第59話 二日酔い
化け物が三人だったよ。
なんで、あのおじさん達はつまみも無しに酒を飲み続けられるんだろうか。
しかも喉が灼けるような度数の高い代物をだ。
『火酒・竜殺し』とか、酒につけていい名前じゃないし、貴族が嗜むには粗野過ぎる。
それをストレートでカパカパと流し込む姿は上級貴族と言うよりどこかの非合法組織の長だったな。
カナリアのじいさんにロックオンされて盃を空けた側からなみなみ注がれ、お返しに注いでやっても軽々飲み干してさらに注がれるという悪循環。
ゲルマニス、カナリア、アルテミトスという先達の話は非常に参考になったし楽しい時間だったことは間違いないけど、結果的に僕はベッドから立ち上がれずにいる。
部屋が酒臭くなるのでメアリに急遽別室を手配してもらったくらいだ。
こんなことでエミリーちゃんに嫌われたくないからね。
【カナリア公爵とアルテミトス侯爵と言えば音に聞こえた酒豪です。国軍所属の頃も、翌日に兵士が二日酔いで使い物にならなくなるため飲みの席に二人が揃うことが禁じられていたとか】
知ってたなら教えてくれよコマンド。
まあ、教えられても逃げきれなかったんだから結果は同じだろうけど。
せめてもう少し弱い酒をくれって言った時の二人の顔が忘れられない。
え? 弱い酒? なにそれ知らないって顔するんだよ。
ゲルマニス公爵だけがゆっくり首を振ってたけど、下手をしたらあの『火酒・竜殺し』があの場にあった一番アルコール度数の低い酒だったんだろうか。
だとしたらやっぱり化け物だわ、主に肝臓が。
「レックス様、起きていらっしゃいますか?」
三人のアルコールモンスター達に対して小指を何かしらの家具にぶつけて悶絶してしまえと地味な呪いをかけているとエイミーちゃんの声が聞こえた。
「ああ、起きているよ。だが部屋には入ってはいけない。酒の匂いで酷いことになっているからね」
「わかりました。昼のお食事はどうなさいますか? 体調が優れないようなら晩餐まで寝ていていただいて結構ですよ?」
切実にそうさせてほしい。
今食べても胃が受け付けない気がするし、そもそも立ち上がるのもしんどいから。
「退屈させてすまないなエイミー。まさか公爵方があれほどの酒豪だとは思わなかった。しかも昨日の僕はつまみ代わりだ。途中退席もままならずついつい飲み過ぎた」
「ふふっ。お気になさらないでくださいレックス様。昨日お帰りになられた時のレックス様はとても楽しそうでした。あのような年相応のお顔を見ることができてエイミーは幸せです」
「そんな顔をしていたか? まあ確かにつまらなかったかと言われれば楽しかったと答えるが。基本公爵方の若い頃の夜の武勇伝だ。それぞれかなり派手に遊んでいらっしゃったようで、話としては面白いものだった」
まじで酒豪なうえに性豪だった。
カナリア公爵はコマンドの情報で把握してたし、ゲルマニス公爵も言われたらそんな雰囲気がある。
驚いたのはアルテミトス侯爵だ。
軍に所属してた頃は結構遊んでたらしい。
もちろん皆さん節度と品位を守れる範囲でのお遊びだったみたいだけど。
しかし飲み会の大半が下ネタとか大学生みたいだったな。
「まあ! レックス様に悪い影響を与えないでいただきたいですわ。カナリア公のお話は私のような者の耳にも聞こえてくる程でしたから」
「心配しなくても僕はエイミー一筋だ。悪い遊びになんか手を出さないから安心しておくれ」
だってエイミーちゃん可愛いから!
こんなに可愛くて素直な子、なかなかいないと思うよ。
そのうえ強いとくればもう手放せない。
体質のせいで小さい頃は苦労してきたみたいだから最大限幸せになってほしい。
「心配していませんしレックス様を疑うようなこともありません。エイミーは今とても幸せですもの。ヘッセリンク伯爵家という国防の要を担う家に正妻として嫁ぐことができただけでも夢のようです。レックス様はとてもお優しいですし家来衆も良くしてくれます。なにより、これまで隠してきた力が家のためになる。あまりに幸せで死んでしまいそうです」
やだ、本当に可愛い。
僕の方が可愛い過ぎて死んじゃいますよ。
いや、今は現在進行形の二日酔いで死にかけてるんだけどね。
元々今日は何も予定を入れていないから二日酔いで寝てても問題はないんだけど。
「エイミーが幸せだと感じてくれているなら僕も嬉しいよ。結婚して早々十貴院の座を放棄することになってしまった。これはエイミーにも、なにより
「何を仰るんですか。十貴院の座から退こうとも護国卿の名が廃れるわけではありません。私はどこまでもレックス様について参りますし、父もレックス様のなさりように好意的です。レックス様はヘッセリンクらしく、堂々と狂いに狂ってくださいませ。それがきっと我が家にとって素晴らしい結果を齎すと信じています」
いい女だよエイミーちゃん。
あー、やる気出た。
早くオーレナングに戻って人材確保を進めないとな。
十貴院の一員じゃなくなったからといってネームバリューが暴落するわけじゃない。
なんたって僕は王太子の将来の右腕候補だからね。
その辺を生かして家の将来性をプッシュしつつ忠臣を増やす。
目指せ少数精鋭。
いや、今でもそんな感じだけど適材適所には程遠いからな。
「ご体調が優れないのにお話ししてしまい申し訳ございません。私も部屋に詰めております。もうすぐメアリさんがこちらに参りますのでなにかありましたらお申し付けください」
「ああ。わかった。明日にはオーレナングに帰領する予定だからな。悪いが今日はゆっくり休んでほしい」
「かしこまりました。では失礼いたします」
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