うそつき市長(その10)
永田市長と同じように、水元議員殺害についても警察の公式会見はなかった。
リーク情報もなかった。
警察は政治家が連続して死んだので、相当神経質になっていた。
ましてや、水元議員にはテロの疑いがあった。
それを裏付けるように、裏ネットの犯罪情報サイトに、犯行声明と思われる書き込みがあった。
「永田市長の12年間の嘘つきぶりには辟易したが、それを上回る前市長の嘘つきぶりもひどかった。永田市長に敗れた時に快哉を叫んだが、リコールなどという卑劣な手法でもって永田市長を追い落とし、カムバックしようとするのは許せない。すでに腰巾着の水元を血祭りにあげた。市長選に立候補するならそれなりの覚悟をしてもらおう」
といった内容の殺人予告だった。
殺人事件などがあると、妄想に駆られて「俺がやった」と犯行声明を出す輩が必ずいる。
政治家はネット住民の誹謗中傷の標的になりやすい。
これは、政治家の動きが丸見えなのと、「政治家が高給をむさぼり、じぶんたちから搾り取った税金を得て勝手に使っている」と国民の大多数が被害者意識を持ちやすいからだ。
警察も当然裏ネットは監視しているので、このテロの予告らしきものの発信元はすでに調べているにちがいない。
「政治家はいったん選挙で当選すると、すべての選挙民から全権を託されたと思い上がる。長くやればやるほど、じぶんに権力を集中させ、全能の神だか独裁者のように振る舞いはじめ、言いたい放題やりたい放題になる」
などとしたり顔で言うと、
「それが民主主義のシステムの欠陥ですね。・・・ところで、こんどの事件は、模倣犯ですか、それともテロですか?」
これにはぎゃふんとなった。
だが、うまい答えは見つからない。
テロの予告があった矢先、元市長の老人が新聞記者を集めて会見し、小指が二本収められた小箱が脅迫状とともに宅配便で届いたと公表した。
二本の指とは、永田市長と水元議員の小指なのだろう。
警察に届ける前に、そんなことを公表してもよいものか?
これはきわめて疑わしい行動だが、老人は悲劇のヒーローにでもなったつもりで世間の注目を浴び、市長選での勝利を確定したいという思惑でもあったのか・・・。
箱の中にあった脅迫状には、「嘘つき政治家は、今月の最後の仏滅には必ず地獄に落としてやる」と書いてあった。
今月最後の仏滅は来週の金曜日だ。
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