第84話 奴隷の解放

《sideクウ》


 世界は凄く残酷で平等なんて存在しない。

 それを私は何度味わえばいいのだろう。


 私の両親はいい人たちではなかった。

 もっと小さなときは、いつもお腹が空いていて、いつもお腹を満たすことばかり考えていた。


 少し大きくなって孤児院に売り飛ばされた。

 私にだって両親が私を売ったことは理解出来る。

 本当は嫌だった。迎えに来てほしかった。

 だけど、両親は私の前でお金を受け取って笑顔でバイバイと私に言った。


「ぶひひ、今回も大量ですね。まぁそれもいいでしょう。さぁ皆さんついてきなさい」


 凄く大きい人?は私たちを部屋へと連れて行ってお話をしました。


「あなた方は貧しい両親から解放されたのです。これからは富ある者の元へ行って幸せに暮らすのです」


 幸せ?本当にそんなことがあるの?一緒に連れてこられた子供たちは、大きな人の言うことを聞いて喜んでいました。

 それからは汚いのはダメだと言って、お風呂に入れてもらえました。

 お風呂に入るのは初めてで、自分の髪が凄く汚かったことを知りました。


 着て来た服は捨てられて、綺麗な布で作られたワンピースに袖を通しました。

 男の子も、女の子も同じ白いワンピースを着て、初めてお腹いっぱいのパンとスープを食べました。


 凄く嬉しい。


 いつの間にか他の子たちと同じように、私は幸せになれるんだって思っていました。


「さて、あなたたちの買い手が見つかりましたよ」


 幸せになれる……本当にそう思っていたのに、始まったのは地獄でした。


 美味しいご飯なんてもらえない。

 奴隷は働かなければ食事をもらえない。

 仕事はしんどいことばかりで、満足にご飯がもらえなくて、屋根があるところで寝ることすら許してもらえなくて、家にいたときよりもヒドイ状態でした。


 奴隷は逃げることも出来なくて……ずっとこんな日々が続くのかな?苦しい……いっそ死んでしまいたい。


 私よりも大きな奴隷の男の子が反抗して殺されている姿を見ました。


 もうダメだ……きっと私も殺される……そう思う日々はいつまで続くのか……


「まだ、こんなところに居ましたか」


 獣人の凄く綺麗な女の人が私を見下ろしていました。


 亜人は奴隷、こんなにも綺麗なのに、この人も奴隷なのかな?白い耳と白い尻尾……私も綺麗な耳があったはずなのに……


「まぁだいたい潰したと思うから連れてきて」

「かしこまりました」


 ……地獄が終わったのは突然でした。


「あなたたちはもう大丈夫ですよ」


 そう言ってくれた獣人の女性はやっぱり綺麗で……私以外にも大勢の子供達が屋敷に集められました。

 綺麗なお姉さんも奴隷として売られるのかな?私もまた誰かに売られるのかな?前よりもヒドイ場所に連れて行かれるのかな?もう何も信じられない。


 涙が溢れてきて「殺さないで」と何度も叫んでいました。


「ボクは怠惰なんだ。こんな仕事は、もう二度としたくないね」


 それは天使様?のように綺麗な人でした。

 綺麗な紫の光が私たちへと降り注いで、自然に涙が止まっていました。


「君たちには怠惰すらもったいないね。ただ眠りをあげる」


 とても綺麗な光に包まれて、その光は暖かくて、目を覚ましたとき、暖かなベッドで目を覚ましました。


 大きなお部屋には私以外にも大勢の子供たちが寝ていて、一番早く私が目を覚ましたようです。


 目が覚めると不安が込み上がってきて、ここにいることが不安でしかたない……どうしよう?逃げたい……でもどこに逃げれば良いの?


 そう思っていると扉が開きました。


「目が覚めましたか?」


 メイド服を着た優しそうなお姉さんが声をかけてくれて、私はいつの間にか抱き締められていました。


「ふふ、弟の幼い頃を思い出しますね。可愛い」


 優しいお姉さんは良い匂いがして、目が覚める子一人一人に奴隷から解放されたことを説明してくれました。

 これからメイドとして、働くための勉強をするのだと説明してくれました。


 メイドになるための勉強の毎日は大変でした。

 だけど、ご飯を食べさせてくれて、お風呂に入っても良いと言ってくれました。


 今度こそ本当かな?信じても良いのかな?


 またどこかに売るために、こんなことをしているのかな?不安な日々が続くと思っていたら、何日経っても、私たちは売られなくて、ご飯は美味しくて、お風呂は温かくて、布団は暖かくて、勉強を教えてくれて……みんな元気になっていって……本当にもう大丈夫?


 私の脳裏に、最初に私を買った大きな人を思い出しました。もしかしたら夢を見させてまた地獄に落とされるのかな?そんなある日……


「まだ、奴隷の子がいるならボクの前に連れてきて」


 主様がいるという部屋の前で、私は聞きたくない言葉を耳にしました。


 私は聞き間違いであってほしいと思いましたが、聞いてしまった言葉に震えました。

 やっぱり私は奴隷として売られてしまうんだ!


 前とは違って、縛られていない私は必死に逃げました。


 もう、あの地獄に戻りたくない!嫌だ!嫌だ!嫌だ!


 必死に逃げてどこかわからなくなって、寒い……恐い……地獄に戻りたくない……泣きながら走り続けた私の元へ空から天使様が舞い降りました。


 羽は生えていないけど……空を飛んできた綺麗な男の人……


「奴隷は君で最後だね」

「天使様!私を迎えに来たんですか?」

「天使?ハハ、ボクは天使じゃないよ。ボクは悪者だよ」


 紫の光が私を包み込んで空へと舞い上がりました。

 私が空を飛んでいる!!!


「君の名は?」

「クウ……です」

「ふむ。ウサギかな?毛並みがシロップやルビーとは違うね。でも、耳が」


 私は買われた先で耳を切られてしまいました。

 それを思い出して涙がまた出てきました。


「これは解放される君への祝いだよ」


 天使様がたくさんの魔力を注ぎ込むと……無くしたはずの感覚が私の耳が戻ってきて……


「ふぅ~さすがに回復魔法だけじゃ無理だね。久しぶりに無属性魔法の可能性を改めて実感したよ」


 天使様は……私の耳を取り戻してくれて……


「あとは、君が最後なんだ。奴隷紋を破壊するよ。事件は終わったのに、こういう処理の方がめんどうとかマジで辛い」


 天使様は私を奴隷から解放してくださいました。


「さぁ君は自由だ。メイドをするなり、どこかに働きに行くなり選べばいいよ。あとはシロップに聞いてね」

「あっ、あの!てんし……いえ、あなた様がご主人様なのですか?」

「うん?そうだよ」

「なら、私をご主人様の下で働かせてください!誠心誠意お勤めします。もうどこにも行きたくありません」


 ゆっくりと降りていく中で、私が宣言したことが空へ響き渡りました。


「シロップ」

「主様が悪いです」


 地面には綺麗な獣人のお姉さん……シロップメイド長がおられました。


「ハァ~好きにすればいいよ」

「はい!」


 クウは大きくなったら、ご主人様にこの身を捧げるのです。

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