第33話 情熱的な愛
事件から数時間―――というより、その日の夕方に俺たち事件に巻き込まれた班員たちは事情聴取を終え、警察署を後にした。
あれから数時間しか経っていないが、マスコミは大騒ぎだ。かつてない凶悪犯を、中学生が制圧したのだ。警察の責任などを問う声も多いが、そんなことよりも、俺みたいな行動は危険だと批判する声の方が多い。
なぜ、人助けをして叩かれなきゃならんのか。
ちなみに、俺は制圧した当人として、他の人より長く事情聴取を受けてしまった。だが、どの質問に対しても「鍛えてますから」とキメ顔で言ってたら、あきれられた。
とりあえず、罪に問われるようなことはしてないが、危険ではあるので、あまりしないようにと注意はされた。
まあ、巻き込まれない限りあんなことはしないさ。
そんなやり取りをして、警察署を出ようとすると、1人話しかけてくる女性警官がいた。
あの時に、人質に取られてた人だ。
「今回はありがとうございました」
「いいですよ。そこまで死にそうになったわけじゃないですし」
「でも、そういうわけにはいかないんです!本当にすいません!修学旅行を台無しにして」
「いいですって。いい思い出ができましたし、見た感じ、誰にもトラウマは出来てないみたいなんで」
「寛容ですね……」
「そう、俺は寛容なの。だから一回頭下げてくれればいいの」
「恩着せがましいですね」
「うるさい」
ったく、無事でよかった。なぜ脱獄したのかとか気になるところはあるが、あとは警察が事後処理をするはずだ。俺の関わることではない。
女性警官は、俺に頭を下げると業務に戻っていった。報告があるのだろう。
警察署を出ると、自動ドアの隣にいる警備員の隣に俯いてる玲羅がいた。
一瞬気付かなかったぞ……
「なにしてんだ天羽」
「……」
「え!?」
俺が話しかけると、玲羅は無言で抱き着いてきた。ちょっ、人目が
「玲羅……」
「ん?」
「玲羅って呼んでくれ」
「ど、どうしたんだ?」
「一緒にホテルに行きたかった」
「あ、ああ。じゃあ、ホテルに行こうか」
「……うん」
なんだろう、雰囲気がラブホ行くみたいだ。まあ、俺たちは健全だからそんなところ行かないけどな!
歩き始めると、玲羅は俺の腕にしがみついて離れようとしない。なにがあったなんて野暮なことは聞かない。俺が死んだかもしれない。ただそれだけで、絶叫するほどのショックを受けたのだ。
それが原因だろう。
今回、傷ついたものはいないが、玲羅の心に大きな傷をつけてしまったのかもしれないな。少し―――いや、だいぶ悪いことをしてしまった。
「ごめんな玲羅」
「……ばか」
「なんかしてほしいことあるか?」
「翔一の作った餃子が食べたい」
「帰ったらな」
「うん……楽しみ」
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
ホテルに戻った俺と玲羅はエレベーター内でキスして、その日は別れた。
部屋に帰った時、質問攻めにあったのは言うまでもない。豊西に泣きながら「天羽を助けてくれてありがとう」といわれた。じゃあ、自分で「無事でよかった」って言いに行ってやれよ。
そして、時は過ぎ、事件の翌日。俺たちは今、帰りの新幹線に乗っている。
隣には俺の肩によっかかる玲羅がいる。腕に抱き着いて、離そうとしない姿がなんとも愛らしい。
そんなことを考えながら、リラックスしていると、玲羅の隣にいた奏が話しかけてきた。
「そういえばさ、椎名君ってなんで生きてたの?」
「ん?」
「だって撃たれてたじゃん」
「ああ、これのことね」
「なにそれ?」
俺がポケットから取り出したのは黒い塊。主成分はおそらく鉛だ。
「弾だよ」
「弾って……え!?」
「警察には運よく当たんなかったって言ったけど、実際は俺が素手でキャッチしてたの」
「は!?意味わかんないんですけど」
「いや、言葉の通りだ。理解してくれよ」
「わかるけど!わかるけども―――え?そんなことできるの?」
「そうだな……機関銃くらい乱射されなければキャッチくらいできるかな」
「もうなに言ってるかわからない……」
そう言って、奏は頭を抱える。まあ、素手とは言ったが、マジの素手ではさすがにつかめない。そこはうちの武術があってのことだ。
奏と会話をしていると、急に俺に尿意が襲ってきた。
トイレ行きたいな……
「ちょっとトイレ」
「……」
「行ってらっしゃーい」
俺がトイレのために立ち上がると、玲羅も立ち上がった。ついてくるつもりか?
そう考えつつもそれはないと思って男子トイレに入ると―――いる!めちゃくちゃ扉の外で待ってる。怖いよ!
俺のそのプレッシャーに耐えつつ、用を済ませると扉を開けて外に出た。
席に戻るために移動しようとすると、玲羅に車両を出入りするための空間に引きずり込まれた。
「れ、玲羅?」
「翔一……聞いてくれるか?」
「なんだ?」
場所はあれだが、真面目な雰囲気だ。ふざけてはいけない。
「翔一……私は重いぞ」
「なんとなくわかってる」
「私は嫉妬深いぞ」
「全然気にしない。むしろ恥ずかしくなるくらいに玲羅だけを見てあげる」
「……っ、そ、束縛が激しいかも……」
「どんとこい」
「そ、それでもいいのなら……ん!?」
「もう一回言わせて……」
俺は玲羅の言いたいことを察して、人差し指で玲羅の口をふさぐ。少しだけ当たる玲羅の吐息があったかい。
俺の思いをぶつける。漫画キャラゆえにかなうはずのなかった恋。俺の心を癒してくれたその笑顔を俺が救いたい。
「玲羅……好きだ。この世界で誰よりも君を愛してる。だから、俺と付き合ってくれ」
「翔一は、私がどんな答えを出すと思う?」
「うーん?『私こそ、よろしくお願いします』か?」
「全然違う」
「え?……どういう―――っ!?」
俺が驚きを返そうとした瞬間、玲羅の唇に止められた。
たっぷり、舐られた後、玲羅は言う。
「全然違う。私は―――私はお前を手放すつもりはないぞ。これから一生、私を愛して、私の愛を受け取ってくれ。だ」
「ははっ、情熱的だな。玲羅、これからもよろしくな」
「ああ、もっともっと夢中にさせてくれ……ん……くちゅ……」
その時、俺たちは初めてディープキスをした。お互いを求めるような熱いキス、初めての感覚に脳がとろけてしまいそうだ。
カシャ
その雰囲気をぶち壊すかのように、機械音が鳴り響いた。
音の下方向を見ると、奏がこちらにカメラを向けていた。
「おめでと、2人とも。私も勇気もらっちゃった」
「お前なあ、2人だけの雰囲気壊すなよ」
「連絡しないで戻ってこない2人が悪いんだよ。それはそうと、この写真見て」
そうして、奏が見せてきたのは一枚の写真だった。
その写真には、車窓に写った夕日をバックにキスをしている男女の写真だ。というか、今撮った写真だろう。
にしても―――
「いい画になるなあ」
「でしょ?いる?」
「ああ、額縁に入れて飾ろう」
「な!?翔一、なんて恥ずかしいことを!」
「いいだろ?思い出を少しずつ増やしていこう」
「そ、そうだな……」
「目の前でイチャイチャしないでよ。虚しくなるよ」
こうして、俺と玲羅は奇妙な同棲コンビから、晴れて恋人同士になったのだった。
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