第116話 終末の前の嵐
それからは壮絶の一言だった。
俺は、銃を掴まれ、刀を振られる。
そんな状況でも、俺は一切の傷を作ることなく、次々と斬り伏せて、アーカーシャで消し飛ばしていった。
「クソ!クソクソクソ!なんで……当たってねえんだよ!」
バン!バン!
俺に対面する男が、心臓めがけて発砲してきた。
だが、すでに俺は仮面をつけている。
もはや武装状態の俺に、通常兵器は通用しない。
「いい腕だな……ドンピシャで心臓だ」
「な……ぐあ!?」
この状況で一番面倒なのは、俺を攻撃されることではなく、蔵敷を狙われること。
こいつは俺と違って、銃弾などを防ぐ手段がない。そうである以上は、俺が一瞬で防御姿勢に入れる距離に蔵敷を入れていないといけない。
それが意外と、動きづらさを作っている。
ただ、敵はあと数人。
無理にでも突っ込むか……
―――いや、間に合う。俺なら十分にやれるはずだ。
「ふー……」
「お前ら!早く殺れ!」
蔵敷を殴り倒していた男の声で、俺に四方八方から銃弾が撃ち込まれる。
だが、こいつらが狙った場所に、もう俺はいない。
「ど、どこに……かはっ!?」
1人、また1人と斬り伏せていく。
切り伏せ息絶えたものたちは、まもなく虚空へと消えてく。その場には、なにか人が斬られたであろう血痕のみが残されている。
そうして、最後に残ったのは、例の男だけだった。
「な……そんなバカな……」
「悪いが、これが現実だ。弱い奴はとことん惨めなんだよ」
「い、命だけは……」
「答えろ。あの女はどうした?」
「あの女って……」
「昔、そいつのせいでお前の歯がなくなったはずだ」
「あ、あ、あの女ならもうこの町にいない。どっかに引っ越しちまったよ!頼む!答えたから、みのが―――」
ズバァ!
言葉の途中で男は後ろから切れてしまった。
無論、俺が斬ったのだが……
「命乞いが遅かったな。もうお前は、俺に斬られてたんだよ」
あとに残ったのは、血まみれの事務所と蔵敷だけだった。
俺は蔵敷に近づき、声をかける。
「大丈夫か?」
「翔一、奏を……」
「蔵敷、奏のことは好きか?」
「……多分」
「はっきりしろ」
「好きだと思う。今も、こんなに痛くて苦しいのに、奏の心配ばっかしてる」
「そうか」
これ以上、こいつに恋の情事を聞くのは無粋。
あとは、無事に帰ってくる2人に任せる。
それに、やっぱこいつは肝っ玉が据わってやがるな。
俺が目の前で十数人殺したのに、こいつは俺を怖がるどころか、さらに助けを求めてきやがった。
―――バカかよ。
もぬけの殻になった事務所を後にして、俺たちは外に出ようと廊下に出た。
すると、突然人の気配がこちらに向かってきた。
「死ねえ!」
「あ、そういやお前もいたな」
完全に見張りの人間がいることを忘れてた。
俺はほぼ脊髄反射で相手を斬って殺した。
外に出ると、道路側で美織が待っていた。
「美織!」
「思ったより時間がかかったわね」
「条華院さん……」
「蔵敷君は私が責任もってあなたの家に送り届けるわ」
「蔵敷の家に、この状態で返すわけにはいかねえか。それでいいや」
「頼むぞ、翔一……」
「任せとけ。あ―――あとな家族に無事なことは伝えておけ。姉さんが心配してたぞ」
そう言うと、蔵敷はコクリとうなずいた。
ここでついていきたいとか言われなくてよかったな。出しゃばられても、正直邪魔だったから。
「じゃ、美織、後は頼んだ」
「了解。今日の報酬は、晩飯でいいわよ」
「女の子なんだから晩御飯って言っとけ、馬鹿」
「うるさいわね。今更女らしさとかいらないわよ」
「そうかよ」
そうやり取りをしてから、俺はすぐに出発しようとすると蔵敷に止められた。
「翔一!」
「なんだ?」
「死ぬなよ」
「なに言ってやがる。俺を誰だと思ってる。俺はな―――」
