うそつき市長(その4)
可不可とちょうどそんな話をしている時、家をたずねてきた少女がいた。
玄関すぐ横の応接間に通すと、
「お母さんの行方を探すのにその犬を貸してほしいの」
おかっぱ頭の可愛らしい女の子が、いきなり言った。
今にも可不可を連れ出そうとするので、
「あ、いや、ここはいちおう探偵事務所なので、事情を聞いたうえで、可不可、ああ、この犬の名前だけど、を使うかどうかを決めるね」
と言うと、
「あっ、可不可を借りるのにお金がいるのね。お母さんを探し出してくれたら、お母さんが払うわ。お母さんはお金持ちだから」
少女は、くりくりした目をさらに見開いて言った。
可不可は首をひねった。
「分かった。このノートに君の名前と住所と電話番号を書いて、その下に、今君が言った通りに、お母さんを見つけたらお母さんが探偵の費用を払うと書いてほしい」
と少女に言うと、可不可はあきれたように首を振った。
少女の名前は森本美香。
中学2年生。
住所は、JRと私鉄が交差する大きな駅の近くだった。
自転車を漕いで、ずいぶんと遠くからやって来たものだ。
プラタナスの街路樹が等間隔に植わった、どこまでも真っすぐに続く道を、初夏の陽光が照らしていた。
その一本道を、いたいけのない少女は懸命に自転車を漕いだ。
チェックのミニスカートからすんなりと伸びた少女の足がペダルを交互に踏むのを目の前に見て運転をしていて、少しばかり罪の意識を感じた。
駅前の繁華街の路地を二つほど抜けた住宅街との境に、その瀟洒なマンションは立っていた。
少女が自転車を置いた先の壁際に車を停めて、マンションの最上階についていった。
少女は、母親とふたり暮らしだという。
おとといの夜は熱っぽかったので、いつもより早くベッドに入ったが、嵐が窓を叩く音で寝つけなかった。
・・・遠くで母親が男と言い争う声が聞こえ、やがて「ギャー」という悲鳴がした。
恐くて布団を頭からかぶっていたが、やがてドタバタと扉の開け閉めをする音がしたあと、急に静かになった。
恐る恐るドアを開けると、
『ちょっと出かけてくる。ひとりで待っててね』
ドアに張った走り書きのメモが足元に落ちた。
明かりの点いたままの居間のカーペットに、あらぬ方を向いたテーブルから落ちたブランディーのボトルとグラスが転がっていた。
それっきりママからは連絡がない・・・。
居間に立った美香は、おとといの夜の恐ろしい出来事を思い出したのか、指先が小刻みに震えていた。
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