うそつき市長(その9)
ところが、事態が急転した・・・。
深夜すぎ、リコール派の事務局長をしていた若手の市会議員が、市庁舎の前の小さな森の中の噴水池に浸かって死んでいるのを、見回りの警備員が見つけた。
・・・市長と同じように、噛み切った舌を呑み込んで窒息死し、剣山で両目を潰され、左手の小指が根元から切り取られていた。
自殺ではなく、明らかに殺人の大胆な犯行だった。
というのも、市庁舎の森と市道を挟んだ真向いに、市警察本部と消防署が並んでいたからだ。
朝刊にこの事件の記事は載っていなかったが、早朝のTVの画面に「市会議員殺害』のテロップが流れた。
ネットニュースをチェックしたが、警察のリーク情報はまだ流れていなかった。
だが、裏ネットの犯罪情報は、けっこう詳しく伝えていた。
・・・永田市長を厳しく糾弾するリコール派の、その中でも最も過激な水元議員は、議会が終わったあとリコール派の私的な集会で大酒を飲んだ。
酔ったので呼んだタクシーで家に帰ったはずが、実際には家に帰らず、愛人にやらせている小料理屋に寄る気になったのか、運転手に行き先を告げた。
しかし、愛人の小料理屋の店の前で降りることは降りたが、店には入らずそのまま行方が分からなくなっていた。
「剣山って何ですか?」
市庁舎の前の噴水池で見つかった水元議員殺害のニュースを伝えると、可不可は真っ先にそれをたずねた。
「ああ、円形の鉄板に先の尖った針が何本も植わっている生け花の道具だよ。花瓶の底に置いて切り花を盛るのに使う。生きたまま、こんなんで目を潰されたらたまらないね」
想像しただけでぞっとする。
もっとも、犯人が生きたままの水元議員の舌を切って呑み込ませて窒息死させたと想像すると、こちらの方がもっと残酷なように思えた。
「永田市長と同じような死に方ですね」
可不可が首をひねった。
「市長は針を呑んでいたが、こちらの議員さんは剣山で目を潰された。針ということでは同じだね。明らかに他殺だが・・・」
「模倣犯でしょうか?」
可不可が模倣犯ということばを知っているのにびっくりした。
「ああ、模倣犯ね。でも、・・・模倣犯に見せかけて、水元議員に恨みのある人間が殺した可能性もあるよ」
これは、先に模倣犯と言われてしまったので、悔し紛れのひと言だった。
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