第191話 姫巫女
学園に来るようになってから楽しみを見つけていた。
それは誰もいない場所でバルニャンに乗って眠ったり、本を読んだりすることだ。
今日は一番のお気に入りの場所に来ている。
広大な敷地の中でも自然に溢れ景色の良い。
そう、ここは森ダンジョン跡地だ。
跡地といっても滅んだわけじゃないけどね。
今は休眠期で魔物は出現しない。
生き物もダンジョンには寄り付かないから、本当に静かでいい。
バルニャンに使ったレアメタルは森ダンジョンコアのだからか、バルニャンも森ダンジョンにいるのが好きな様子だ。
いつもよりも上機嫌なのが、伝わってくる。
「ここはいいね。休眠期に入っているから魔物が出ない代わりに静かで、本を読むのに最適だ。それに生徒たちもここは用がないとやって来ないからね。ボクらの特等席だよ。バルニャン」
「(^O^)/」
意思だけではあるが、バルニャンから返事が伝わってくる。
ボクはバルニャンに乗って本を読み。
バルニャンはぷかぷかと森ダンジョンを彷徨う。
誰にも会わないで自分の時間を怠惰に満喫できる、この時間がとても好きだ。
不意にサーチに人の気配を感じて、悲しくなるまでは……。
「それで? 君は誰?」
目の前には巫女装束を身に纏った黒髪パッツン前髪をした女の子がボクを見上げている。どこか呆然とした顔は可愛いと思う。
「心は、ココロ」
「ココロ? うーん、君の衣装は皇国のものだから皇国の人?」
「そう。ココロは皇国から留学してきた。一年」
「一年次の君がどうしてここにいるの?」
ボクの質問に対して意味がわからないと言う顔をされる。
「ココロは、どうしてここにいる。ココロは人が苦手。だから人がいないところを探していたら、ここに辿りついた」
「人が苦手? でも、仕事で留学して来たんじゃないのか?」
「ううん。違う。ココロは導かれてここに来た」
「導かれて? そうか。君は巫女か?」
「どうしてココロのことを知っているの? ココロは
ボクはマイペースな彼女の雰囲気が嫌いではないと思えた。
「どうしてもいいじゃないか」
「そう、ならいい。ココロはここにいたい。いい?」
上目使いに問いかける姿は捨てられた犬のようだ。
「好きにすればいいさ。ここは元々森ダンジョンだからな。学園の敷地であり、学園の生徒なら誰でも使っていい場所だ」
ボクがそれを止める権利があるわけじゃない。
「じー」
使ってもいいといったけど。どうしてボクのそばにいてボクを見ているのだろうか? しかも気づいて欲しいからなのか、見ている効果音を自分で言っている。
「何かな? じっと見ているのも気になるけど。どうして声に出すの?」
「ココロは、占いが得意」
「うん。唐突だね」
「ココロは、占いが得意」
「壊れたロボットみたいに、同じことを繰り返すね。それはボクのことを占いたいってこと?」
ボクの問いかけに首を振る。パッツンサラサラ黒髪が揺れて面白い。
「占いは、絶対じゃない。だけど、特定の未来がわかる」
「へぇ〜凄いね」
ボクは視線を本に向けながら、話しを聞いて欲しそうにしているから聞いてあげる。
「占いによれば、王国にはココロの運命の人がいる。ココロは運命の人を探すためにここに導かれてきた。そしたら、あなたがいた」
「うむ。君の運命の相手がボクだと?」
「そう。ココロはあなたの顔を見ていた。とってもイケメン」
「君も可愛いよ」
「そう?嬉しい。美男美女。子供が産まれるのが楽しみ」
「うん? 子供? えっと、君は何を言っているのかな? ボクにはたくさんの妻がいるから一夫一妻制の皇国人とは結婚できないよ」
雷に打たれたような背景が現れて、ココロが驚いた顔を見せる。無表情のように見えるけど。意外に感情豊かな子で面白い。
「ココロは運命の人と結婚できない?」
「う〜ん、君が皇国から出て王国の人になれば結婚はできるけど。皇国は姫巫女の君を手放さないだろ? 君のお姉さんに会ったけど。随分と頭が固そうな人だったよ」
「ココロのお姉ちゃんを知っている? メイお姉ちゃんは戦巫女。戦うことを生業にしている巫女は脳筋」
自分の姉を脳筋扱いするココロは見た目の天然な印象はと打って変わって毒舌だった。
「クク、脳筋か。確かに脳筋だったな。ココロは面白いな」
「ココロは面白い。嫁にしてくれる?」
「いや、だから皇国の子は嫁にできないって」
またも雷が落ちて、ショックを受けるココロ。なんだろうか? 邪魔されたことが嫌だと思っていたのにいつの間にか楽しくなっている。
「む〜。ココロはあなたを気に入った。綺麗で優しくて、ほわほわする」
「ほわほわはわからないけど。気に入ってくれてありがと」
「ココロは、またここに来てもいい?」
「いいけど。ボクはいないかもしれないぞ」
「大丈夫。占ってからくる。あなたに会える場所を事前に占う」
「占いの無駄遣いだな」
もっと政治や天災など。厄災について占うのが姫巫女の仕事のはずだ。ボクはゲームを思い出すが、ココロというキャラは出現しない。
姫巫女と呼ばれる存在はいるが、結局はお助けキャラで姿はない。皇国の姫君は、名の一択で攻略もできるが、基本は同盟国の相手として接することになる。
「いい。あなたに会えるなら」
「好きにすればいいさ」
「する。他の人は苦手。だけど、あなたのそばにいると落ち着く」
そう言ってボクらはしばらく森ダンジョンでのんびりとした時間を過ごした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます