第110話 塔のダンジョン 10日目
《sideダン》
エリーナがリーダー代理になった日から、チームの雰囲気はあまり良くない。
姫様とはあれからあまり話していない。
何を話せばいいのかわからないからだ。
エリーナも気を使ってなのか、指示以外は声をかけなくなった。アンナは無口で話をしない。
そんな日々が10日ほど続いた。
ただ、毎日ダンジョンへ挑戦していたことでレベルは30を超えて階層も少しずつ上がっているけるようになった。
11日目のダンジョンに、リュークが現れた。
「今日はみんなの戦いを見せてもらうから、リーダーはエリーナのまま頼む。ボクは数に入れなくていいから」
リュークがいつもの調子で参加しただけなのに、ピリピリとしていた雰囲気が何故だが和らいだ気がする。
「別にリュークがいても、私がリーダーなんだからね」
「ああ、わかってるよ。よろしくな」
後方では、リュークとエリーナが話をしている。
エリーナも昨日までの険しい顔から、どこかツンツンした態度ではあるが、雰囲気は柔らかい。
「今日まで何をしていたんだ?」
「ちょっと用事でね。落ち着いたからしばらくは付き合えるよ」
姫様も、2人の会話に混じってリュークと話している。
「リン…… もう、怒ってない?」
エリーナが姫様へ不安そうな瞳を向ける。
「ああ、エリーナのあれはいつものことだ」
「ごめんね」
「いいさ」
リュークはなんのことかわかっていない様子だが、2人がリュークを介して、久しぶりに会話をしている光景に俺も嬉しくなる。リュークは凄いやつだ。チームに現われただけで空気を変えてしまった。
よし。これなら行ける。俺もリュークに成長したところを見せるんだ。
俺たちはリュークがいない間に、各々の戦い方を考えて助け合うようになつた。
4人だけでも、20階層へ到達することができたんだ。
アレシダス王立学園から修学旅行に来ている生徒の中で、二番目だとシーラス先生に言われた。
一番目に到達したのはリベラのチームだ。
悔しいが、向こうは5人で、こっちは4人だから仕方ない。
四人でここまで来た、こちらの方が凄いはずだ。
「さぁ、ボスへ挑戦するわよ」
「ああ」
「行こう」
エリーナはあの日が嘘のように、冷静に戦術を練って攻略を進めてきた。
11階層から現れたゴーレムは巨大で、倒すことも大変だった。4人で力を合わせたからこそ、経験値を稼ぐことができたんだ。
「ミスリルゴーレム。さすがはレベル4のフロアボスね」
20階層で現れたボスは、ミスリルゴーレムだ。
今までサンドゴーレムやアイアンゴーレムを倒してきた。その上位ゴーレムは今まで以上に強そうに見える。
「4人で力を合わせれば倒せる!」
戦いが始まれば分かる。
今までのゴーレムとは確実にレベルが違う。
剣は弾かれ、魔法を弾き返してきた。
防御力はアイアンゴーレムよりも遥かに強固だ。
4人で力を合わせても、ダメージを蓄積できている気がしない。
「強力な魔法を使って一気に倒すわ!時間を稼いで」
エリーナが詠唱に入り、3人で時間を稼ぐ。
ミスリルゴーレムの行く手を阻みエリーナから遠ざける。
「離れて!」
エリーナの声で、3人が散開する。
「コキュートス!」
時を凍らせる魔法。
全てを凍らせる魔力が、ミスリルゴーレムへ放たれる。
「バカが」
俺が聞いたのは、リュークの声だった。
極大広域魔法コキュートスがミスリルゴーレムに当たって……
「ウソよ!」
エリーナが叫ぶ。
全員の前に反射したコキュートスが降り注いだ。
正面にいたエリーナは防ぐことも出来ない。
「《怠惰》よ」
紫色の魔力がリュークから溢れ出して、エリーナを襲った魔法を打ち消した。
それだけじゃない。全員を包み込む強力な魔法障壁が俺の前にも存在している。
