第259話 王国剣帝杯 2
ベルーガ辺境伯邸に招かれたボクらは豪華な屋敷に圧倒されていた。
辺境ということもあるが、王都にあるデスクストス家の屋敷が四つは入りそうなほど広い敷地に、しばらくは馬車の中だった。
ようやく屋敷に到着すると、王都に城と変わらない大きさをした屋敷が建てられている。豪華絢爛という言葉がここまで似合う屋敷は珍しいだろう。
王都が都市を守るために、城壁を作りその限られた空間で様々な建物を作っているのに対して、ベルーガ辺境伯領は、領全体を大きな壁が守っているので、土地の規模が違う。
「どうぞ、こちらへ。ここは私個人の家です。皆様にも、こちらに泊まってもらうつもりです。そして、あちらに見える母屋にお祖父様がおられます」
オリガの家だけで、王都の城クラスの屋敷が建てられている。
さらに奥には、ここよりも大きな屋敷を建てられていた。
「会えるのかは、お祖父様の体調を聞いてからです。今日は到着したばかりですから、ゆっくりと休んでください」
それぞれ一室を与えられ、ボクは部屋に入って思う。
「あ〜久しぶりのふかふかベッドだ。もう動きたくない! このまま怠惰に過ごしたい」
部屋はボクが住んでいた離れに似ている。
ベッドはフカフカで居心地がいい。
オリガは、それぞれに専用のメイドをつけてくれていた。
ベッドやテーブルのところにある、ベルを鳴らすとどこからともなくメイドが現れる。
「お呼びでしょうか?」
音もなく現れるメイドさん。
メイドさんがボクのお世話をしてくれるのはありがたいんだけど、見覚えがある。
「ねぇ、君ってカスミ?」
「はい。ココロ様共々、こちらでお世話になることになりました。此度はバル様のお世話をさせていただきます。必要であれば何なりとお申し付けください。もちろん、夜の処理でも問題ありません。拷問でも、激しいプレイでもお受けします」
「いやいや、流石にココロの友人にそれはしないけど」
前からそうだったけど、何かあるとすぐに体を差し出そうとしてくる。
「旦那様」
部屋がノックされてココロが現れる。
ボクはベッドに座り直すと、いつの間にかカスミの姿は消えていた。
「いらっしゃい。ココロ」
ボクが座ったまま出迎えると、カスミとは違う。
もう一人の忍びであるユズキが扉を開いて、ココロを招き入れた。
ココロは入ってくると、そのままボクの胸へと飛び込んできた。
「旦那様。ココロは、ココロは旦那様にお会いしとうございました」
ココロには彼女が皇国の者である以上、君とは一緒になれないと言い続けてきた。そして、ココロはボクの死を利用して自分も皇国を出るために、死の偽装を行ったそうだ。
皇国から出るために。
その協力をしたのが、カスミとユズキ、そしてオリガだった。
「どうしてそこまで?」
「もちろん旦那様のお側にいたかったからです」
「国を捨てるほどの思いか……」
考えてみれば凄いことをココロはやってのけた。
彼女は皇国にとっても重要人物なのだ。
それが国を出るためとは言え、死を偽装することは容易ではなかっただろう。
「皇国は歪な国なのです。古き時代に囚われ、知恵者と言われる老害たちが国を仕切り、若き者たちを死地へ追いやる。弱者は力あるものに縋り、力あるものたちは弱者を助けようと共に沈んでいく。あの国は緩やかに滅びに向かっております」
いつの時代も栄華を極めた国は滅びを迎える時代の流れだ。
不変的なものは存在しない。
王国もまた、貴族派と王権派で争いが起きている。
それは、いつ滅んでもおかしくはない状態になっていた。
帝国も現在は強くはあるが、多くの小国を植民地として得て、国を吸収して大きくなっても、一人の帝王がいつまでも君臨できるわけじゃない。
帝王が変わればまとめることが困難になり、いつかは滅びを迎える。
どの時代でも、栄華を極め、戦争を起こし、衰退の一途を辿る。
それが時代の流れというものだ。
「ココロはそんな未来が見えたのかい?」
「いえ、漠然とあの国の未来は滅びだと」
「そうか、占い師のココロが言えば本当になりそうで怖いね」
小さな体をしているココロを膝の上に乗せて、彼女はボクにされるがままその身を預けた。
ボクはサラサラとした綺麗なココロの髪を撫でてやる。
「占いは全てが当たるわけではありません。高確率で訪れるであろう未来を予測しているに過ぎないのです。そして、今回の王国剣帝杯は様々な思惑が絡み合って複雑な未来が見えています。最悪は街全体が火の海になってしまう未来」
彼女は占いをするために、魔力と生命力を消費する。
王国にいたならば、それが属性魔法に含まれる力であると解明ができたかもしれない。
だが、皇国にいたからこそ生まれた力だとも言える。
皇国の陰陽術は、自然の生命力と、自身の生命力を削って使っている。
ココロは、普通の陰陽術は使えない。
王国に来て魔法も習ったが、魔法も使えない。
代償として得た力が、未来を見通せるほど高確率で当たる占いの力だ。
「火の海か、それは困るな。ボクはオリガ殿にココロを救ってもらった借りがある」
「借り?」
「ああ、君の命を助けてもらったお礼をしないとね」
「はい! ココロも協力します!」
彼女はこれまで気を張ってきたのだろう。
腕の中で頭を撫でている間に眠りに落ちた。
天然で不思議な印象を持っていた彼女が、気丈にここまでを生き抜いてきたことは、この戦乱の時代に生きるに相応しい強さを示したことになる。
「ココロを受け入れるしかないね」
王国も、皇国も、ボクらを縛りつけるものは何もない。
ボクはココロをベッドに寝かせて、共に眠ることにした。
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あとがき
どうも作者のイコです。
この度、別作品になりますが、
《道にスライムが捨てられていたから連れて帰りました》が
ライト文芸特別賞及び漫画賞をW受賞しました。
これにより、書籍化と漫画家が決まりました。
本当にありがとうございます!!!
二作品を読んでくださっている読者様もたくさんいて、すでに多くのお祝いコメント頂いて本当にありがとうございます。
また、こちらの作品だけしか読んだことないよ〜という方がいれば一度読んでみてほしいです(๑>◡<๑)
これからも皆さんが面白いと思ってもらえる作品を書けるように頑張りますので、応援よろしくお願いします!!!
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