第112話 朝起きて
カシャカシャカシャカシャカシャ
翌日、俺はけたましい機械音で目を覚ました。
眠い頭をたたき起こして体を持ち上げると、そこにはスマホを構えた奏がいた。
「なにしてんの?」
「いやあ、天羽さんと仲がいいなあ、って」
「……?ああ、一緒に寝てたからか?」
「ダメだ……椎名君の恥じらい成分が足りない!」
「なに言ってんだよ……」
奏は言いながらスマホのカメラを構えた。
俺としては、撮られること自体は言ってくれさえすればかまわないのだが、玲羅はいいというのだろうか?おそらくこれもグループに送られるだろうし、また羞恥で死にそうになるだろう。
「んぅ……しょういち……?」
「ああ、起きたのか。おはよう、玲羅」
「ぎゅー……」
起きたばかりの玲羅は、まだ寝ぼけているのかほかの人がいるということを忘れている。奏が写真を撮っているというのに、それに気づかず、俺に抱き着いてくる。
ずっとぎゅーって言いながら頬をすりすりしてくるもんだから、すごくかわいい。俺はそんな玲羅の頭を撫でてみる。すると、俺はそのまま押し倒されて、キスをされた。
「ちょ、玲羅……」
「むふふ……翔一の顔が近くに……イケメンだなあ」
「玲羅さんや、嬉しいけど、周りを見てほしいな」
「ふぇ……?あ、あれ?奏……?―――えっ」
「お気づきなられたようですね。さて、今まであなたはなにをしていたでしょう」
「あ、天羽さんって積極的だね……」
「あ、あ、あ、あ……」
眠そうな頭を回して、どうにか俺と玲羅以外に子の情事を見ていた人物がいたということを理解すると、すぐさま顔が真っ赤になった。
2人きりでするのですら恥ずかしいところを他人に見られた。玲羅のライフが一撃で持っていかれたのだろう。
「あ、あはは……まさかこんなのが撮れるなんて……」
「奏……」
「な、なにかな?」
「頼む、消してくれ。こんな姿を他人にだけは見せたくない……特に、同じ中学の奴には」
「い、いいよ……さすがに恥ずかしいもんね」
「悪いな、奏」
玲羅に言われたとおりに奏は写真を消した。復元の可能性もあったが、彼女は写真を削除ファイルからも完全に削除してくれた。
そこまでやってくれれば、そうとうのプロじゃない限り復元はないだろう。
少し奏も頬を赤らめていたが、彼女もいいものが見れたと自身が寝ていたところに戻っていった。
「大丈夫?」
「……ちょっと、声を出していいか?」
「いいよ。じゃあ、布団かぶろうか」
そう言って、俺たちは添い寝をするような形でもう一度掛け布団を口に当てるようにした。
俺も隣に寝ているので、それの巻き添えを食らうのだが文句は言わない。
ちょっと待っていると、彼女はくぐもった声で叫び始めた。
「あああああああああああああ!恥ずかしいいいいいいいい!」
叫んでいる姿は可愛いの一言に尽きた。むしろ、それ以外に適切な表現がない。
彼女は叫びながら、むーむー言っているから少し部屋に響いているが、そこは言わないでおこう。
そんなことを考えていると、玲羅の叫びは段々とエスカレートしていった。
「だって……だって!翔一カッコいいじゃん!起き抜けにこんなカッコよくて大好きな人がいたら、イチャイチャしちゃうよ!こんな私も受け入れてくれるし?料理も上手で、胃袋も掴まれちゃったし?キスとかいっぱいして、幸せにしてほしいし、私だって翔一を幸せにしたいよ!だからいいじゃん!」
「ちょ、玲羅さん!?落ち着いて!」
突如として暴走し始めた玲羅をなんとかなだめると、またまた顔を真っ赤にして布団の中に逃げてしまった。
俺はそんな彼女を抱きしめながら、もう一度横になった。
「んぁ……うるさいなあ……」
「あ、起きたのか?」
「まあな。翔一はいつ起きたんだ?」
「ちょっと前。蔵敷は朝飯の前に、朝風呂行くか?」
「そうだな……って、中に誰かいるのか?」
「いいや、まあ外に出るならその浴衣なんとかしろよ」
「へ……?あ!めっちゃパンツ見えてる!」
「奏、今がチャンスだ!」
「おま!?なに言ってんだよ!」
俺が合図を出すと、奏が飛び起きてきた。
その姿に蔵敷はドン引きと言ってもいいくらいに顔を真っ青にした。
だが、彼女は写真を撮るとかではなく、顔を真っ赤にしながらも浴衣の胸のあたりに手をかけて治し始めた。
「か、奏……?」
「ふ、服くらいちゃんと着よう。その……眼福だけど、目のやり場に困っちゃう……」
「あ、ありがとう……で、でもこれくらいは自分でできるよ」
「い、いいじゃん。少しくらい、好きな人に尽くさせてよ……」
隣の空気が甘い……。いや、俺たちの言えることじゃないか。
「んぅ……うっさいわね」
「あ、美織が起きた」
美織が煩わしそうに起きたので、俺はそちらの方に向くととんでもない光景が広がっていた。
「お前……なんつう格好してんだよ」
「んぁ?ああ、浴衣がはだけてるわね……」
「はだけてるわね……じゃねえよ!とりあえず直せよ!見てらんねえよ!」
起きたばかりの美織は、浴衣がはだけてるとかいうレベルではなかった。
かろうじて体につながってるのは、帯がついてるからであって、袖にすら腕が通っていない。まあ、つまるところほとんど全裸だ。
あれ?よく見たらこいつ……
「なんでノーパンなんだよ、お前!」
「着物ってパンツ履かないじゃない」
「それ浴衣だろ……え?浴衣もパンツ履かないの?」
「知らないわよ。でも、最近暑いからこれがちょうどいいのよ」
「ほぼ、全裸だろ?風邪ひくぞ」
「うっさいわね。いいじゃない、これで男は喜ぶんでしょ?」
「俺は、幼馴染がそんなこと言ってると、不安になるぞ」
「なにがよ。あなたには彼女がいるじゃない」
「だとしてもだよ。恋人じゃなくても、お前は俺の大事な人だ。男に襲われてるのをみすみす見てられないさ」
そう言うと、美織はそれ以上反論してこなかった。
わかってくれたか?と思ったが、そのままの格好で歩き始めた。
「だから、着ろよ!」
「どうせ朝風呂行くし……」
「行くまでをどうすんだよ!とりあえず、着ろよ!」
そんなことを叫びながら蔵敷の方を見ると、奏が蔵敷の眼を手で覆っていた。―――なにしてんのよ
「だ、ダメッ!刺激が強すぎる!」
「な、なに!?なんにも見えない!奏さん、なになに!?」
今日も朝からうるさいメンバーなことだった。
その後は、朝風呂に入り、朝食を食べてホテルを後にした。
ここで解散かと思っていた一同は、美織の釣りに行こうという発言に、度肝を抜かれるのだった。
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