第199話 大規模魔法実技大戦 3

【sideリンシャン・ソード・マーシャル】


 白チームの作戦会議を開くために私たちは教室と個別練習室を借り受けた。

 教室の席には白チームとして選ばれた五十名が席についている。

 彼らは教壇に立つ、エリーナと私を見ている。

 この状況に、私は少しばかり誇らしい気分になる。


「白チームのリーダーを務めさせて頂くことになりました。エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダスです。どうぞよろしくお願いします」


 座っている者たちに視線を向けると彼らは一様にエリーナへ尊敬の眼差しを向けている。一部の例外はあるが、それでも団結力は高い。

 私は補佐としてエリーナの横に立ち、彼ら一人一人の顔を見る。


「指揮官については、こちらの方で決めさせて頂きました。異論や意見があれば発表後にお願いします。それでは」


 白チーム指揮官


・王様、エリーナ・シルディー・ボーク・アレシダス

・元帥、リンシャン・ソード・マーシャル

・軍師、留学生ジュリ

・勇者、ダン

・回復師、聖女ティア


「以上が私たちが考えた指揮官候補です。いかがでしょうか?」


 白チームの三年次たちがざわめき、話題は二人の人物に集中する。


「どうして軍師に留学生が? 聖女の回復師は理解できるが」

「勇者はダンか、あの駄犬にはお似合いだな。まぁ強さは本物だしな」


 軍師の留学生ジュリと勇者ダン。

 話題と疑問を集めたのはこの両者だった。


「よろしいだろうか?」


 男装の麗人に見える出立をしたジュリの姿に、女性陣が感嘆のため息を溢す。


「なんだ?」

「どうして私が軍師なのかお聞きしたい」


 指揮官は、こちら側で決めたことなので本人の許可は取っていない。

 そのことに三年次の他のメンバーもざわめきが大きくなる。


「簡単な話だ。軍略の授業であなたがトップであり、また転校生であるあなたが戦闘で役に立つと思っていないからだ」


 私の答えに眉を顰めるジュリ。

 不服な点があるようだが、軍師は戦闘には参加しない。

 軍全体を見渡し作戦を元帥に伝えるだけだ。

 元帥は、軍師の意見を聞いて百名の兵士に作戦を伝える役目をもつ。


「言ってくれる。私が戦闘で役にたたないと?」

「ああ。私たちアレシダス王立学園の三年次まで登り詰めた者たちの研鑽は生半可な者ではない」


 私は威圧を持って、ジュリを見た。

 本当に思っているわけじゃない。

 今回の私は、奴に頼まれてジュリを軍師に選択した。

 そして、それを本人に知らせないで、他の者たちに彼女の力を示さなければならない。


「ならば、実力のない私が軍師になるのはおかしいのではないか?」

「ああ、そこで皆にもジュリの力を見てもらう準備をした」


 私は白チームの者たちを連れて、個別練習室へと連れて行った。

 すでに魔力を流し込んで、空間を広げている。

 

「これは凄いな」

「ああ、今回の森ダンジョンのフィールドを模した。さらに兵士も用意して、指揮官だけは白チームから選んでもらう」

「なるほど、模擬戦というわけか」

「そうだ。これで互いに小隊を指揮して、力を示せばいい。己の役職も自由だ。もちろん、私は元帥をさせてもらう。こちらの軍師は、ジュリ殿の代わりに、ネズール君してくれるか?」

「リンシャン嬢の申し出であればお受けします」


 こちらはジュリを抜いた四名はそのままに。

 ジュリは白チームからメンバーを適当に選んだ。


「それでは開始する。ルールは簡単だ。一週間を三時間に凝縮した時間軸で互いの王を見つけて倒せば勝利とする」

「わかった」


 私は百名の兵士から五十名を連れて、私とダンの指揮によって相手陣地へ先制攻撃をかけた。余力があるうちに敵陣を攻めるのは戦闘のセオリーだ。

 しかも、戦闘でダメージを受けたとしても、復活ができるのだから戦いを挑まない道理はない。


「むっ、相手チームはどこに?」

「姫様、相手の陣地はもぬけの殻だ」

「なっ!どういうことだ?」

「俺たちが攻めてくるのがわかっていたのか?」

「まさか! 戻るぞ」


 私が舐めていたわけじゃない。相手が私の思考を上回った。

 戻った陣地では、百名全員に攻め落とされた本陣がそこにはあった。


 ジュリに剣を向けられたエリーナがそこにはいた。


「これでも私は戦闘で役に立たないかい?」


 エリーナはアンナやルビーに守られていた。

 それを突破して王を取ったのなら、実力は十分だ。

 だが、それ以上にその大胆な戦術に驚かされる。

 

「いいや。役に立ちすぎる。むしろ、喜んで軍師としてあなたを迎え入れたい。その大胆な戦略は、私を補う戦術眼を持っている。力を貸してほしい」


 リュークがここまで見極めていたのかわからない。

 だが、リュークの推薦したジュリは戦略戦術において、私では考えられない行動を取れる人物だ。


 私の願いに白チームから拍手が巻き起こる。

 それを見たジュリは深々とため息を吐いた。


「全く、逆にはめられたのは私ということか、わかった。引き受けよう」


 全員が、ジュリの実力を認めたところで、今後の作戦などを話し合い。

 個人練習場を使って、模擬戦形式で何度かシミュレーションが行われた。


「私では思いつかない戦術や戦略ばかりだ」

「これならリュークにも勝てるな」

「ダン、お前は何を言っているんだ? あのリュークにそう易々と勝てると思っているのか?」


 私の指摘に浮かれるダンが肩を落とす。


「私は勝つつもりで戦略を立てるつもりだよ」


 そんな私にジュリが勝利を宣言する。


「ああ、期待している。そのための準備は怠らないし、手伝うから指示をくれ」


 完全に白チームは、ジュリを信じて部隊を動かす練習に重ねた。

 

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