第278話 王国剣帝杯 21

《side実況解説》


《実況》「コロッセウムに集まる観客たちが、響き渡る剣と音楽の交響曲に魅力されております」

《解説》「流浪の剣士フリーは、これまで一度も攻撃を受けることなく、ローブを脱がすことすら誰もできなかったのです」

《実況》「それもここまで!!! 吟遊詩人ソレイユの音を使った激しい攻撃にとうとうそのベールが脱がされた!!!」


 現れたのは少女だった。

 

 その姿はある人物に酷似しており、その剣は誰もが知る人物の剣と同じ物だった。


《実況》「剣帝? まさか、剣帝縁の者でしょうか? その戦闘服。その剣はまさしく剣帝と同じ物です!」

《解説》「自由民である剣帝アーサーの素性は謎のベールに包まれている。まさか、その出自を同じくする者なのか?!」

《実況》「誰も説明してくれないまま、戦いが続いていく!!」


 フリーの素性や性別を誰も知らなかったため、コロッセウムは驚きに包まれた。戦闘を行う二人にとっては、素性などどうでもいい。

 ソレイユの音魔法の力が、次第に増していく。

 しかし、フリーは剣技のみで、音の攻撃を捌き、前へと出る。


 広間の中には一瞬の静寂が広がっていく。


 ソレイユも驚きの表情を浮かべた。

 彼女のたわわに実った胸元に、フリーの剣が突きつけられた。


「どうしてそこで止めたのかしら? 舐めなているの? お嬢ちゃん?」

「あなたでは私に勝てない。攻撃範囲が広いからフードが飛んだだけ」


 フリーは無表情で剣を振るい、近距離で放たれた音魔法を避けた。


 彼女の剣術は精妙で、女性であることを一切の障害としていない。


 吟遊詩人のソレイユは、笛で奏る音魔法から、踊りへ移行して魅惑のダンスを披露する。


《実況》「ソレイユ選手、今までに見せたことがない動きです。これは一体どういうことだ?!」

《解説》「一切の音がしません。闘技場から聞こえてくる音がまったくなくなりました。無音の世界で二人は動き続けています」


 ソレイユが踊る音も、フリーの剣を振るう音もしない。


 戦闘の流れに乗じて再び魔法の音が爆発する。


《ブォーーーーーー!!!!!!》


 重低音の法螺貝のような音が、コロッセイム内に響き渡ると。


 フリーの体が闘技場の端まで吹き飛んでいく。


「音は溜めて飛ばすこともできるのよ」


 彼女が舞を待っていたのは、音を吸収して溜めていたのだ。

 一気に放たれた音は、フリーの逃げるスペースを奪い。

 威力も範囲も回避不可能な一撃を放った。


《解説》「さすがは決勝リーグの戦いと言えるでしょう! 情熱と技量に圧倒されますね」

《実況》「熱気がこちらまで伝わってくるようです。戦いは終盤に差し掛かります。フリーの剣技がソレイユの魔法をかいくぐるのか? それともソレイユの音魔法が剣技を圧倒するのか? 目が離せません」


 壁に叩きつけられたフリーは、ゆったりとした動きで脱力してみせた。


「何をするつもり?」


 揺れるフリーに、警戒を強めるソレイユ。


 フリーの姿が消えて、鋭い剣技がソレイユを襲う。


「音があなたの動きを教えてくれる!」


 切れ味が一段と磨かれたフリーの剣技を、ソレイユは紙一重で躱していく。

 しかし、その美しい肌に、次第に傷が増えて疲弊していく。


「次の一撃で終わらせてあげるわ!」


 我慢の限界にきたソレイユが、避けながらダンスを始める。


 最後の一撃を放つため踊り出したソレイユに、フリーが迫る。


「レクイエム!」

「フリーダム!」


 互いの技と技が同時に発動して、爆風が巻き起こる。


《実況》「どっちだ! どっちが勝ったんだ?」

《解説》「美女と美少女。どっちの勝利なのか!!!」


 爆風が止むと、フリーの剣がソレイユの魔法を引き裂いて、戦いの勝者を決定づけていた。闘技場に再び歓声が響き渡る。


 フリーは落ちていたフードを拾い上げて立ち去っていく。

 ソレイユは、深々と息を吐いて降参を示す動作を見せた。


《実況》「決着!!! 王国剣帝杯第二回戦第三試合勝者フリー!!!」


 フリーの正体が明らかになったことで、コロッセウム内は大いに盛り上がりを見せた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

