第190話 皇女の直談判
アカリに呼ばれて、個別練習場へ赴いた。
教室の中へ入るとアカリの他に客人が待っていた。
和風の袴衣装に藍色の髪を櫛で留めている美少女は、東洋の顔立ちをしているからか、どこか童顔に見えてしまう。
「あなたがリューク・ヒュガロ・デスクストスですね!」
童顔とは裏腹に気が強そうな瞳をボクに向けるのは、皇国の皇女だ。
「ハァ、アカリ」
「ごめん! ダーリンがこう言うこと嫌いなんはわかってんねんけど。どうしてもって頼まれたら断られへん関係やねん」
必死に謝るアカリに、もう一度ため息を吐いて、皇女へ意識を向ける。
「……で?何?」
ボクは鬱陶しい者を見るように彼女に問いかけた。正直、面識のない相手と会話するのはすごく疲れる。
しかも、明らかにこちらに敵意を向ける相手と話が成り立つとも思えない。こういう会談は本当に嫌だ。
「キヨイ皇国が第一皇女。メイ・カルラ・キヨイと申します。この度はご足労頂きありがとうございます」
ボクは皇女の前に用意された椅子へ座る。
いかにも態度が悪く見えるように足を組み、偉そうな態度をとる。
「それで? 何の用? 皇女様と話すことなんてボクにはないんだけど」
チラリとアカリを見れば首を振られる。
どうやらアカリも知らないようだ。
「あなたが私にどのような態度を取ろうと構いません。言いたいことは一つだけです。アカリ・マイドを私どもにお返しください」
ボクがアカリに視線を向けると全力で首を横に振る。
どうやらアカリの意思を尊重してと言うわけではないようだ。
「本人が望んでいるようには見えないけど」
「あなたのような人間にアカリを預けておけるはずがないではありませんか!」
怒鳴り声を上げるメイ皇女にボクは顔を顰める。
「私共も馬鹿ではありません。あなたのこれまでの所業を調べさせて頂きました。皇国には独自の諜報機関がおられることは知らないでしょう」
忍者だよね。後ろに控える女性も忍者だってわかるよ。服装がね。
「まず目につくのは、複数の女性を侍らせておられることです。アカリ一人を愛しているのであればまだしも、複数の女性となんて穢らわしい」
皇国は一夫一妻制を取り入れている。この辺は堅物のリンシャンよりも頭が硬い。リンシャンは王国の民として、子孫繁栄のために一夫多妻にも理解がある。
まぁ、常識が違う以上、ボクのことを責めたくなる気持ちもわからなくはない。
「それで?」
「次に、成績は優秀に感じますが、学科一位を誇る平民のミリルさんのノートを奪い取り悪用しているそうですね」
「ほう。それはミリルが言ったの?」
ボクはまたもアカリを見るが、アカリは全力で否定している。
「あなたの悪事を言うはずがないではないですか! あなたからなんらかの圧力をかけられているに違いありません」
アカリは真っ青な顔になって、慌てて否定を口にしようとして護衛を務める者に取り押さえられる。抑えたのがくノ一の女性でなければ、ボクはこの場で三人を【怠惰】に落としていたかもしれない。
「ふ〜ん、それで?」
「公衆の面前で婦女子に狼藉を働いたことも報告にあがっています」
「ほう、狼藉ね。ボクは何をしたの?」
「本人は隠されているようですが、獣人の女性であるルビーさんに剣帝杯の最中に頭をなで、以降人前であろうとペットのように扱っていたと多くの男子生徒が証言してくれました」
うん。多分ルビーのファンの男子が告げ口したのかな? 今のところは全て心当たりはあるね。屈折して伝わっているようだけど。
「デスクストス公爵家の者であるだけで、危険視する存在であり。またあなた自身、魔を体に宿しておられますね」
魔と言われて、ボクにまとわりつく体の重みを思い浮かべる。【怠惰】の呪いと言うんならまさしく魔なのだろう。
「以上を持って、アカリをあなたに預けておくことなどできません。何よりも彼女の才能は皇国の宝です。彼女自身にはこれからも皇国のために働いてもらわねばならないのです」
全てを言い切ったと言わんばりに勝ち誇った顔をする童顔皇女様に、ボクは最後の言葉だけは気に入らないと判断した。
「メイ皇女。いや、もうお前でいいか。お前はアカリを利用したいだけなのか?」
「なっ! それはあなたでしょ! あなたはアカリの才能に気づいて、アカリを便利に使っていたことをも調べているのですよ。婚約者とアカリに働かせて自分は他の女性と遊んでばかりいるあなたこそアカリを利用している張本人です」
ボクから魔力が溢れ出す。メイ皇女はビクッと体を震わせ、すぐさま横に控えていた護衛の侍がメイ皇女を庇う様に前にでる。
「悪くない実力だ。それに聖なる武器だね。君の名は?」
「ヤマトと申す」
「そうか、ヤマト。刀から手を離すなら今は許そう。だが、離さないのであれば」
「離さないでのあれば?」
メイ皇女の従者としてやってきた侍はいい腕をいている。ダンと同じかそれ以上の力を感じる。だけど、聖なる武器を全て使えているかと言えば、まだまだとしか言えない。
「潰すぞ」
ボクはレベルが限界突破したことで、新たなスキルに目覚めていた。
王威。闘気や武威の上位互換であり、纏う生命力を使って相手を押さえつけるができる。
動かなくても、相手を倒せてラクだね。
「ぐっ!」
「次はない」
膝を折るヤマトから視線を外す。
「メイ皇女、アカリを離せ」
ボクの王威にメイ皇女がくノ一に指示を出す。指示をもらう前からボクの王威によって身動きは取れなくなっていたが、こういう時はボクの指示に従ったという格付けが大事だ。
「ダーリン。ウチはダーリンに利用されているなんて思ってへんよ」
「ああ。わかっている」
ボクの胸に飛び込んできたアカリを抱き止めて、優しく頭を撫でた。
「それでメイ皇女、もう一度問う。お前はアカリの才能が皇国に必要な才能で、皇国のために働けと? そう言ったな?」
「……言ったわ」
「今までアカリを放置してきた皇国がいきなりやってきて、アカリの才能を目の当たりにして、もっと皇国のために働くべきだと言う。しかも、そこにはアカリの意思など関係なく、ボクの大切な人を奪うって?」
王威がじわじわとメイ皇女の首を絞めるようにまとわりついて、重圧をかけていく。
「ぐっ!」
「お前は為政者であるかも知れないが、最低な人間であることはわかった。金輪際、ボクの側に近づくことも、ボクの大切な人の側に近づくことも許さない。良いな? 約束を破ればお前には災厄が待ち受けていると思え」
ボクは王威を解いて立ち上がる。アカリとクウを左右に侍らせて個別練習室の扉を開いた。
「お前は自分の目的のために頑張るのだな。ボクとは違う道で」
アカリが心配そうに振り返ったが、ボクはそっと腕を離そうとすると、アカリはボクの腕をグッと掴んだ。
「いやや。私はダーリンの隣にいたい。離さんといて」
「お前の願いを叶えよう」
ボクはメイ皇女に見せつけるようにアカリとキスをして扉を閉めた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます