第67話 過去・暴走

 「グルアアアアアアアアア!」

 「く、クソッ!なんなんだよっ!」

 「ギシャアアアア!」


 ある道場にて、一方的な蹂躙が行われていた。

 片方の少年は、攻撃をしてくる少年から距離を取ろうとするも、攻撃側の動きが速すぎて、思うようにいかない。


 「翔一……」

 「美織、不安か?」

 「はい……言ってました、『武装』が使えるようになったと言っても、法力が脳を支配する。そんなのじゃ、獣と変わらない、って。言葉の通り、今の翔一は獣としか言えません、師匠」

 「そうか……わしにはしゃべらん癖に、幼馴染には話すのか」

 「翔一は、家の人間を信用してないんですよ」

 「美織はどうなんだ?」

 「私も……信用をしてないわけじゃないけど、嫌いです。技術に固執して、何人を悲惨な目にあわせてきたか……」


 そう言う老人の近くにいる少女―――もとい、幼き頃の条華院美織。

 目の前で起きているのは、『白亜幻竜拳』の新たな一歩となるであろう『武装』を生み出した翔一が、それを使って暴走している最中だ。


 その状態は本当にひどいものだった。

 常に密接するように相手に張り付き、持ち前の速さで攻撃を叩き込み続ける。


 相手がかわいそうに思えるほどに、ボコボコにしている。


 「ふむ……全神経に法力を流し込んで、強制的に身体能力を引き上げる技か……」

 「師匠、これ以上はいいでしょう?このままでは相手が死んでしまいます!」

 「そうじゃな……2人ともやめっ!」

 「グアアアアアアアア!」

 「や、やめろって言われてるだろ!し、師匠!」


 師匠と呼ばれる老人が、停止の合図を出すが、翔一は暴走して周りの声が聞こえていない。

 それどころか、制止の声を聞かずに熾烈な攻撃を加え続けている。


 「ちっ、なんて技を生み出してしまったのだ!」

 「グルアアアアアアアアア!」

 「そこまでだ!翔一!」


 ビシッと老人が翔一の眉間に人差し指を立てると、翔一の動きは糸が切れたとい思えるほど突然止まった。


 「ふんっ!」

 「がっ……」


 そこから、老人から衝撃波が周りに飛び、美織もなにが起きたのか理解できない間に、翔一の意識が奪われてしまった。


 「翔一!」

 「大丈夫。意識を失っただけだ」

 「で、でも……」

 「少し寝れば、気が付く」


 そう言われはしたが、心配だった。

 美織にとって、翔一は初恋の相手だ。たとえ、婚約者がいて、数日前にフラれていたとしてもだ。


 それから数年後


 「綾乃を襲った犯人、わかってるんでしょ?」

 「ああ……」

 「なら、殺してきなさいよ。あなたにはそれだけの権利があるのよ」


 中学生になった美織は、荷物をまとめて透明島を出ようとしている翔一に言った。


 「殺したいほど憎い。そういう感情を持っているのは否定しない。だが、それは殺していいの免罪符じゃない。今の俺は椎名家の後ろ盾を失ってる。俺がなにかをすれば、結乃を一人にすることになるんだ」

