第195話 学科試験の結果発表

 学科試験の結果が、掲示板に表示された。

 ボクは、ここまでやるかと思うほどの結果にドン引きしている。

 結論から言えば、平民&転校生チーム以外の三チームの圧勝という形になった。


 平民は魔法や実技よりも、勉強を中心にアレシダス王立学園に入学を果たす。

 しかし、今回に限り貴族側にチートアイテムが出回ってしまったことが、ここまでの大差の原因だ。


 それこそ、リンシャンチームに加わったミリルの存在が貴族側へ大きな貢献を果たした。彼女は実技では役に立てないと、学科でリンシャン陣営を補佐するために組み込んだ。


 しかし、その力の源であるミリルノート。

 

 ボクも何度かお世話になったことがあるのだが、このノートがヤバい。

 まず、見やすくてわかりやすい。

 それだけでも凄いのだが、今回のテスト範囲がわかっていたのではないかと言いたくなるほど。完璧にテスト範囲がまとめられていた。


 ミリルが作り出した。ミリルノート改がヤバかった。

 貴族の中には、基礎学などと馬鹿にしている生徒も多い。

 成績は二の次になりかけていた。それこそ王権派の中でもリンシャンチームは武闘派のため、基礎学を疎かにしていた者も多くいた。


 だが、ミリルノートのおかげで軒並み成績を上げて、平民チームを圧勝してしまったのだ。

 また黒の塔で暮らす、貴族派の者たちは文武両道であったため、ミリルノートを手にいれ、武闘派を圧倒しただけでなく。

 黒チームが学科部門一位。エリーナ率いる、白チームが二位。リンシャン率いる、赤チームが三位となった。

 

 平民チームも頑張ったが、転校生たちは基礎学を二年間学んでおらず、王国と他国では常識の違いもあり、答えられる問題と答えられない問題ができて点数が伸び悩んだ。


 数学はできるが、王国語や王国の歴史などは、転校生たちには難しかった。


「ここまで大差になるとは」


 ボクの呟きにリベラは勝ち誇った顔で、ダンたちを見ている。

 巨大掲示板に成績が表示されていて、誰でも見ることができる。その場に集まった者たちの顔色は明暗がハッキリと分かれてしまった。

 青チームは、今年の結果に愕然とした暗い顔をしていた。

 毎年、学科だけは一位を取っていた青チームが、最下位を取ったのはここ数年では久しぶりのことだった。


「つっ、次があるさ。みんな元気出していこう」


 ダンは悲壮感漂うチームメイトに発破をかけるように声をかけるが、誰も聞いていない様子だ。

 平民の者たちにとっては、ダンの言葉を聞く余裕などない。

 それも仕方ないだろう。

 今回の成績は彼らにとっても、就職に繋がる一歩なのだ。

 知識を持ち、どこかの貴族に召し抱えられるのか、それとも王国や商人からお声がかかるのかという、スカウト合戦に繋がる学科試験がまさかの最下位は辛い。


 もちろん、個人の成績も張り出されるのでスカウトは来てくれるだろう。

 しかし、武闘派の者たちと変わらない成績の平民を取る貴族は難しいかもしれない。

 商人の中には、想定して話を持っていく者もいるので問題はないが、今年のスカウトは減りそうだと思ってしまう。


「可哀想なことをしましたでしょうか?」


 ミリルの呟きにボクは首を横に振る。


「いいや。今年の彼らが不運だったと言うしかないね。例年の平民クラスの生徒たちと変わらない成績はとっている。だけど、他のチームが成績を上げてしまったことで影が薄くなってしまった」


 ミリルは申し訳なさそうな顔をしているので、頭を撫でてあげる。


「ミリルという最終兵器が、ボクという悪魔に繋がっていたことが、彼らにとっては不運だったね。ミリルは実力を発揮したんだ。自信を持って」


 別にダンや平民チームを潰そうと思ってしたわけじゃない。

 ただ、ミリルが凄すぎた。

 そしてボクが怠惰であるが故に、効率的にテストを攻略することを考えた時。

 ミリルノートを使うことに何の躊躇いもなかったことだ。


「さて、学科総合一位のミリルにボクがお祝いで奢ろう。そういう約束だからね」


 今回は、どの教科でも、トップに立った者はボクからご褒美をもらえるという賭けをしていた。

 各ヒロインたちへ公正なつもりだった。

 だけど、ミリルノートを作り出した張本人が本気を出した。


 各テスト満点で他を寄せ付けない強さを見せて、成績首位を独占したのだ。

 そのためボクへの願い事を言って良い権利をミリル一人が勝ち取った。


「はい!テストで首位になった回数分。リューク様の一日を私に頂きます」


 先ほどの平民への申し訳なさはどこへやら。ミリルも随分と逞しくなった。

 尽くすだけでなく求めることを知り、細く薄幸の美少女一年次とは変わり、元気溌剌の白衣の天使様になってグイグイと手を引くほどになってくれた。


「今日は食事だね。ミリルは何が食べたい?」

「リューク様と食べられる食事であれば、何でも嬉しいです」

「そうか、なら最近行きつけのオリエンタル料理屋があるんだ。そこから始めようか?」

「はい!」


 ふと、ダンの姿を見れば、聖女ティアがダンに味方して生徒へ声をかけたことで、数名の男子生徒が立ち止まり、魔法試験の打ち合わせを始めていた。

 平民の中でも魔法を使える者たちがいるので、彼らの指導によって、使えない者たちも無属性魔法の強化を更に訓練するようだ。

 ダンにとっては得意分野なので、張り切っている様子が見れた。

 

 学科試験では、問題による対決なども考えられていたようだが、総合基礎試験の成績によって先生たちが更なる平民を落とす行為になると中止した。


 そのことをシーラスが教えてくれた。


「リューク様。今日の夜もお相手してくださいね」


 ミリルはいつの間にそんなことを覚えたのだろうか? 旺盛なミリルに身を任せることにしよう。

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