「―――お前の親友だぞ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「それにしても、いい女だったな」
「そうだなあ。まだ処女ってのがいいよなあ」
「組長も物好きだよな。起きてから、泣きながら懇願しているところで犯してやるって」
「だよなあ……終わったら俺たちも好きにしていいって―――あれ?どこいった?」
ついさっきまで隣にいた男がいなくなってキョロキョロしている男は、突然宙に浮いて、首を掻っ切られた。
そして、そのままその男は天井に張り付けられた。
こうなった以上、意図的に探さない限り、男が見つかることはない。そして、2人を殺した男は天井から降りてきた。
美織の言葉通り、2秒で到着した俺は、組合の隠し拠点に来ていた。
とりあえず、奏がまだ奴らの手に落ちていないというのは確かか……
なら、早々に助けて――――
「いやあああああああああああ!」
―――今の声、奏だ。
俺は声の聞こえたほう、建物の奥の奥へと走っていった。
―――――――――
俺がが来ていた建物の奥では、下着一枚にされた奏が分娩台のようなものに拘束され、固定されていた。
「ぐへへ……いい啼き声じゃねえか」
「いや!なんなの?放してよ!」
「お前が従順になったら放してやるよ」
「い、いや!?なにそれ……汚い!近づけないで!」
奏が自身の顔に近づけられたものを見て、絶叫する。男はその反応すらも楽しんでいた。
奏はそんな状況でも抵抗の意思を見せ続ける。
拘束されながらも、ガチャガチャと身をよじらせたりと頑張るが、それらは一切の意味を見出さない。
「そうだ。もっとだ、もっと抵抗しろ!抵抗が大きければ大きいほど、犯した時の快感は凄まじいものなんだ!」
そう叫ぶ男に、その場にいるほかの構成員たちは、「ああやって何人壊してきたんだよ」とか「後処理すんの面倒なんだぞ」とか言いたい放題だ。
だが、そんな不敬な言葉にも今の組長は寛大だ。
なにせ、活きのいい女を抱けるのだから。
ガタン
「なんだ?」
突如として、音のなったほうを全員が向く。
だが、そこにはうなだれている男が一人いるだけだった。
「おい!なにしてやがる!冷めちまったじゃねえか」
その言葉に連動して、その場にいた構成員たちが詰め寄る。
自分の組の男だということがわかっているからか、高圧的かつ馬鹿にするような言葉が飛び交う。
だが、それでもうなだれたままなんの反応もしない男。さすがにしびれを切らした構成員の一人が肩を持つと―――
ドタン
「し、死んでる……」
「嘘だろ……でも、今しっかり立って……」
「なにやってんだお前ら!」
「組長、コイツ死んでます!」
「はあ?」
そんなやり取りをしていると、突然死体が動き出した。
「うわ!?なにするんだ!」
「こいつ、なんで……」
突然怪奇現象に、その場にいた全員が驚く中、組長にだけ聞こえる音で、拘束具が外れるような金属音が聞こえてきた。
「誰だ!―――って、女がいねえ!どこ行きやがった!」
きょろきょろと奏のいる場所を探すと、部屋の隅に彼女を抱きかかえている男がいた。
「し、椎名君?」
「こんなあられもない姿になって……悪かったな。夜遅いんだから、2人を送っていけばよかった」
「え……?」
「奏、ここはお前のいる場所じゃない。帰るべき場所で、お前を待っている男がいる。だから―――」
「し、椎名君、どうするつもりなの?」
「―――こんな凄惨なものは見ちゃいけない」
「な、なに言って……うっ!?」
俺は言いたいことだけ言って、奏を眠らせた。
俺のやり方は薬じゃない。単純に、俺の法力を彼女の体に流し込んだだけだ。
あの時の金剛と試合をしたときの攻撃の応用だ。
「お前ら、覚悟はできてんだろうな?」
「なんだてめえ!」
「ここからは、お前たちの組を蹂躙する」
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