 「そう……なら、あなたに戦う理由があれば、『武装』を使うの?」

 「そうだな、もし、俺に好きな人ができて、その人に命の危機が訪れたら使うかもな」

 「好きな人……私じゃダメなの?」

 「ダメじゃない。でも、美織を愛すのは、なにかが違う。だから、ごめん」

 「はあ……いいのよ。でも、これからも私だけは友人にしてよ」

 「ああ、お前は俺の悪友だ」


 こうして、翔一は家を出た。この時はまだ、玲羅という誰よりも大事な恋人ができるだなんて、2人ともが想像だにしていなかった。


◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


 「んぁ……?」

 「ん、起きたか」

 「翔一?ここはどこ?」

 「いつもの場所。玲羅が寝ちゃったから、起きるの待ってたの」

 「そうか……っ!?」


 眠気が段々と冷めていき、意識が完全に覚醒したのか、つい先ほどまでに起きていたことを思い出したのか、玲羅はサッと胸を自身の腕を庇うように隠した。


 「いや、今更隠すのか?」

 「ま、まだ残ってる……」

 「なにが?」

 「……触られた感触」

 「んん!」


 実を言うと、俺もまだ鮮明に思い出せる。

 あの、玲羅の柔らかい感触が、俺の手のひらに残っている。


 そんな感触を思い出しながら、手を開いたり閉じたりしていると、玲羅が小さな声で抗議をしてきた。


 「えっち……」

 「いや、誘ったの玲羅だよね?魅力ないの?って言ったから、触る以外の選択肢なかったじゃん!」

 「さ、触らなければよかっただろ!」

 「ああ!?そりゃねえよ。玲羅は魅力にあふれてるんだから、魅力があるってわからせるしかないだろ!」

 「うぅ……言えば言うほど、自爆して、幸せな気持ちに……えっちぃ」

 「ダメだこりゃ。恥ずかしすぎて語彙力失ってるよ」


 そんな玲羅を教室に戻すわけにもいかないので、少しだけ回復を待ってからいつもの場所を後にした。


 立ち上がってから、後者に入るまでの間、玲羅は力強く俺の腕に絡みついていた。

 絡みつくことによって、腕に強調されている凶器が挟んでくるのだが、もしかして無自覚とか馬鹿なことある?


 まあ、なにがとは言わないけど、ものすごくいいからどんどんやってほしいのだけど。


 そんなことを考えながら、腕に当てられている感覚に集中していると、どこからか口論のようなものが聞こえてきた。


 「なあ、付き合ってんだよ!」

 「嫌よ!あんたは活躍してないでしょ!だったら、付き合うなんて嫌!」

 「うるせえ!女は俺の言うことを聞いとけばいいんだよっ!」

 「きゃっ!?」


 見れば、先刻の野球試合のいざこざにおいて、俺に活躍の場を奪われた金剛が、双葉の幼馴染である一色に迫っている状況だった。


 「またやってるよ……」

 「翔一……なんとかできないのか?」

 「うーん……あいつの親が議員らしいけど……事後処理が面倒そうなんだよなあ」

 「助けて……あげてくれ……」

 「ん、おけ」


 玲羅の頼みなら断る理由はない。

 俺は、すかさず金剛と一色の間に割り込んだ。


 「!?―――てめえ、あの時の一年!お前のせいで!」

 「責任転嫁もいいところだ。そもそも、みっともないんだよ。やることなすこと」

 「ああ!?喧嘩売ってんのか、てめえ!」


 ダメだ、会話にならねえ。

 俺はそう考えると、一色をもう少し後ろに下がらせて、金剛から完全に手が届かないところまで移動した。


 その動きに沸点の低い金剛は激昂した。


 「てめええ!ぶっ殺す」

 「……」


 俺は飛んできた拳を止め、金剛に伝える。


 「問題になると面倒だから、試合形式の勝負でこい」

 「ああ!?なんだよ!びびってんのか!」

 「勝負形式はなんでもいい。それこそ野球でもサッカーでも―――そういえば、この学校の体育館って、ボクシング部のリングもあるんだっけ?」


 その言葉を聞いた金剛はにやりと笑うと、言った。


 「いいぜ、その勝負受けてやる!絶対逃げんじゃねえぞ!」


 そう言って、走り去っていった。


 その後、金剛の姿を見送った俺たちは、一色の安全を確かめていた。


 「大丈夫か?」

 「あ、あんたこそ大丈夫なの?」

 「俺の心配なんかいいから、大丈夫ならとっとと大好きな幼馴染のところに戻るんだな」

 「だ、大好きじゃないわよっ!」

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