ここまで綺麗で強固な障壁を見たことがない。
「エリーナ!貴様は、仲間を殺す気か!」
リュークの怒声には、全員の心を震え上がらせるほど強力な威圧が含まれていた。
直接、言われたエリーナは涙目になっている。
「わっ、私は」
「貴様の魔法は確かに優秀だ。統率力も悪くない。だが、状況判断が甘い。ミスリルゴーレムは、その強度に目を奪われるが、弱点は存在する」
俺たちは、リュークの魔法障壁に守られたまま、ただ見守ることしかできなかった。
リュークは使っていたクッションを槌に変えて、ミスリルゴーレムの関節を狙って攻撃をしていく。
人に模したゴーレムにも関節があり、関節部分は衝撃を受けるたびに軋んでひび割れていく。
「バル!」
槌を手放したリュークの隣に紫の髪をした美少女が現われる。
「行け!」
両手を刃物のように伸ばした美少女は、リュークがひびを入れた関節を攻撃して砕いていく。
「エリーナ!見ていろ。魔力とは、こう撃つんだ」
リュークの身体から真っ白な魔力が浮かんで光の矢が生まれる。
「無属性魔法に攻撃魔法はないんじゃないのか?」
俺の声を聞いている奴なんていない。
ただ、その美しい光に誰もが見惚れてしまう。
「バル、飛んでいけ!」
放たれた矢は四肢を破壊されたミスリルゴーレムに弾き返されることなく、コアを貫いた。
「スゲー」
本当にリュークはスゴいやつだ。
いったいどれだけの修行をすれば辿り着けるんだ。
「スゲーよ。リューク!俺たちがあれだけ苦労した敵を!」
リュークがフロアボスを倒したことで、三つの魔法陣が出現する。
「出たな」
「えっ?魔法陣は二つだけじゃないの?」
リュークの言葉、エリーナの疑問。
「ダン」
「どうした?」
「こっちへ」
「???」
俺はリュークに呼ばれるがまま、リュークの隣に立つ。
「なんだ?」
「お前が入るべき魔法陣だ」
そう言って、リュークは俺の背中を押した。
「リューク!何を!」
姫様の声がしたときには、俺は魔法陣の中へと消えていた
―――
――――
――――――
――目覚めよ
―選ばれし者よ
「誰だ?」
――『我を取れ』
―『我を取れ』
『我を取れ!!!』
「はっ!」
俺が目を覚ますと、そこは祭壇のような場所だった。
光が差し込んだ祭壇の上には、一本の剣が突き刺さっていた。
「お前が俺を呼んだのか?」
返事はない。
だけど、俺には分かる。
こいつが俺を呼んだ。
剣を握る。
『汝に問う!力を何に使う?』
さっき聞こえた声だ。
「力は、みんなを守るために使う!」
親父とリュークが教えてくれた。
『汝に問う!貴様が持つ力とはなんだ?』
「俺にはまだ、リュークみたいな力はない。だけど、リュークにも負けない俺だけの力がある。負けない心!折れない心!不屈の魂だ」
『汝に問う!力がほしいか?』
「俺はリュークにはなれない。それでも強くなってマーシャル領を、大切な人を守れる力がほしい」
『汝の答え……しかと、我に刻んだ。選ばれし者よ。我を抜くがいい。貴様が心から大切な者を守る時、相手と心を通わせられたなら真なる力を与えよう』
「俺は強くなってリュークと肩を並べるんだ!!!」
目映い光が俺を包み込んだ。
その先には……
「帰ってきたな。なら、今日は解散する」
リュークが凄く疲れた顔をしていた。
チームメンバーは、俺を待っていてくれたんだ。
「よく戻った!ダン!」
姫様の顔を久しぶりに見た気がする。
心配してくれていたのが分かる。
「ただいま。姫様」
「ああ。おかえり」
手に握られた剣を見て、自分の中に新たな力が宿ったことが感じる。
今までよりも、ずっと強い力が俺に宿ったんだ。
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