第58話 一年次 剣帝杯 5
《side実況解説》
《実況》「さぁ、いよいよ今年のアレシダス王立学園 剣帝杯も大詰めに入ってきました。実力ある者達がぶつかり合ったことで、とうとう八強まで絞り込まれました。今年の一年生は豊作としか言いようがありません。敗者となった《水連の魔女》リベラ・グリコ選手や、《人心遊戯》タシテ・パーク・ネズール選手は印象深い戦いを繰り広げました。そんな彼らを倒して上がってきた今年の一年生はなんと五人も存在します!!! 八強には二つ名が付けられたぞ!こいつらだ!」
《無冠の王子》ムーノ・バディー・ボーク・アレシダス
《美の女神》アイリス・ヒュガロ・デスクストス
《無頼漢》カリギュラ・グフ・アクージ
《氷の女王》エリーナ・シルディ・ボーク・アレシダス
《美顔夢魔》リューク・ヒュガロ・デスクストス
《烈火の乙女》リンシャン・ソード・マーシャル
《偶像猫娘》ルビー
《剣帝の弟子》ダン
《解説》「今年は二人も平民が残ってますね……奇跡としか思えませんが、一年生が5人も残ったのは三年生同士のつぶし合いがあったためでしょう」
《実況》「強者犇めき合う三年生たちは、ライバルたちを潰すことに躍起になり、同学年の者たちで同士討ちや二年生、一年生に倒されることになってしまったぞ」
《解説》「二年生はカリギュラ選手が暴れ回ったことで一気に数が減ってしまいました。上級生同士でつぶし合ったことで、一年生たちには恵まれた環境だったと言えるでしょうね」
《実況》「それでも勝ち上がってきた《無冠の王子》ムーノ選手や《無頼漢》カリギュラ選手などが優勝候補ですか?」
《解説》「そうでしょうね。やはり三年間アレシダス王立学園で鍛え上げたムーノ選手は別格と言えるでしょう。また、圧倒的な武力を誇る《無頼漢》カリギュラ選手は戦闘になれば比類無き豪腕を示してきました」
《実況》「なるほど、その他の選手もガンバってほしいですが、美しい女性が半分も勝ち上がっていますので、私は女性を応援しますよ!!!全員が可愛い、そして美しい!!!」
《解説》「台風の目となれるか不明なのが《剣帝の弟子》ことダン選手ですね」
《実況》「剣帝アーサーが、まさか弟子を取るとは思いませんでしたからね」
《解説》「はい。自由人という元二つ名を持つ剣帝アーサーですからね。弟子を取るということは、本格的に自分の技術を伝えたいと考えたのかしれませんね」
《実況》「そんな戦闘を勝ち上がってきた選手たちとは一線を画すのは、《美顔夢魔》リューク・ヒュガロ・デスクストス選手でしょうか?」
《解説》「そうですね。リューク選手は八強になるまで一度も戦いをしていません。その全てが不戦勝です」
《実況》「いったいどんな裏工作をすれば、戦う前に終わってしまうのでしょうね。ほとんどの選手が戦う前に戦線離脱を余儀なくされています。リューク選手の前に立つ者は現われるのか!!!」
《解説》「いつもクッションの上で寝ているだけですからね。あの美しさが故にファンクラブが出来てしまうほどですが」
《実況》「イケメンなのか、結局イケメンがいいのか!!!」
♢
《sideリューク》
デカデカと映し出されるモニターを見ながら、横に立っているタシテ君を見る。
「ねぇ、ボク……勝つつもりなかったんだけど」
「さようですか……ですが、なるべくして成ったとしか私は申し上げられません」
物凄く満足そうにモニター見てるよね。
絶対、対戦相手に何かしているよね?
