第42話 不穏な気配

《Side???》


 どうして? 身体の中に異物が入っているのだろう?

 排除しようとしても、排除しようとしても、なくならない。

 気持ち悪い何かが、自分の身体に入り込んだ。

 排除しないと……嫌だ。失いたくない。


 絶対に排除してやる!!!……どうやって異物は攻撃してくるの?攻撃を止めるためにどうすればいいの?子供たちは?……眠らされている。

 眠らされて殺されたなら、眠らない子を産みだそう。

 剣で切れない子を産もう。弓で貫かれても、魔法で攻撃されても再生して死なない子を作ろう。


 眠らなくて、斬られても、突かれても、魔法を打たれても、死なない。


 いっぱい作ってもダメなら、一匹だけの大切な大切な子を産もう。


 だからお願い……身体に入った異物を排除して……そうすれば……幸せ……。



《Sideリベラ》


 課外授業が始まってからリューク様のお姿を見ていない。

 すでに一日が経ってしまった。

 野営するためにテントを作り、見張りを立てて交代で休息を取り、明け方近くの時間に私の番になった。


 一人で見張りをしながら考えることは、大好きな魔法のことよりも、リューク様のことばかりになってしまっていた。


 リューク様のお世話をすることは幸せ。

 それも……学園だけの話……学園を卒業してしまえば、従者はリューク様のメイドさんに戻ってしまう。

 新しい魔法を生み出すリューク様に追いつくためには、私も鍛錬を怠ってはいけない。


「この間、見せてもらったオートスリープアローは凄かったな」


 バル君にも乗せてもらった。

 まったく原理が理解できなかったけど、リューク様は凄い。

 一緒に乗って解説してほしいと伝えたところ……


「う~ん。それはカリンに禁止されてるからダメ」

「カリン様に禁止されているんですか?」

「うん。カリンが許可したらいいよ」


 魔法の探求をしたいので、許可を頂きたいのですが……ナゼ、ダメなのでしょう?


「私の属性は水。生活の中に溶け込む水は体内にも存在していて、もっともイメージを持ちやすい」


 私は戦闘特化ではない。肉体強化も使えますが、回避に専念するために覚えたようなものだ。


 逃げ足を鍛えて、魔法を相手に放つ。

 それが私の戦闘スタイルだ。

 近づかれたなら杖を全力で振り回す。


「《水》よ」


 最近の私は水を様々な形に変えるイメージの訓練をしている。

 魔力によって固められたウォーターは、私のイメージに合わせて形を変えていく。


 ボール

 アロー

 スラッシュ


 大量に水を作り出して滝を作り、渦を巻き、龍にして昇華させる。


「生き物はまだまだ難しいですね」


「凄いのね」


 いつの間に近づかれたのか、木陰に立ったエリーナがこちらを見ていた。


「覗き見ですか?」

「見張りをしていないあなたが悪いのでは?」


 嫌みを返してくるエリーナは苦手な相手だ。


「魔物が近づけばわかるようにしています」

「そんなことが出来るの?」

「リューク様ほどではありませんが、多少は」

「ふ~ん。彼が新しい魔法を開発していると聞いたけど、やっぱり面白いわね」


 敵に情報を流してしまった。

 サーチは仲間には警戒音がならないので盲点だった。


「ねぇ、リベラ。どうしてあなたはリュークのことをそこまで信じられるのですか?」


 意外な質問で、エレーナの意図を図りかねて私は顔を見る。


「どういう意味でしょうか?」

「あなたもデスクストス公爵家については聞いているのでしょ?」


 デスクストス公爵家……宰相家でありながら、王家を越える資金力と政治力を持つ。


 現当主は、王命には従うが、それ以外に関しては好き勝手振る舞う御仁で、傲慢な態度は貴族の中でも有名な話だ。


 兄のテスタ様は、学園を卒業後、財務省に所属して鉄の文官という異名で働いている。

 無表情で淡々とした仕事態度は優秀ではあるが、同僚との付き合いを一切しないことで有名だ。

 ただ、黒い噂が絶えない者達との付き合いがあると言われていて、同僚たちに付き合わないのは怪しい付き合いをしているからではないかと疑いをかけられている。


 姉のアイリス様は、学園では悪役令嬢の異名を持つ。

 礼儀のなっていない貴族や平民の女子をいじめては、退学に追い込んだと言われていた。

 また、男子生徒をその気にさせては無残に捨てているという噂も絶えない。


「そして、リューク・ヒュガロ・デスクストスは、女好きの色狂い……自らを着飾って、女性ならば亜人も獣人も関係なく見境がない男……噂程度だから信じられるものではないけれど……普段の行動を見ていれば、側に女性を侍らせている姿を見ているもの、あながちウソではないと思うわね」


 エリーナの発言を黙って聞いていた私は……スッと瞳の光を失う。


「ねぇ、エリーナ様」

「何かしら?」

「ご自身で見たことを、どう評価するのも勝手なことです。ですが、それが私にとってのリューク様の評価を下げることにはなりません。リューク様の努力を……発想を……知識の深さを……あなたは何も知らない。すいません。気分が悪いので失礼します」


 エリーナから離れたくて歩き出した。


 ふと、胸騒ぎがして嫌な予感がする。

 こんな明け方にリューク様が起きているわけがないのに、リューク様に良からぬことが起きたような気がして……不穏な気配を感じる。


「気のせいですよね?」


 私は不安を感じてサーチ範囲を広げる。


 サーチは……不思議な反応を示した。


「魔物がいない?」


 ダンジョン内でサーチを使えば一匹ぐらいは魔物を感知する。


 それなのに一匹も引っかからない。


「もう一度、少し範囲を広げて」


 私はサーチを使った瞬間、真っ赤な信号が突然現われた。


「なっ!皆さん!起きてください!敵襲です!!!」


 巨大な魔物の存在に気づいて、チームメンバーを呼んだ。

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