第38話 森ツアーwith王太子
「では参りましょう。我々ヘッセリンク伯爵家からは私、オドルスキ、ジャンジャックが護衛として供をいたします。近衛からはスアレ殿とダシウバ殿にお付き合いいただく。よろしいか?」
さて、ついにこの時がやってきました。
オーレナングの森ツアーwith王太子殿下。
まあ絶対連れて行けって言われると思ってたから不思議でもないし驚きもしなかったけどね。
スアレは苦い顔をしてこっちに頭下げてたな。
何度か言葉を交わしたけど悪い男じゃないんだよなあ。
最初に警戒してた分、反動でいい人に映るのかもしれない。
王太子殿下はそんな僕たちに気づかず武者震いなのかブルブル震えてる。
「これだけの人数であの獣達の墓場から溢れる魔獣を迎え撃つのですか……覚悟していたこととは言え、実際に森に入るとなると震えてきますね」
怖いならやめてもいいんですよ?
屋敷に帰ってボードゲームでもしませんか?
ダメ?
そうですか残念です。
「ご不安に思われるかもしれませんが、人が多いと守る対象が増えてしまい却って危険が増えてしまうのです。この人数であれば殿下を確実に無傷で国都にお返しすることができます」
「なるほど、ここでは我々も護衛対象ということですかな?」
言いたいことを的確に読み取るスアレ。
そう、つまりそういうことだ。
だから勝手な行動は慎んでほしい。
そうでないと、命の保証はしかねる。
「不快な思いをさせたなら申し訳ない。しかしスアレ殿、ここオーレナングが魔獣の庭と呼ばれていることはご存知だろう? そして今から向かう森はほぼ獣達の墓場と言っても過言ではない程魔獣と遭遇する」
「わかっております。私とダシウバは対人の訓練しか積んでおりません。いえ、多少は対魔の訓練も行いますが、ヘッセリンク家の皆様には及ぶべくもなく」
「不快な思いなどとんでもない! 憧れのヘッセリンク伯爵様の召喚術を拝見できると思うとワクワクしております!」
スアレもダシウバもごねることなく指揮下に入ることを承知してくれた。
良かった良かった…と思った瞬間から怒声が轟いた。
「ダシウバ……この馬鹿者め!公私を混同するなとあれほど言ったであろうが!」
「うおっ! も、申し訳ありません師匠!」
怖え!
いきなり大きな声出すのやめてくれよ。
それと何?
「師匠? なんだ、お二人は師弟関係にあるのか。知らなかったぞ」
年齢的にそうであってもおかしくないのか。
しかしダシウバ、めちゃくちゃビビってるじゃないか。
いや、怖かったよ?
でもいきなり直立不動はおかしいだろう。
お前、王太子の前でももう少し砕けてたぞ?
「ふぅ。御前で大声を出すなど失礼いたしました。ダシウバ! 貴様も頭を下げぬか! 栄光ある第三近衛の隊長に抜擢されておきながらいつまで若手気分でいるつもりだ。だいたい既に立場は貴様の方が上なのだから師匠と呼ぶなと言っただろう。貴様は昔からだな」
「スアレ副隊長! わかりました! わかりましたから! 王太子殿下と伯爵様の前で本気の説教は勘弁してください!」
ダシウバの土下座しかねない勢いの謝罪に、傍観していた王太子が見るに見かねて手をパンパンと叩いて二人を制してくれた。
「スアレ、ダシウバ。ヘッセリンク伯の前ですよ。落ち着きなさい。まったく……申し訳ありませんねヘッセリンク伯。ダシウバは元々第一近衛でスアレに鍛えられたのです。今回も第三近衛が護衛にとなった際、スアレがダシウバだけでは心許ないと同行を申し出ましてね」
「そうだったのですか。いや、私はてっきり近衛の幹部が私の素行を確認しに来たのかと怯えていたのですよ」
「その目的がなかったかと言えば嘘になりますな。もし万が一伯爵様が王太子殿下に仇為す存在であれば……と。まあ幸い杞憂に終わりほっとしているところでございます」
正直者か!
仇為す存在であれば……じゃないよ不穏過ぎるだろ。
まあ、ダシウバからの事前情報のおかけで対策できたからな。
感謝しておこう。
「はっはっは! せっかくの縁だ。これからも貴殿とはいい関係を保ちたいものだ。もちろん、ダシウバ殿も、頼むぞ」
「はっ! 伯爵様のご期待に沿えるよう微力を尽くさせていただきます!」
さっき土下座一歩手前だったくせに鼻息荒いなダシウバよ。
嫌いじゃないよそういうわかりやすさ。
家来に欲しいなあ。
でも近衛の隊長だし、無理か。
「さて。では参りましょう。王太子殿下は私、スアレ殿はジャンジャック、ダシウバ殿はオドルスキに付いていただく。小型の魔獣程度なら近衛のお二人で対処できようが、中型以上が出たら退がっていただく。よろしいか」
「はっ! 承知いたしました」
「ヘッセリンクの武威、しかと目に焼き付けます!」
大袈裟だ。
よっぽどの相手が来ない限りゴリ丸達を召喚するつもりはない。
基本的にはジャンジャックとオドルスキに任せると伝えている。
王太子とはいえ手札を見せたくないからな。
しばらく歩くと、黒装束の小柄な影が頭上から落下してきてきれいに着地した。
もちろんメアリだ。
先行して偵察を頼んでたので別行動だったけど、合流してきたってことは何か見つけたか?
「兄貴、この先にスプリンタージャッカルだ。
でかした。
よし、行くか。
「何者だ!?」
しまった、言ってなかったからめちゃくちゃ警戒されてる。
この森で黒装束が落下してきたら確実に不審人物だわな。
ネタバラシしようとしたらメアリが口元に巻いた布をずらして顔を見せて二人に話しかけた。
悪い顔してるな。
「おいおい、この何日かでも何度か顔合わせてただろうよ、ダシウバ隊長。見忘れちまったか? 薄情だねえ。スアレ副隊長は、どうだい?」
余の顔を見忘れたか? って暴れん坊将軍か。
ダシウバは完全に混乱中。
スアレは、目を皿のように見開いてるから気付いたな。
これが経験の違いか。
「……ん? ん? んん?」
「……貴様、まさか、伯爵様付のメイドか!? これは見誤ったな。その身のこなし、貴様も手練れの一人か。ジャンジャック殿やオドルスキ殿には注意を払っていたが流石にメイドにまでは頭が回らぬ。我らの首を取ろうと思えば取れる態勢だったということか……」
「いやいやいや。近衛の偉いさんの首なんて簡単に取れねえだろ。特にあんたは警戒を全く解かなかった。今日も昨日も一昨日もだ。頭が下がるぜ。頼むから肩の力抜いてくれよ」
「あの綺麗なメイドさんの中身がこれ? 男なの? 本当かよ……」
おいダシウバ隊長。
素が出てるぞ。
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