第280話 お供選抜

 敵が元闇蛇の幹部だった男だと判明した後、情報収集のため国内各地に散っていたメアリとクーデルが国都に到着した。

 

「よう、兄貴。なんつうか、俺達の元同僚が迷惑かけてすまねえ」


 到着早々、メアリが頭を下げてくる。

 その半歩後ろでクーデルも無言で同じ姿勢を取っているが、拳はきつく握りしめられていて、忸怩たる思いでいることが見てとれた。


「顔が暗いぞ二人とも。せっかくの綺麗な顔が台無しだ」


「流石に笑えねえよ。リズのあんちゃんから連絡受けてから気分が悪くて仕方ねえや」


 怪しい光を目に灯し、暗いトーンで返答するメアリ。

 レックス・ヘッセリンクを騙ってこそこそ暗躍しているのが、よりによって元々自分が育った組織の上司だとわかったんだ。

 それはそれは腸煮えくり返ってるだろう。


「元闇蛇の副首領、か。まあ、過去はどうあれ今のお前達とは無関係の赤の他人だ。リズに託した僕の命令は行き渡っているな?」


 この子は犯人殺して自分も死ぬとかリズと同じことを言いかねないからな。

 実際、クーデルやアデルを我が家に誘った時も同じようなこと言ってたし。

 

「ああ。寿命で死ね、だろ? かっこいいねまったく。一旦オーレナングに集められてそこでさ。兄貴が過激な指示出すもんだからアデルおばちゃんもビーダーのおっちゃんも目が据わってたぜ?」


 え、目を潤ませるじゃなくて据わってるの?

 なんで?

 さては、またうちの家来衆特有のおかしな受け取り方をしてるな。

 なぜみんな揃って僕の言葉を受け取る際、ヘッセリンクという分厚いフィルターを通してしまうのだろうか。

 僕の言葉に裏はないと伝える機会でも作るかな。


「反応に思うところはあるが、今は置いておくか。お前達は死にたがりの集団だからな。幸い僕の言うことには最大限応えようとしてくれているから、皆しっかりと命令を守ってくれるだろう」


「ああ。流石にこの期に及んで死んで償うってのは違うって理解してるさ。なあ、クーデル」


 メアリの問いかけに、無表情で怪しいオーラを纏いながらもクーデルが浅く頷いて口を開く。


「もちろん承知しています。そして、伯爵様の敵には鉄槌を。それが元々同じ組織にいた者なら尚更です」


 へい、落ち着けよビューティーアサシン。

 君の役目は昂ると暴走しがちなメアリのフォローだろ?

 クーデルは冷静なままでいてくれないと。 

 心はホットに、頭はクールに、ね?

 

「貴族の名を騙ったんだ。善人悪人関係なく許されるものではない。まあ、酒の席で酔っ払って僕の名前で盛り上がるくらいなら大目に見るがね」


 酒場で酒の肴になるくらいなら大いに結構。

 それが好意的な話しならなお良し。

 娘のためにも愛されるヘッセリンクを目指しています。

 

「今回の件、兄貴はどうするつもりなんだ?」


 メアリとクーデルがこちらを窺っている。

 おかしなことを聞くものだ。

 どうするもこうするもない。


「事の発端は、僕が闇蛇の本拠に踏み込んだ時に討ち漏らしたことだ。それなら、今この時に過去の不手際を清算する。それだけさ」


 レックス・ヘッセリンクが討ち漏らした闇蛇の幹部が悪さをしてるなら、僕の責任において処理する。

 それがレックス・ヘッセリンクとして生きる僕の果たす役割だ。

 

「リズの兄ちゃん達が賊の住処を割り出したら、すぐに乗り込むんだよな?」


 そうだね。

 だからどこに潜んでても即応できるように国のど真ん中にある国都で待機してるんだから。

 本音を言えば早く終わらせてオーレナングに帰りたい。

 そうじゃないとサクリがどんどん大きくなってしまうでしょうが!

 不真面目だと叱られそうだから絶対に家来衆やママンには言わないけど、敵の本拠地が分かり次第速攻で乗り込んで叩き潰すつもりだ。

 そんな決意を固めていると、メアリとクーデルがガバッと頭を下げた。

 

「できればでいいんだけど、俺とクーデルも連れて行ってくれないか? 頼む、絶対に冷静でいるからさ」


 二人とも同行希望か。

 

「いいぞ」


 OK OK。

 一緒に行きましょ。

 やっぱり元上司が悪さなんかしてたら気になるだろうからね。


「……頼んどいてなんだけど、軽くねえ? いや、認めてもらえるのはありがてえけど」


「軽いとは心外だな。そもそも、元闇蛇の人間が絡んでいると報告を受けた時からお前達二人を連れていくことは決めていたさ。それと、今回はオドルスキを招集する」

 

 僕、メアリ、クーデル、オドルスキ。

 攻撃偏重、ファイヤーフォーメーションで挑むつもりだ。

 まあ、オドルスキをジャンジャックやエイミーちゃんに入れ替えても到底守備的にはならないんだけどさ。

 オドルスキを選んだのは、僕の指示をちゃんと聞いて自制ができるから。

 ジャンジャックは指示を聞くふりして『手違いでやっちゃった☆』とか平気で言いそうだから待機だ。


「オド兄!? それ大丈夫か? なんだったら俺達より怒り狂ってるぞあの人」


 大丈夫さ。

 ジャンジャックinと比べれば不幸な事故が起きる確率はグッと低くなるはずだから。

 それに。


「こういう事件が起きるといつもオドルスキが留守番だろう? たまには鬱憤を直接ぶつけさせてやらないとかわいそうだと思ってな」


 ユミカが寂しい思いをしないようにという配慮から留守番をお願いしがちなオドルスキ。

 今回は確実に荒事が絡むだろうし、遠慮なく暴れてもらいましょう。


「マジで悪魔だな兄貴。いや、これも過去の栄光に囚われて馬鹿な真似した野郎が招いた事態だから同情の余地はねえか。しかし兄貴は悪魔だわマジで」

 

 おいおいそんなに褒めても何も出ないぜ兄弟。

 

「僕は悪鬼らしいから仕方ないさ。今回に限っては、それらしく容赦はしない。はっきりと、敵だからな」



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