 リンシャンとエリーナにはオリガに友人として、見張りと護衛。

 さらに話し相手として、過ごしてもらっていた。


「ココロ。悪い気は強くなっている?」

「時は近いです」

「カスミ。調査は終えたかい?」

「闘技場の地下はすべて頭に入っています。いつでも案内可能です」


 ココロには、一番大事な時を読んでもらっていた。

 そして、カスミに狙われる場所として特定された、コロッセウム内の地図を作成してもらった。


「皆、ありがとう。さぁ仕上げに取り掛かろうか」

「「「「「「はい!!!!!!」」」」」」


 ボクは彼女たちと共に、秘密裏に事件を防ぐために動き出した。


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《side実況解説》


《実況》「王国剣帝杯第二回戦第四試合です!!!残すカードは二人。今大会無傷の男。妖星ロリエル」

《解説》「教国十二使徒の名は伊達ではありませんね」

《実況》「対しては、前回大会覇者剣帝アーサー!!!! 剣豪イッケイとの戦いはまさしく死闘。互いの力を存分に発揮した名勝負でした。片や無傷。片や満身創痍で迎える試合は、力量差を覆すことができるのか?!」

《解説》「ロリエル選手の力量によりますが、大番狂せを期待せずにいれませんね」


 控えの間が開いて両者が現れる。


 ロリエルの登場に黄色い声援が飛び。

 アーサーの登場に野太い声が響き渡る。


 互いに人気のある選手なだけに会場だけでなく、モニターの向こうでも熱気が溢れていた。


「剣帝殿、君と戦えることを光栄に思うよ」

「おうおう、好きに光栄にでも思って、そのまま死ねや」

「口が悪いねぇ〜。それとも疲れているのかな? オジサン」

「うるせぇよ。ガキが」


《実況》「両者の睨み合い!!! それでは王国剣帝杯第二回戦第四試合を開始します!!!」


 先手を取ったのは剣帝だった。


 炎を纏う剣がロリエルに襲いかかるが、ロリエルは涼しい顔で、剣を避けた。


「熱い熱い」

「舐めているのか?」

「いえいえ、あなたの力量を見定めているだけですよ。確かに強い。ですが、今のボクは新たな目標ができましたから」

「目標?」

「ええ、フリーちゃんと戦うってね」

「フリーと戦うだと?」

「ええ、僕は美しい少女に目がないんです」


 ロリエルの発言に、荒々しい炎が吹き荒れ、それは静かに収まっていく。


「お前はそういうやつか」

「何か?」

「戦いを楽しむつもりだったが、もういい」

「えっ?」


 それは剣豪イッケイの時には見せなかった剣帝アーサーの秘奥義。


 これまで全ての攻撃を避けてきたロリエルの絶対回避すら通じない。


「光剣」


 熱は次第に光にまで昇華されて、剣帝アーサーは光の速度でロリエルを通り過ぎた。


「へっ?」


 ロリエルが気づいた時には、その四肢は砕かれ、立っていられる状態ではなかった。


「女は三十を超えてからがいいんだよ。もっと男を磨いておけ」


 崩れ落ちて動けなくなるロリエル。


 あまりにもあっけない決着にコロッセウムは言葉を失う。


《実況》「なっ何が起きたのか全く理解できない!!! ですが、決着。勝者剣帝アーサー!!!やっぱりこの男は強かった!!!」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

あとがき


どうも作者のイコです。


新作宣伝です。

ドラゴンノベルズに挑戦ということで、新作を投稿しております。

《ログ・マギテック》

SF✖️ファンタジーをテーマに書いております(๑>◡<๑)


読んで応援いただけると嬉しいです!

よろしくお願いします(´༎ຶོρ༎ຶོ`)

 

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