第252話 実家にご挨拶 前半
チリス領は当主が変わって政策をガラリと変えたようだ。軍備に力を入れた領民への税を安くして、領民の負担を減らしたようだ。
セシリアは、ユーシュンの妻として王妃教育が始まったことはタシテ君の連絡で知っている。
三年次になって、今年の代表としても過ごしているそうで、我儘姫が随分と立派になったものだ。
チリス領内は、セシリアの兄であるセルシルが領主となって領地を収めている。ガッツほどではないが、チリス領主セルシルも武人として名を馳せている。
チリス領の雰囲気は活気を取り戻しているから、知識はあるようだ。
「寂れた漁村という雰囲気だったはずだけど、活気があるね」
「セルシル殿は武人だが、チリス領の貧しさを嘆いていたからな。自ら勉強をして領地経営の内政を頑張ったのだろう」
「なるほどな、噂とはまた違うということか」
「チリスの騎士隊は、マーシャル領に匹敵する強さを持つと言われているからな」
マーシャル家とチリス家は元を辿れば同じ血筋になる。
デスクストス家とゴードン家が同じなように、貴族の中にはそういう近い血縁は珍しくない。
ゲーム内でも、仲間を集める際以外はほとんどイベントのない領地なので、ボクとしてあまり印象がない。
「前よりも早く抜けられそうだね。シロップ。どんな感じかな?」
「領境までは後二日ほどです」
前回は一週間ほどかかった気がするので、随分と早くなったと思う。季節の変化もあるかもしれない。
前回は、寒い時期に訪れたが、今回は気候が穏やかで空気も暖かい。
「ルビーはこの辺は知っているの?」
「あんまり知らないにゃ。王国は亜人が住み辛い国にゃ。その中でチリス領は一番住みにくいにゃ」
「そうなのか?」
「そうにゃ。マーシャル領はいつも人手不足で人手を募集してるにゃ」
「まぁそれはなんとなくわかるな」
「他の貴族派もブフ家以外は、亜人を家族として接してくれる領が多いにゃ」
「なるほどな」
「その中で、チリス領は通人至上主義教の教えが強くて、亜人に対して凄く冷たいのにゃ」
「なるほどな。真面目過ぎるが故に教えに従っているということか」
ボクとはやっぱり合わないね。
誰かに縛られて、誰かの教えに従うことはボクには難しそうだ。
それから二日ほどで領境に到着した。
「さぁ、マーシャル領だね」
「ああ、母上に会えるのが楽しみだ」
ルビーやシロップの親はリューへ移り住んでもらっている。そのため普段から会えるのだが、マーシャル前公爵様にリューへ来て欲しいということはできない。
「良いのだ。兄上が王都にいる以上。マーシャル家の指揮は父が、内政は叔父上がいなければ回らぬ」
隠居したと言っても、猛威を振るう迷いの森を押さえ込むマーシャル前公爵様は、十分に働いていると思う。
マーシャル領は、魔物の行軍に関係なく、魔物が蔓延る率が高い。
それはダンジョンマスターになって理解できることだが、マーシャル領そのものがすでに迷いの森の領土に含まれている。
しかも人と魔物が争うことでDMPをより多く貯めていることが窺える。
そして、ダンジョンの中だからこそ魔力の濃度が濃く。魔法が練り難いように細工されていた。
「前回は分からなかったことが、こうやって立場が変わればわかるってことか」
「どうかしたのか?」
「ううん。そろそろ実家だね。今日は一晩泊めてもらってから出発しよう」
「ああ、存分にもてなしてもらおう」
リンシャンの実家であるマーシャル家があるソードについたところで、マーシャル騎士たちが出撃していくところだった。
「うん? おう。リンシャンではないか?」
そう言って声をかけてきたのは、マーシャル前公爵本人だった。
「父上! どうされたのですか?」
「うむ。ソードから少し離れた村で魔物が発生したと連絡があってな。討伐に向かうところだ。おう、婿殿も一緒か。どうだ? 狩りに行かぬか」
うわ〜めっちゃめんどい。
だけど、流石に断るのは気がひけるね。
雪道ではないし、いくだけなら馬車に乗っていればいいかな?
「承知しました。シロップ。馬車の進路を」
「はっ!」
「うむ。親子の共同戦線だ。行くぞ! 我に続け!!!」
着いて早々に戦場に駆り出されるのは、マーシャル家特有なんだろうね。
ボクらはマーシャル騎士団についていって村の討伐をした。
そこから巡回するということで、結局半日連れ回された。
馬車に乗っているだけではあるけど、ずっと移動していて休めると思ったところに移動となると気持ちが辛い。
「今宵は我らが娘、リンシャンとその婿であるバルニャンが助っ人に駆けつけてくれた。その手際はこの場にいる騎士ならば、すでに確認したことだろう。馬車にいるだけで村々を救う手腕はさすがである」
マーシャル様が気を利かせてくれたのか、宴の場には、正規のマーシャル騎士ではなく。前回、旅を共にしたバッドたち傭兵が集められていた。
「バルのお頭! お久しぶりです」
「バル隊長! リンシャン姫様と羨ましいぞ!」
バカな者たちに囃し立てられながら、飲む食事は微妙な味がする。
飲み会を見ている分には好きにしてほしいが、こうやって、酒の席を離さないようされるのは面倒だ。
「婿殿! リンシャンはどうだ! 元気にしているか?!」
すでに酔ってしまったようで、絡んでくる面倒なマーシャル様。
ボクは適当に話を合わせる。
「ええ、元気にしていますよ」
「戦いしか知らぬ不器用な女だと思っていた。自分も騎士になるのだと言って強さばかりで。それがお主と出会ってからは女の顔をしておる。ガハハっハ、良いことだ」
娘の変化を嬉しそうに語る父親も珍しい。
「リンシャンが幸せであるのならば我はなんでも良い。このような時代だ。戦争もあり得る。幸せを掴める方が良いのだ。そうだ。模擬戦をしよう!」
マーシャル家の者たちは時間があれば模擬戦をしたがる。
ボクは面倒になったので。
「いいですよ。それならボク対全員にしましょう」
「はっ?」
「「「「「「ああ?????!!!!」」」」」
ボクの発言に全員の顔色が変わる。
「おいおい、婿殿。それはあまりにもマーシャル騎士団をバカにしすぎではないか?」
「いえいえ、むしろ、それでも一撃も食らわない自信がありますよ」
「なっ! いいだろう!!! 皆の者、出会え出会え!!!」
この場にいる者たちだけでなく、さらに追加を呼んだ、マーシャル様にボクは笑みを浮かべる。
「これでもやるか?」
「ええ、どこからでもどうぞ」
「いいだろう! 婿殿を倒した者にはボーナスを弾むぞ! 皆の者かかれ!!!」
マーシャル様の発言と共に全員を眠らせる。
「この領地全てがボクの魔法の範囲ですよ。お義父さん」
ボクはマーシャル様だけは室内に連れて行って、他の者たちはそのまま寝かせることにした。
「終わったのか?」
「リンシャンはお義母さんと話せたかい?」
「ああ、ありがとう。父上の相手をしてくれて。楽しそうな顔をしておられる」
「そうか?」
「ああ。私の部屋に行こう」
マーシャル様を送り届けて、リンシャンの部屋に行く。シロップやルビーは隣の部屋を用意され、ボクはリンシャンに抱きしめられて眠りについた。
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