第91話 後日談

注意

この世界はフィクションです。実在する団体、人物とは一切関係がありません。

現実で刀持ってたら普通に捕まります。そんなこたあわかってます

なので、そういうツッコミもなしの方向で








 事件から数日


 俺と美織は、すべての件の片づけに見舞われていた。

 あの後、俺が制圧したという話は全て警察の内部の人間が行ったことになっている。


 さすがに、俺の実名を出すわけにはいかないからな。

 クラスの奴らには、おそらく俺になにかしたらあの時の男のように消されると思って、誰にも言わないだろう。


 支配するには恐怖が一番ってやつだな。


 玲羅はというと、事件に巻き込まれて両親がひどく心配していて、見ていられなかったので、一旦彼女の自宅に帰した。

 こういう時くらいは、家族と一緒に揃えることできるということに幸せを感じてほしい。


 まあ、彼女がいなくて寂しい気持ちはあるけどな。


 そんな俺は、片付けも終わり、1人で家の中でくつろいでいた。


 学校は、2週間ほど休みになることになった。

 まあ、当たり前と言えば当たり前だ。


 あんまり休みの期間取られても、受験に響くから長くやられてもほかの生徒たちが困ってしまうだろうがな。


 にしても、本当に最近のニュースは希静高校の襲撃事件のことしかやっていない。


 世間的には、犯人の所在も目的もわかっていない。

 それどころか、警察はなんの情報も明らかにしていないので、本当は生徒に死傷者がいるのではないかと言っているメディアも少なくない。


 真実を知るものとして、滑稽な話ではあるがな。


 今見ている番組も、本当は政治的駆け引きがあるのではないか、とか言ってやがる。見当違いもいいところだ。


 にしても、今回の件の『麗しき夜空の会』は、末端の一部でしかない。

 二家が追いきれない組織のひとつだ。この後も、何かしらのアクションを起こすに違いない。

 そのカギを握るのも、あの時保護した幼女だろう。


 俺はそうを考えるも、ニュースは面白くないので、チャンネルを変えて録画画面を起動した。

 最近、あんまりテレビ見てなかったし、録画してたバラエティでも見るか。


 「なーにがあったかなー」


 そんなことをつぶやきつつ、見つけた録画ファイルを選択して、俺はその番組の次の回、その次の回と、ずっと見ていた。


 ボーっとしながらテレビを見ていると、いつの間にか時計の針が12時を指していた。


 腹も減ってきたので昼飯を作ろうと立ち上がろうとした瞬間、俺の視界は突如として塞がれた。


 「だーれだ」


 俺の視界をふさいだのは、誰かの手だ。


 あったかくて、柔らかい。そして、愛情を感じるような強いながらも優しい触れ方。今、俺の心の一番奥底に触れている人だ。


 「玲羅だな」

 「ふふ、せいかーい」

 「俺が玲羅のことを間違えるわけないだろ?」

 「それもそう……ひゃわ!?」


 玲羅がなにかを言いかけたが、俺は手がのけられた瞬間に振り返って、玲羅の体をソファの上に押し倒して抱きしめた。


 「寂しかったなあ」

 「わ、わひゃしも……」

 「ひゃ?」

 「か、噛んだだけだ!わ、私も、翔一と会えなくて寂しかった!……これでいいか!?」


 俺が少しからかうと、玲羅は顔を真っ赤にして怒った。

 そういう姿も可愛いだけだから、少しなごんでしまう。


 まあ、彼女が本気で怒っていないのがわかっているからなのかもしれないが。

 彼女が本気で怒ったら、真顔になるので間違いない。


 「あらあら、私が見ないうちに玲羅はこんなに骨なしにされてたのねえ」

 「ああ、早苗さん来てたんですか?」

 「最初からいたわよお?ただ、玲羅が目隠しをしていちゃつき始めたから、声をかけなかっただけよ」

 「気を使っていただいてなによりです……」


 まあ、早苗さんの言葉通り、玲羅は今顔を俺の胸にうずめている。

 正確には頭をすりすりしているから、もっと可愛いのだが。


 そんな彼女の頭を俺は優しく撫でてやる。すると、心から気持ちいと思ってくれているのか、彼女の喉から「くるる」と言った鳥みたいな声を出してくれた。

 どこまで可愛いんだ、俺の彼女は。


 「懐かしいわねえ……私も激しかった次の日には、優しく撫でてもらうだけで、あの人の沼に入っていったものよ」

 「一緒にしてほしくないなあ……」

 「そう?私も玲羅も親子ってことよ。その子を大事にしてあげてね」

 「……言われなくてもしますよ。世の中には恋人を大切にしない人とかいるらしいですけど、俺はその人たちの気がしれませんね。こんな、誰よりも一緒にいようと思える人をないがしろになんて、俺にはできませんよ」

 「翔一?どうした?」

 「……いや、なんでもない」

 「辛いことがあったら私に甘えてくれ。私も、甘えるのも好きだが、翔一に甘えられるのも嫌いじゃないぞ」

 「ありがとうな」

 「じゃあ、私は帰るわね。後はお二人さんで楽しんでね」

 「あ、ちょっと待って……」


 俺は、帰ろうとする早苗さんを呼び止めた。

 今日は、気分がいい。玲羅がこんなに張り付いて、ふわふわしてるような気分だ。数日ぶりに彼女の暖かさに触れたからかな?


 「今日の昼、うちで食べていきませんか?」

 「……玲羅と2人きりになれるのに?」

 「彼女との家族とも仲良くする。それが恋人円満の秘訣ですよ」

 「翔一、それを言うなら夫婦、そして妻だ」

 「ダメか?」

 「ああ―――なにせ私たちはもう、夫婦なのだからな」

 「……それもそうか」

 「あらあら」


 それからは俺が昼飯を作るということで、2人にはリビングでくつろいでもらっていたが、作っている間、リビングからは玲羅と早苗さんが惚気合っている声が聞こえてきていた。

 ちょっとうれしかったが、恥ずかしさも少しだけ感じた。


 2人にかまってばかりではなく、俺が作ったのはシンプルにそうめんだ。

 まあ、食べていきませんか?って言っておきながら、冷蔵庫の中は週末作ろうと思ってた食材ばかりで、ろくなものがなかった。


 仕方ないので、作り置きの出汁を出して……ダジャレじゃないよ?


 玲羅もいるので、少し多めに湯がいた。

 本当に彼女は誰の遺伝子なのか、本当によく食べる。まあ、そのエネルギーも全部胸にいっているみたいだけど……


 さすがにこれは本人の前では言えないな。真顔で怒ってしまいそうだ。

 そうやって、玲羅のことを想像しながら作っていると、すぐに麺が茹で上がった。


 だが、ここで想定していないことが起こった。


 「翔一くーん、もっとないかしらあ」

 「あ、もっと作りますね」

 「ありがとうねえ、あの人の前で、あんまり食べると体の心配されるから、いつも多めに食べられないのよお」

 「……あ、そうなんですね」


 まあ、なんだ。あれだよ、玲羅と早苗さんは、本当に親子だったってことだよ

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