第34話 帰宅

 京都駅から新横浜駅での移動で俺は見事に玲羅を恋人にすることができた。てか、これまでの生活を振り返ったら、フラれるなんてちゃんちゃらおかしいんだけどな。


 マジでフラれてたら女性不信ものだ。マジで考えるだけでもおぞましい。


 そんな俺の恋人である玲羅は、現在―――


 「翔一……」

 「なんだ?」

 「呼んでみただけだ。私のこ、恋人を……」

 「可愛いやつめ」

 「~~~っ、不意打ちはダメだぞ」

 「玲羅はいいのか?」

 「私はいいんだ!」


 ―――イチャイチャ中だ。俺たちの告白シーンは奏を通して、クラスの奴らに筒抜けだった。

 奴は、写真を撮るとともにグループチャットで通話をし、クラスの奴らにLIVEしてやがった。なんかいつの間にか『椎名天羽を見守る会』なんていうグループができていた。

 ちなみに、俺たちはそのグループに入っていない。というか、入れてくれない。なんか、見られたらまずいものがあるらしい。


 俺が「盗撮写真か?」と聞いたら、すごい勢いで目をそらしたので間違いない。


 だからこそというか、俺たちの関係はもうバレている。それならばと、玲羅は目一杯甘えてくる。もう少しで、俺のキャパが壊れそうだ。


 新幹線の中は、クラスの人たちだけで固まっていたので問題はなかったが、在来線はそういうわけにいかない。

 それでも、玲羅は俺の腕にがっちりしがみついて離れようとしてこない。


 そう電車に乗っていると、突然電車の車体がガタンと音を立てて揺れた。その衝撃で、玲羅が俺の胸に飛び込んできた。以前までは、恥ずかしがりながらすぐに離れていったのだが、今は違う。


 「……もうちょっとこのまま……」

 「はいはい……」


 飛び込んだまま、俺の背中に腕を回し抱き着いているような体勢になる。玲羅の身長は、俺よりも頭半分だけ低い。だから、玲羅の暖かい吐息が首筋あたりにある。

 ぞくぞくするよ。


 なんて冗談は置いておいて、可愛すぎる。とにかくだ。


 このままでは俺の言語機能が失われてしまう。そんな状態を数十分耐え、ようやく解散場所の最寄り駅に到着した。集合時は整列するため、一時離れなければならないのだが、玲羅がその時に名残惜しそうな顔をしていたのが、本当に心に来た。早く抱きしめたい。


 「――――と、いうわけで途中トラブルに巻き込まれたが、全員無事で帰ってくることができた!お前ら卒業まで問題起こすなよ!」

 「「「「はーい!」」」」

 「『はい』は短く!」

 「「「「うす!」」」」

 「先生に馬鹿にしているのか!」

 「「「「はい!」」」」

 「いい返事をするなあ!」


 ……仲いいのな。俺の元居た学校なんて先生が生徒にへりくだってたり露骨に見下したり最悪だったからな。今見ても新鮮だな。


 先生の話も終わり、俺たちは家へと帰っていった。玲羅は一度自宅に帰るかと思ったが、「卒業式の日に翔一と一緒に帰ろうと思う」と、言っている。

 今日は―――というより、今日も俺の家で過ごすみたいだ。


 イチャイチャしながら家に帰った俺たちは、玄関に入って結乃に帰りを伝える。


 「「ただいま」」

 「あ、お帰り。お客さん来てるよ」

 「ん?ああ!てめえ、なんでここがわかった!」

 「いや、あの時期に修学旅行なんて……学校特定してくださいって言ってるようなものですよ、翔一様」

 「翔一、この人は?」


 家に帰ると、結乃の他に籠の仮面をつけた男がいた。


 はあ、他の家の奴に居場所バレてねえだろうな?


 「こいつの名前は、柊弦太郎ひいらぎげんたろう。うちの家の―――実験体だ」

 「は?」

 「うちの家はただの武術宗家じゃない。それだけわかっておいてくれ。俺はあの家が嫌いだ。その象徴が柊のおっさんだ」

 「ち、ちょっと待ってくれ!じゃあ、この人は……」

 「大丈夫だ。ちょっと人より強いけど、結局うちの家の人間より強くはない。だから、こいつがなんかしようとしても、俺が止められる」

 「そうじゃない!この人は改造人間なのか?」

 「まあ、そうだな。かみ砕けばそうなる。だが、俺がこの実験に関わってない。だから―――」

 「別れないさ。私は翔一のことならよくわかってるつもりだ。お前が他人を不幸に陥れるような奴じゃないのは知ってるさ」

 「その通りです」


 玲羅が俺の手を握って、俺のことを安心させようと言葉をかけてくれている中、柊が玲羅の言葉に同意してくる。


 「翔一様は、私たちにとっての希望となってくれたのです。この方がいなかったら、私たちは殺されていたかもしれません。だから、私は翔一様と、その恋人。そして唯一の家族である結乃様もお守りします」

 「その心がけはうれしいが、結乃も守ってもらわなきゃいけないほど弱くないぞ」

 「そうでしたね。では、なにか不便があったらお伝えください」

 「は?もしかして……」

 「ここの近くに引っ越します。今度は私が翔一様をお守りします。たとえ命に代えても……

 では」


 相変わらず、話を聞かない。独断先行。本当にいつ死ぬかわからんやっちゃな。


 まあ、今は玲羅とイチャイチャすることだけ考えよう。もう、ジジイとはお別れしたんだ。関わる必要はない。


 「翔一、私は帰宅したことを両親に伝える」

 「わかった。じゃあ、俺は横で過ごしてるわ」

 「わかった。ただ、あんまり過剰な反応をしないでくれよ?」

 「……?まあ、いいか。わかった」


 そう言うと玲羅は自身の携帯を起動し、玲羅の両親に電話を掛けた。


 「もしもし、母さんか?無事に家に帰れたよ……え?家に帰ってきて無事な顔を見せてくれって?……悪かったって。でも、翔一のおかげで無事でいられた。じゃあ、明日に一回翔一を連れて家に帰る。

 ―――そうだな。本当に悪いと思ってるさ。でも、私のせいじゃないんだ、心配してくれるのはうれしいが、あんまり怒らないでくれよ。

 あ、そうだ。翔一と付き合うことにした。……ふぇっ!?し、してない!それに今帰ってきたばかりだ!それにまだ私たちはそんな不純な気持ちで付き合ってるわけじゃない!……でも、そういうことはしたいなって思う。




 ―――じゃあね母さん、父さんにもそう伝えておいてくれ。……やっぱり父さんは大騒ぎだったか。ふふっ、じゃあ、私に彼氏ができたと言ったら……そうだな、発狂しそうだな。母さん―――」


 楽しそうに会話していた玲羅が、目を閉じて少し息を吸った後、こう言った。


 「―――私、とっても幸せだ」

 「玲羅……」


 早苗さんとの電話が終わった玲羅は、電話を切った後、俺の方を向いてきた。

 これはキス待ちだ。いや、キスしやすい位置に来るのを待っているのか?


 俺は少しだけ玲羅の顔に近づくと、彼女は俺の唇を奪った。

 口腔内をちろちろと動く舌がなんとも気持ちよく、幸せな気分にさせてくれた。































 ―――ああ、なにもかも忘れられたらいいのに……










あとがき

あと50人……そうフォロワーが1,000人を超える。もしそうなったら、本編には関係ないエピソード作ろうかと考えてます。なにとぞ!

こんな話が見たいという人はぜひコメントに来てくれ!短編みたいな感じで作るから!

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