第107話 美織式爆弾投下術
「でええええりゃあああああ!」
「こらっ!結乃は女の子なんだから、そんな声出さないの!」
「くたばれ兄貴ぃ!」
「口が悪い!」
バシャバシャと水をかけあい、楽しみながら海を満喫していた俺たちは、なんと今はドッチボールをしている。
なぜ、砂浜でやる……普通、バレーだろ……
しかもご丁寧に、ドッチボール専用ボールなんか使ってやっている。
結乃の弾を見事にキャッチした俺は、相手陣地に向かって思いっきり投げようとしたが、我に返って地面にボールを叩きつけた。
「なにしてんだよ!海だぞ!」
「あら翔一。海でドッチボールをする人たちはすでに存在してるわよ」
「そうじゃねーよ。普通、ビーチバレーだろ?なんだよ、ビーチドッチって!」
「おーい、早く投げろよ!」
俺が美織に対して抗議をしていると、相手陣地にいた蔵敷がそう言ってきた。
なんかムカついた俺は、蔵敷に向かって言い放った。
「うるせえ!リアルアン〇ンマンやんぞこら!」
「独特かつめちゃくちゃに怖い脅しすんなや!てか、それじゃあ顔面セーフじゃなくて顔面完全アウトだよ!」
「うまいこと言うじゃねえか……」
「狙うな狙うな!」
と、まあさすがに殺すわけにはいかないので、胴体に向かって手加減して投げた。
「ぐふっ……」
「なっ!?止めただと……」
「なにこれ、翔一たち少年漫画でもやってるの?」
俺の放った球は、見事な直線を描いて、蔵敷の土手っ腹に切り込んだが、彼はどうにかして止めた。さすがに手加減したとはいえ、取られるとは思っていなかったので驚きだ。
「へへ、翔一、これでお前がアウトになったら、俺とお前は親友だ!」
「なにをそんなにこだわってるんだお前は。もう、親友は作らん。何度もそう言ってるはずだ!」
「でも、俺が勝ったらそうしてくれよ!」
「―――いいぜ、勝負は勝負だからな」
そう言うと、蔵敷はにやりとして助走をつけ始めた。
―――が、その途中で倒れ込み、ボールをこぼしてしまった。
そのボールは相手の陣地のラインを超え、俺のいる陣地の方に転がってきた。
「く、蔵敷君!」
「クソ……体が動かねえ……」
まあ、俺の弾をまともに食らったんだからそうなるよな。
俺はそう理解した瞬間、容赦なく蔵敷にボールを投げた。彼に駆け寄ってきている奏には当たらないようにして。
俺が放ったボールは弧を描き、嫌いに蔵敷の胴に命中した。
だが、それがよくなかったのだろう。
奏が冗談半分で怒った。
「椎名君、人の心ないの?」
「すぅ……想定外の返しが来たな」
「蔵敷君、こんなボロボロなんだよ……とどめなんて……」
「いや、少年漫画のセリフだなあ」
奏もだが俺も雰囲気は軽い。本気で怒っているわけじゃないし、ネタだということも十分に理解しているからな。
だが、蔵敷は本当にふらふら見たいだ。
真正面から受け止めるからだよ。
それからは奏が看病をしたりと、色々あったがなんだかんだで午前が終わった。
昼飯は、事前に頼まれていた弁当を広げるのだが、飲み物とかは各自で持参だった。
なので、俺と玲羅は結乃たちに荷物番を任せて、出店にジュースを買いに行った。
「らっしゃせー」
「レモンスカッシュ」
「ジンジャエールを。あと、俺がどっちも払います」
「二つで300円です」
俺は言われたとおりの金額を出し、飲み物を受け取ると玲羅とともに歩き始める。
すると、彼女は少し申し訳なさそうに言ってくる。
「その、すまないな。お金出してもらって……」
「別にかまわない。ていうか、玲羅はもうちょっとお金を払ってもらう感覚に慣れたほうがいいよ」
「払ってもらう……」
「うん。でも、当たり前とは思っちゃだめだよ。だけど、男はその人といい関係を築きたい。その人と一緒にいたいと思ったら、その人のために財布のひも緩めるんだよ。玲羅はそういう男の感覚に慣れてないんだよ」
「し、仕方ないじゃないか。生まれてこの方、交際関係に発展したのは翔一だけなんだから」
まあ、男性経験がないのも原因っちゃあ原因か。でも、本当に彼女は奢られるときは申し訳なさそうな顔をするからいただけない。いや、その感情があること自体は素晴らしいことなんだけどね。
「よく言うだろ?なんかいも謝られるより、たった一回の感謝のほうが嬉しい。って」
「そ、その……飲み物を買ってくれてありがとう……」
「ふふ、どういたしまして」
「ど、どうして頭を撫でるんだ!」
「ふーん、その割には手を払いのけるとかしないんだね?」
「そ、それは、嫌じゃないから……」
「かわいい……」
「うぅ……」
頭を撫でると、申し訳なさそうにしている表情から一転、恥ずかしそうに真っ赤になった。
うん。玲羅はそっちの方がいいな。
そこはさすがヒロインって感じだな。
色々あったが、荷物番をさせていた結乃たちのところに戻ると、こちらもこちらでなにやら面倒そうなことになっていた。
「なあなあいいだろ?俺たちと遊ぼうぜ」
「ねえちゃんたち綺麗だから、色々奢っちゃうよ」
「だから、私たちは待ってる人がいるんです」
「鬱陶しいわね。潰すわよ?」
まあ、定番のナンパイベントだ。
しかし、美織が関わるとこういうシナリオは変な崩壊をする。関わりたくないなあ。
だが、そんな俺の空気を察してかそうじゃないか、玲羅は結乃たちのもとに俺の腕を引いて近づいていった。
近くに行ったことで、美織が俺に気付き笑顔で走ってきた。いやな予感がする。
俺の予感は的中し、玲羅のいる方とは反対の方に来て、腕を組んだ。
「私はこの人のかれ―――」
この人の彼氏というベタな返しをやろうとしているのだが、それは無理だ。
それでは俺が二股してることになり、事態がさらに面倒なほうに向く。
それがわかっているのか、美織は彼氏と言いかけて、それをやめた。だが、その後に続いた言葉は誰も想像しているようなものじゃなかった。
「私はこの人の―――セフレよ!」
「「「「!?!?!?!!?」」」」
その場にいた俺はもちろん。近くにいた玲羅や結乃。そして、ナンパ男たちも驚いた。なぜそうなった。というか、こうなるから関わりたくなかったのに……
それから色々あって、ナンパ男は消えていったのだが、俺は見ず知らずの人たちから彼女持ちでありながら女に手を出すクズみたいな評価を受けている気分だった。
美織、お前は後で10回は殺す
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