「どういうことですか?」
タシテ君の反対にいるリベラが問いかけてくる。
リベラもタシテ君がいることに戸惑いを感じているようだ。
「リューク様が八強になるのに力を使われたということです」
「そうなのですか?リューク様……試合会場に行っても寝ていただけですよね?」
剣帝杯が行われている間は、全ての授業が無くなる。
参加する者は学園に残り、敗者となった者は長期休みへ移行していく流れが出来ている。
ボクも適当なところで負けて、カリンと共にシロップの元へ帰るつもりだった。
だけど、思惑とは異なり、タシテ君が張り切ってしまった。ボクと対戦する相手を裏から排除していっちゃったんだよね。
「ハァ~、《美顔夢魔》ってなんだよ。ボクは寝ていただけだよ」
「美しきお顔のリューク様が夢へと誘うので、悪魔の様だと言った比喩にございます」
「リューク様が夢に!!! 羨ましい」
なんだろう。タシテ君とリベラって案外相性いいのかな?ボクにはわからないけど、会話が成立している気がする。
「リューク様、ご安心ください。アイリス様や、リューク様の大切な方々には手は出しません」
「大切な方々って誰?」
ボクにはカリンとシロップしか大切にしている人はいないはずだけど……まぁリベラには優しくしてるかな?従者だし……
「もちろん、第二妃のリンシャン様、第三妃のリベラ・グリコ様、妾のルビー様とミリル様でございます」
えっ?なんでリンシャンまで?しかもリベラに聞こえないように耳元でいうの止めて、マジっぽいから……まぁ、ミリルやルビーは、世話になったからわかるけど……てか君のその情報網どうなってるの?君は研究中はいなかったよね?
「私はリューク様の手下ですので、これぐらいは当たり前でございます」
怖っ!タシテ君、さすがキモデブガマガエルリュークの第一の手下だよ。優秀過ぎ!じゃないと勤まらなかったのはわかるけど……ハァ~有能な部下って何も言わなくても勝手に動くんだね。上司のボクは何も指示してないんだけど……。
「次の対戦相手である、ルビー嬢には何もしておりませんので」
タシテ君、その報告いる?ハァ~ならルビーに負けて、この辺でおさらばしよう……。
「参ったにゃ!」
おい~~~~~!!!!
《実況》「おおっと!!ここまで圧倒的な速度と身体の柔らかさを活かした我らがアイドル猫娘こと、ルビー選手が開始の合図と共に降参だ~!!!」
《解説》「ここまで戦いが成立してこなかったリューク選手。リューク選手の前に立った初めての選手でしたが、降参を選択したことは驚きの展開ですね」
八強になったことで、実況と解説が付いた。
勝手な憶測で何やら話しているが、一番驚いているのはボク自身だ。
「ルビー、どういうつもりだ? 騎士に興味はないのか?」
「無いにゃ!」
ルビーの返答があまりに清々しくて、バルから落ちそうになる。
「そうなの?」
「そうにゃ。それよりもリュークと戦うのは嫌にゃ」
「ふ~ん、じゃあまあいいか」
「それよりも撫でてほしいにゃ。リュークに撫でられるのが好きにゃ」
そういって側に寄ってきたルビーを撫でてやると、喉をグルグルと鳴らして喜びを表現している。
《実況》「やっぱりイケメンなのか!!!我らがアイドルが服従を示しているだと!!!会場中から男子たちの号泣の叫びが木霊しております!!!」
《解説》「女子たちからは、ルビー選手への嫉妬の叫びが聞こえてきますね」
外野がうるさいので早々に退出させてもらう。
退出していく途中……巨大な体躯を持ったカリギュラ・グフ・アクージが立ち塞がる。
「リューク・ヒュガロ・デスクストス。貴様のような愚者が、勝ち残っていることが不思議でならんな」
長髪を掻き上げるカリギュラ・グフ・アクージは、弱者に向ける視線でこちらをバカにしたような態度を取る。
「裏工作しか能の無い愚者よ。貴様は次の試合で、我が輩が倒してやるから待っているがいい」
こちらは何も言っていないのに、言いたいことだけ言って立ち去っていく。
なんとも我儘で、自分勝手な男だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます