第251話 守る理由

 僕はカリビアン領の深海ダンジョンを手に入れることができたため、順調にダンジョンレベルを上げることに成功した。


 それにより、ダンジョンを介して王都とリューの行き来がしやすくなった。


 深海ダンジョンから範囲を広げて、リューの街もダンジョンの中へと組み込んだ。

 これにより、リューの宮殿からでも王都のダンジョンコアに移動することができるようになった。


「深海ダンジョンの魚や魔物もDMPとして換算できるのは大きいな」


 人よりも数が多い海の中は、DMPの宝庫といってもいい。

 リューの街をダンジョンにしたことで、アカリと開発を進めていた電気に関しても大きな発展を遂げつつある。


「魔力を使わない電化製品の開発は、少しずつ進んでるで」

「太陽光発電の充電式にしてよかったな。この方が環境を壊すことはないからね」


 電気を生み出すことで、環境を破壊したいとは思っていない。

 そのため電気の原理を理解してもらって、エネルギーは太陽や風などの力を借りるだけにしておきたい。

 

 だから、全員に広める物ではなく。

 リューの街のエネルギーの一つとして使うつもりだ。


「リューク様。旅の用意ができました」

「ああ、ありがとう」


 研究の続きはアカリとリベラに任せて、ボクは数名のお供と共にベルーガ辺境領に行くことにした。


「私は管理をするつもりだから、リンシャンを連れて行ってあげて」


 テスタ兄上が、戦争に出向いているのでカリンは残ってリューの運営をする。

 護衛として、ルビーの両親をつけた。

 レベルがカンストしていて、カリビアンの騎士たちよりも強いのだから他に任せるよりは安心できる。


「領主様の護衛は我ら夫婦に任せて欲しいにゃ!」

「任せるにゃ!」


 両親も語尾はにゃなんだね。

 いいんだけど、強いしね。


 そのためボクと一緒に旅をするメンバーは、バルニャン、リンシャン、ルビー、シロップの四人になった。


「それじゃあ行ってくるけど、あまり無理はしないでね」

「もちろんよ。リンシャン、シロップ。リュークをお願いしますね」

「はっ! カリン様の代わりを務めてみせます」

「リューク様は昔からお守りしてきましたので、お任せください」


 カリンに声をかけられた二人が、敬意を持って答えている。

 その姿を見ていて、ボクとしては嬉しい。


「王国剣帝杯が終わったら戻ってくるからね」

「ええ。無事にね」


 リューの住民に見送られて、僕らは二度目のチリス領へ向けて旅が始まった。

 二度目になれば、シロップもある程度は状況がわかっているので、領境の通り方や馬車の走らせ方もお手のものだ。

 前回は迷いの森の魔物が領境近辺まで出没していたが、今回は魔物はそれほど多くない。

 カリビアン領に比べればチリス領の方が多いが、魔物の行軍が起きている時に比べれば、天と地ほどの差がある。


「のんびり快適な旅だね」

「また旅ができて嬉しいにゃ」

「ルビーとも二度目だからね」

「今回の旅は気楽にゃ」

「私はマーシャル領に入ってからの数日だけだったからな。こうして数ヶ月の間、リュークと共に旅ができるのは嬉しいぞ」

「はは、それはボクも嬉しいよ。ただ、ボクはほとんど何もしないよ。寝て、本を読んでいるだけだよ」

「それでもだ。リュークはスリープアローで魔物を撃退してくれるから、襲われる心配はない。馬車でのんびりと旅ができるなど、今まで考えたこともなかった。それにバルニャンのおかげで馬車の中は快適に過ごせる」


 リンシャンは、マーシャル領で過酷な戦いをしていた。

 その際の行軍は旅や遠出というよりも、戦場に赴く気持ちが強がっただろうから、のんびりは出来ないかな。


「ねぇ、リンシャン。君はまだ戦いたいかい?」

「えっ? どういう意味だ?」

「君はこれまで戦いの中で生きてきた。だけど、今は戦いから離れて平和に過ごしているよね」

「ああ。そうだな」

「今君が歩く道に後悔はないかい?」


 僕は彼女が強い人だと知っている。

 それは多くの者を助けたいと思って生きてきたからだ。


「ない!」

「えっ?」


 ボクが思った答えとは違い。

 リンシャンはハッキリとした声で、真っ直ぐにボクを見て否定を口にした。


「私は、大勢の者たちのために戦ってきた」

「ああ」

「だが、それは自分の意思ではなく。貴族としての義務を果たしていただけに過ぎない」


 それはマーシャル家の教え。

 騎士として、弱きを守り、強くなって弱き者のために戦う。


「義務や責任から解放された私は。たった一人の人間を守るための戦いができればいい。そして、その一人と私が大切だと思う者たちを守る戦いができればいい」


 それは真っ直ぐにボクを見て、ルビーを見た。


「私が背負う重荷は、マーシャルの名を捨てた時点で終わりを告げた。教えは私の胸にある。だが、顔も知らない誰かを守る戦いを終えて。顔を知り、共に笑い、共に生きる者たちを守る戦いをできれば、私はそれでいいさ」


 どこまでも君はリンシャンなんだね。


「今の私はリンシャン・ソード・マーシャルではない。ただのリンシャンだ」

「そうか、なら旅を楽しむことができそうだよ」


 もしも、マーシャル領に入った時、リンシャンは誰かを守るために飛び出していくかもしれない。

 だけど、ボクはリンシャンが話した覚悟を知ることで、リンシャンが守りたいと思う物を守る手伝いができればいい。


「リンシャンのことは私が守ってやるにゃ!」

「ありがとうルビー。私もお前を守ろう」


 互いに握手をするかっこいい二人を、ボクはギュッと抱きしめた。


「おい!」

「ふにゃ!」

「君たちをボクは最高に大好きだよ」


 二人の頬にキスをした。


 シロップが馬車を運転してくれているので、二人を脱がすことはないが二人を大切だと改めて思えた。


「楽しい旅にしよう」

「ああ!」

「楽しみにゃ!」


 ボクはリンシャンの膝枕でゆっくりとすることにした。

 リンシャンは、優しくボクの頭を撫でてくれた。 


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