第31話 対応協議
「結論から言うと、王太子リオーネ様およびそのお付きの方々が総勢百五十名。そのうち百四十名は式の間、式場の警備を務めてくれると書いてあるな。リオーネ様と護衛の近衛十名のみが式に参列すると。理由の記載はなし。なぜ吹けば飛ぶような伯爵家当主の式に参列を希望されるのか。ハメスロット。王太子様はどのような方か知ってる限りのことを教えてくれ」
式に出す料理の試作に余念のないマハダビキア、その材料調達に夜通し駆り出されているオドルスキとジャンジャック、夜遅いためお眠のユミカとそれに付き添うエイミーちゃんを除くメンバーが僕の部屋に揃った。
議題はもちろん王家から結婚式に参加したい旨申し入れがあった件だ。
まずは式に参加したいと言い出したであろう張本人、リオーネ王太子について情報共有
ここは常識系真面目執事のハメスロットに王太子の為人を説明してもらおう。
コマンドに聞いてもいいんだけど、みんなと共有したほうがいい情報だからね。
「御意。まず、リオーネ様はレックス様よりも一つ年下の御歳二十七歳。幼い頃は持病の関係であまり表舞台に出ていらっしゃることはありませんでしたが、ある時期を境に快復されてからは積極的な国内行脚を開始されました。驚かされるのは行脚にかける時間です。年の半分は王城にいらっしゃらないようですね」
イメージは若い水戸黄門だな。
まあ、こそこそ隠れて回ってるわけじゃないだろうし、その土地の悪代官を懲らしめたりもしないか。
無作為に回ってるみたいだから不意打ちで来られて不正がバレたりはあるかもしれない。
【補足です。定期的に国内の領地を回られる王太子ですが、オーレナングには一度も立ち寄られていません。国王から魔獣の庭に近づくこと罷りならんと厳命されているようです】
命の保証はできかねるからな我が領地は。
王太子には悪いけど趣味の国内行脚で命を落とされたら王様もたまったもんじゃないだろう。
護衛もいるし、かかる費用も馬鹿にならないんじゃないだろうか。
あれ、もしかしてバカ殿系?
「国内行脚がお好きな割にはオーレナングにいらっしゃった記録がないし、僕自身、ここでお会いした記憶もない。案外、式に託けてここに来たいだけかもしれんな」
バカ殿系なら十分あり得る。
「まさか。兄貴、流石にそれはねえだろ。もしそうならどんだけ我儘だよ。それに言っちゃ何だがここには森と魔獣しか見るものねえぞ」
確かに。
でもな?
王族なんてきっとこの世で一番我儘な人種だ。
下手したら魔獣見たいとか言い出すぞ。
「私もまさかと言いたいところですが、残念ながらその可能性は非常に高いかと。王太子様はこの国内行脚をライフワークとされ、将来自らが王冠を被った際にその経験を生かしたいと強く希望されているのです。自分の治める国くらい隅々まで知らずにどうすると」
「アルテミトス領にいらっしゃった際には何の変哲もない農村地帯まで余さず視察されていましたね。むしろ街の中心よりもそちらに時間を割いていらっしゃいました」
それだけ聞くと将来を見据えて偉いねって言いたくなる。
若いうちから草の根活動を展開する王太子殿下なんて国民から好かれてそうだ。
が、ガストン系の疑いがあるうちは手放しに褒められんぞ。
「そんな王太子様が唯一足を踏み入れたことがないのがこの魔獣の庭、オーレナングです。あくまでも噂ですが、毎年かなり強くオーレナングを訪問したいと訴えていらっしゃると聞いたことがあります。ただ、命の危険という意味ではオーレナングに肩を並べる土地はありませんので、陛下も絶対にお認めにならないようです」
国王陛下万歳!
息子にフィールドワークなんかせず城で帝王学を学ぶようしっかり伝えてください。
下手こいたら受け入れた側の首が飛ぶんだから。
物理的に。
「もし王太子なんていう国の最重要人物がうちの縄張りで魔獣に襲われて死んだら、どこの責任になるんだろうな」
やめろメアリ!
そんなことになったら絶対にウチのせいにされるに決まってるだろ!
そんなリスク負いたくないんだよ兄弟。
「まったく、怖いことを言うものじゃない。……ちなみに、式の場所を王都に変更したらどうなると思う?」
「王はお喜びになるでしょうが、王太子様はどう思うでしょう。下手な動きをして次代の国王に悪感情を持たれることは避けた方がよろしいかと」
ですよねー。
わかってたよ。
言ってみただけ。
「本当に権力者のわがままとは面倒なものだ。人の晴れ舞台を旅行の出しに使うとは。僕もわがままで皆を困らせないよう気をつけないとな」
「あら、旦那様はもう少しわがままをおっしゃってもよろしいのですよ? ねえイリナ」
「アリスさんの言うとおりです。伯爵様は身の回りのことを全て自分で済ませてしまうので私達の仕事が減ってしまいます。お着替えなどは遠慮なさらず任せていただいてもいいのですよ?」
着替えって、あれ恥ずかしいんだよ。
なんで全裸に剥かれて下履きから着せられるんだ。
アウターだけでいいから。
インナーは大丈夫だから。
「二十八にもなってメイドに着替えさせてもらう貴族の当主がいてたまるか。まあ、僕は対外的にはわがままで通ってるからな。家の中でくらいはしっかりしていたほうがいいだろう」
「私の知り合いが仕えている家の当主様は、四十を超えてもメイドが着替えを手伝ってるそうなので気にされなくてもいいと思いますけど……」
それは生粋の貴族屋さんだからであって、僕みたいに慣れてない人間にはハードルが高すぎる。
ただでさえアリスもイリナも美人メイドだからいたたまれないんだよ。
「アリスさん、イリナさん、話が逸れていますよ。王太子様のご臨席をどうするか。受け入れるのか、お断りするのか。これについては受け入れるしかないということになりますが、よろしいでしょうか」
ナイス軌道修正。
まあ、王太子からのオファーについては実質受け入れる一択だから仕方ない。
「やむを得ない。ハメスロットの言うとおり、ここで不興を買うわけにはいかんだろう。王太子様にはくれぐれも気を付けてご来訪くださいと返事をしつつ、国王陛下にも一筆奏上したほうが無難だろうか」
「無難というか、必須でございます。万全の態勢を敷いて、王太子殿下には毛筋ほどの傷も負わせないと誓われるくらいの文をお願いいたします」
「重ね重ね、難儀なことだ。アリス、僕史上最高枚数の書き損じが出るだろうから質の悪い紙を大量に運んでおいてくれ。下書きをジャンジャック、ハメスロット、オドルスキの三人が目を変えて文言を確認。そのうえで清書を行うことにする」
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