《sideリューク》


 駒数はボクが圧倒的に多く。リソースもボクの方が潤沢にある。


 これがボードゲームでなく、本当の戦争であれば。

 兵士は多く。食料も、武器も、資金もボクが上だということになる。


 ウィルは回復したリソースと合わせても七しか持っていない。

 ここからの逆転劇があることを恐れて、伏せカードをしたが、特殊カードでどこまで挽回できるのかわからない。

 

 ボクはこのゲームの全てを把握しているわけではない。

 知らない特殊カードが出てくれば逆転はあり得るかもしれない。


 だが、ボクの思考に反して、ウィルは降参を示す動作をする。


「どういう意味かわかっているのか?」

「はい。私の負けです。いや〜バル様は実にお強い。てっきり初心者だと油断した私が悪かったのです。しかし、これはゲームですからな。負けたとしても構いませんよ」

「そうか、なら約束は覚えているか?」

「もちろんでございます。本日お持ちした商品は全て無償で提供させていただきます。優秀なバル様と繋ぎを作れるのならお安いことだと考えましょう」

「もう一つあっただろ?」

「もちろん覚えております。私の出来ることであれば何なりとお申し付けください!」


 椅子から立ち上がったウィルは、恭しく一礼をした。


 ボクはずっと攻防を見守っていたモースキー・マイドに視線を向ける。

 マイドは頷き、裏から商品を持ってきた。


「はて? これはなんでしょうか?」

「これはボクとこちらにいる商人が開発した商品の数々だ。まだ王国以外では売っていない品々になる」

「ほう、これはこれは」

「これらの品々を帝国で売ってきてくれないか?」

「なるほど、商売の仲介ですか。またそれはどうしてでしょうか?」

「そうだな。ボクの後ろにいる者は、元々皇国と王国で仕事をしていた商人なんだ」


 ウィルがモースキーへ視線を向けたので、一礼をして答える。


「確かに商人だと一目でわかります」

「さすがだな。この者には色々と便宜を図ってもらっていてな。今回の戦争で職を失うのは哀れに思えたのだ。そこで商人として、復帰してほしいと思っているんだ」

「なるほど、新事業の開拓に私を使いたいと」

「そうだ。ウィル。お前にできるか?」


 あえて挑発するような物言いで問いかけると、ウィルは鼻の穴を大きくした。


「もちろんでございます。私以上に適任者はいないと判断させて頂きます」

「うむ。助かる。ウィルとはゲーム仲間でもいてほしいと思っているんだ。今後も協力できれば嬉しい」

「これは! 喜ばしい申し出。このような申し出であれば、賭けなどしなくても、いくらでもお受けしたものを」

「ウィルも言っていたではないか、あれは遊びだ。賭けがあった方が楽しいだろ」

「まさしく、私も夢中になりました」


 ボクは手を差し出した。


「今後の商売に」

「喜んで」


 ウィルはボクの手を掴んで、契約を結んだ。

 契約には魔法紙をしようして、ビジネスについてビッシリと項目を書いておいた。もちろん、ウィルの前で不備がないか聞かせた上で互いの名前を書き込む。


「モースキー・マイド殿ですね」

「よろしゅう頼み申します。ウィル殿。後々は、帝国にも支店を持ちたいと思とりますよって、何かと便宜は図っていただければ助かります」

「それはよろしいですね。お力をお貸ししたいと思います」


 それ以降は二人で話し合いを行なってもらうために、ボクは部屋を出た。


 ウィルの人となりを知り、使い道も見定めた。


 これ以上、ウィルに割く時間がもったいない。

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