第174話 it's SHOWTIME♪
久しぶり、というにはそれほど間を空けずに訪れることになった灰色の世界。
前回同様、レッドオーガの皆さんが歓迎のために出てきてくれた。
今回のツアーにおける脅威度Aとのファーストコンタクトだ。
脅威度Cの牛さんと比べたら小柄だけど、改めて見ると、内から溢れ出る迫力が段違いだね。
初めて人型の魔獣を目にした皆さんの反応は様々で、カナリア公は興味津々、サルヴァ子爵は顔を青くしている。
対照的にロソネラ公は全く興味がない様子。
理由を聞いてみたら、売れる部位がなさそうだからだそうな。
商人のメンタルどうなってるんだよ。
と、色々言ってみたが、氾濫時にさんざん戯れてレッドオーガの扱いに慣れたジャンジャックとゴリ丸、ミケが危なげなく処理していく。
数体を進化させずに討伐することが出来たようなので、参加者の皆さんに記念品として鬼の角をプレゼントしておいた。
そして。
見つけてしまった、本ツアー最大のアトラクション。
場所は、ジャンジャックが拵えた巨大クレーター。
そう、星堕しとかいうやばい魔法でゴブリンを一掃したあそこだ。
僕達を待ってくれていたのは……竜種。
岩のようなゴツゴツした錆色の鱗を持つ蜥蜴顔のそれは、クレーターの底で腹を上に向けて眠るという、チャーミングな姿でお客様を出迎えてくれた。
「でかいな。ディメンションドラゴンと比べても遜色ないか? もしかしたら、ディメンションドラゴン亡き後の森の王者なのかもしれないな」
「造形を見るに、まったく違う種でしょうが……、新たなる支配者とはいやはや。レックス様、どういたしますか?」
そんなキラキラした表情でどういたしますか? もないだろうジャンジャック。
だって、どうするもこうするも、ねえ?
この催しは、我らヘッセリンク伯爵家への誤解を解くという目的で企画されたものだ。
なので、常識的に考えたらわざわざ寝ている竜種にちょっかいを出したりしない。
絶対にだ。
ただ。
ただ、今回は懲罰イベントの側面もあるわけですから、ね?
僕は、ゆっくりと振り向くと、意図的に唇を吊り上げてエスパール伯を見つめた。
その表情で、僕の次の行動に気づいたのかもしれない。
深層に入った直後に弱音を吐いて以降は頑なに謝罪を拒否していたおじさまが、すごい勢いで僕の腕を掴んできた。
「もう、わかった! もう充分だ! 私が悪かった! このとおりだ。だからもう、もう許してくれ!! あれは、あれは洒落にならないだろう!!」
眠っているとはいえ、初めて見るであろう竜種、しかも規格外のサイズのそれに心が折れたようだ。
その表情を見るに、バッキバキだね。
僕ならカナリア公に顎を鷲掴みにされるほうがよっぽど怖いけど、うん。
聞きたい言葉には足りないが、一応の謝罪を引き出すことはできた。
「お気持ちはわかりました。が、遅い! この状況になって頭を下げられても、もう止まりませんよエスパール伯!」
気持ちよさそうに眠っている赤茶けた肌を持つ竜種の鼻面に、ドラゾンを急降下させる。
ディメンションドラゴンを弾き飛ばしたぶちかましで、グッモーニン♪
重たい音を響かせて衝突する竜と竜。
巻き上がった土煙の中から軽やかにドラゾンが飛び立ち、間を置いて巨大な影が咆哮とともにゆっくりと姿を現す。
その異様に尻餅をついたエスパール伯は、涙目で僕を睨みつけてくる。
「正気じゃない……、貴様は鬼か! ヘッセリンク伯!」
鬼だと?
そんなわけないじゃないですか、やだなあ。
「貴方が犬畜生云々と評してくれた私の可愛い家来衆が言うには、鬼は鬼でも狂った鬼らしいですよ? 我々は」
うぃーあー、くれいじーでーもんず。
おーけー?
「はっはっはあ! 貴族様の意地というのは素晴らしいものですなあ! お陰でこんなに楽しいモノに巡り逢えました! レックス様、エスパール伯へのお怒りは、爺めの分をいくらか差し引いてあげてくださいませ!」
狂った鬼その一が、素敵な笑顔で土魔法をぶっ放す。
以前、王太子のために催した森ツアーでセミの魔獣を撃ち落とした、ロックキャノンとかいう岩石連射魔法だな。
大好物を見つけた犬でももっと大人しいんじゃないかと思うくらいのテンションだ。
「多少差し引いても怒りの総量はさほど変わらんがな。ドラゾン! 存分に締め上げてやれ! ゴリ丸とミケ、マジュラスは下がって皆様を守れ!」
航空戦力ドラゾンと寝起きの竜が衝突するたびに空気が震える。
凶悪な咆哮という効果音付きでスリル満点だね!
「まあ、まあ。これは、ワタクシの想像を遥かに超えていますね」
ここまで来ると流石の女帝様も恐怖を覚えたのか、ワナワナと震えている。
ご婦人との散歩にこれほど不向きな場所もないから仕方ないか。
「ヘッセリンク伯」
終始穏やかだったロソネラ公が、鋭く僕の名を呼ぶ。
大丈夫、こちとら脅威度Sさんを討伐済みです。
公爵ご本人も護衛の方々も無事に帰還できますとも。
「ご心配なく。私の家来衆と召喚獣がすぐにあの竜を仕留めて見せま」
「そんなことよりも! あの竜種を討伐できたら、もちろん当家が優先的に買取交渉をさせてもらうということでよろしいですね?」
違った。
想像を超えていたのは魔獣の恐怖ではなく、手に入るであろう商品の質でした。
商人のメンタルどうなってるんだよ!
護衛の皆さんが可哀想だよ!
「ラッチ、剣は抜いておけ。最低限の自衛くらいはできるじゃろうな?」
「恨みますよ大将。護衛の諸君! 諸君らが一人二人盾になったところで、事故が起きた場合誰も助からん。なので、余計なことをせずヘッセリンク伯と鏖殺将軍殿に全て任せよ!」
「清々しいほどの丸投げじゃのう。流石は儂の右腕じゃ」
カナリア公が槍を構え、サルヴァ子爵も溜息をつきながら剣を抜く。
こちらは歴戦のコンビ感があって安心できるな。
きっと現役時代も無茶をやるカナリア公の後ろを、サルヴァ子爵が的確な指示を出しながら追いかけていたんだろうな。
「ヘッセリンクの。説教は後じゃ。きっちり終わらせてみよ!」
「委細承知。いやあ、竜と竜の対決をご覧になれるなんて皆様は運がよろしい。さあドラゾン。カナリア公とロソネラ公の御前だ。襲え!」
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