第12話:最年少の七星卿
「―――そうか。だが、だからこそ、皆には伝わっただろう」
それからオスカーは騎士と、侍従二人と一緒に城外に出て、侍従たちや兵士たちの話にきいた薬師たちが住まう宿屋の通りへと向かった。
しかし通りには薬師がいるらしい店はない。想定外なことに人伝に聞いた通りにもいない。オスカーとテオドロスは人の集まる宿屋に入り、情報を集めることにした。
軽装をして、剣もマントもなくても足取りと立ち姿で常人ではないのは明らかで、宿屋ではその騎士は人目を引きすぎる。
カウンタ―で帳簿をつける店主は何事かと思わず立ち上がった。
「驚かしてすまない、聞きたいことがあって」
歪んだ眼鏡をかけ直し、腰に剣がないことに安心したようだ。
「あんた、見たところ騎士のようだが」
「城の者だ。陛下のご命令で薬師を探している。心当たりはないか」
「は、はあ。女王陛下が。紹介したいのは山々ですが、この近くにはおりません」
「そうか、ここもか」
「あの、騎士殿。確かではないですがね、町には薬師はおりませんよ。先王の死後、町の外へ皆流れていきましたから」
「王都の外へ? 馬鹿な。どうしてわざわざ危険な城塞の外へ行く理由があるのだ」
「身の安全を考えれば当然ですよ、騎士様。先王は病死ではなく毒殺だと噂するものまでいるものですから。毒や薬に詳しい賤しい身分の者のせいだと」
「口を慎め! 先王が毒殺など」
侍従は声を荒げたが、テオドロスはそれを制した。
「聞いたのは我々だ。そして店主は理由に答えただけに過ぎない。店主殿、この者の非礼は俺が代わりに謝罪しよう」
騎士は恭しく頭を下げた。
王都に不慣れであるのに城の使い。騎士姿。そしてこの威風堂々たる気風。そして騎士の中の騎士と言える恭しいその態度。
店主は目の前の騎士の正体に気づき、息を呑んだ。
「え? も、もしかして紅の国の
「―――ああ、そうだ」
騎士は少し戸惑いながらもため息をついて肯定した。
店主はひっくり返り、宿屋にいた野次馬たちはどっと沸いた。
「飛龍の騎士⁉」
「すっげえ、本物かよ!」
町娘たちは黄色い声をあげて近所の友人を呼びに走り、若者は握手を求めた。
「騒がせてすまない。誰か、王都の外でも構わないから、薬師を紹介してほしいんだが、心当たりのある者はいないだろうか」
騒いでいた野次馬たちは我先にと手を挙げた。
最も近く、年老いてはいるものの長く王都にいたという
「ここからどれくらいだ」
「城を出て地図を持ってこさせましょう。それから馬も」
「恩に着る。後日御礼に伺わせてもらう」
「そ、そんな滅相もない。今度はぜひ食事をしに来てください。飛龍の騎士がお好きな鴨肉をご用意しておきましょう」
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