第10話 敵か味方か

Side 白木 巡


 ──いや怪しすぎんだろ。

 俺は慣れた手つきで酒を作る男を見てそう思った。


 ……超高度な隠蔽結界が張り巡らされたビルに、仮面を被ったバーの店主……逆にどこを疑えば良いか分かんねぇレベルだろ。

 ……ハァ、たまたま捜索がてら歩いてたら、こんな怪しげな場所に来ちまうとはねぇ……めんどくせぇ。


 流石に見逃すことはできねぇ。

 この仮面を被った男が敵か味方かそれとも一般人か。

 

 見つけちまったからには、それを判断しねぇと異能犯罪の犠牲者がまた増えることになる。

 めんどくせぇよ。めんどくせぇけど、誰かが笑っていられる世界には犯罪を取り締まる人間が必要なんだよ。


「……マスター。あんたはどうしてこんな人気のない寂れたビルで商売を? あ、タバコ良いかい?」

「ええ、大丈夫ですよ。……そうですね、安かったから、ですかね」

「そりゃこんな立地じゃ安いわな」


 補充したばかりのオイルライターで火を点ける。

 モクモクと煙が湧き出たタバコを一吸いして、ふぅ、と心を落ち着かせるようにシケモクを吐き出していく。


 安いから、ねぇ。

 当たり前だろうが。こんなクソみたいな治安と立地で店舗構えようとするアホなんざどこにもいねぇんだよ。

 

 間違いなく嘘だな。まあ、相手さんもこんな嘘がまかり通るとは思ってもいねぇだろうし……できれば俺がどうやって隠蔽結界に影響されなかったかは伏せておきたい。

   

 仮面の男がもしも異能犯罪者であった場合、隠蔽結界を潜り抜けてきた俺を確実に怪しい目で見ることは避けられない。

 ただの異能者であっても俺が怪しいことには間違いない。


 一番面倒なのは仮面の男が異能犯罪者で、俺が特異だとバレた場合だな。戦闘は避けられねぇし、オマケに男が身を置く犯罪組織の規模感も分からないままになってしまう。

 だからこそ、"裏社会"のただの異能者として振る舞うのが理想か。


「ふぅ……」

「こちら、ストロベリー・ダイキリです」

「おお、随分とまあ懐かしいもんを。今じゃもう流行っちゃいねーが俺は好きだぜ」


 作るのが若干面倒な上に、割と作り手の技量が試される。

 ちょいと昔にはお洒落だということで流行ったもんだが、今じゃあまり見ない一杯だな。

 飲みやすいカクテルとしても知られているし、好みも何も分からねぇ客に出す一杯としては実に適切だ。


 まずは一口。


「──コイツは美味いな。イチゴの風味もしっかりしているし、何よりも甘さのバランスが丁度良い……良い腕してんな」

「お褒めいただき恐悦至極」


 謙遜するように仮面の男は小さく頭を下げた。

 ……俺の通説だが、美味い酒を作るヤツに悪い人間はいない、というものがある。勿論、極悪人が美味い酒を作る可能性は否めないが、俺の長年の刑事としての勘が──、


 ──男のことをただの一般人だと導き出している。


「はっ……」


 んなわけねぇか。勘が鈍ったか?

 こんな高密度な隠蔽結界のビル中で仮面被ってバーのマスターしてる如何にも怪しいヤツが一般人なわけあるかよ。

 今は勘より目で見たモンで判断しろ、俺。

 ……とりあえず探るか。


「……最近はここらも物騒だな。つい先日も南浦川の方で変死体が発見されたって話があるが……知ってるかい」

「ニュースのほうで少し。……いやはや痛ましい事件ですね。犯人もまだ見つかっていないようですが──警察は何をしているのでしょうねぇ?」

「────っ、そう、だな」


 ……まさかバレたか? いや、確信はないはず。

 動揺しそうになった表情の揺れを一瞬で抑え、男の言葉に同意する。……この状況で警察についてのことを持ち出してくるとは……確証はないが俺のことを特異なんじゃねぇかと疑ってるようだな。


 ……ボロは出してねぇはずだが只者じゃないな。

 やはり隠蔽結界を抜けてきたことが警戒に値したか。

 この仮面の男が敵かはまだ分からない。中には特異を嫌っている異能者もそれなりには多いからな。男もその手合いの可能性は十分にある。


 ……ただこの洞察力と雰囲気。

 敵に回ると間違いなく厄介になるだろう。

 

 ふぅ……落ち着け落ち着け。 

 

『──心の内に、煮え滾る想いがあっても構わん。怒りが、憎しみが、哀しみがあっても構わん。ただ、その矛先とタイミングだけは見間違うな』


 ……異能の師匠の言葉が蘇る。

 今はタイミングじゃない。情報を絞れるだけ絞って、男の身元確認をして……そこから敵か味方かを判断する。

 もしも隠蔽結界が男の手によるものであれば、特異としては是非とも結界術の異能者として招き入れたい。


「時にマスター、俺以外の客はいるのか」

「数人。どなたも物好きな方ですよ」

「そうか」


 これだけの高度な隠蔽結界を潜り抜けられる人間が数人か……この地区はできる限り見て回る必要があるかもしれないな。

 それにビルの情報も探る必要がある。……あー、めんどくせぇ。やる事が多すぎる。

 だが、んなこと言ってる余裕なんてねぇ。


 ……仕方ない。一つ、釣り出してみるか。


「マスター、最近は◯◯通りの廃墟で行方不明になった人間が数人いるそうだ。間違っても近づかない方が良いと思うぜ」

「お気遣いありがとうございます。ですが、私はただのバーの店主ですから、そのような場所には近づかないと思いますよ」

「ははは、それもそうだな」


 ……ここは特異が掴んだ異能犯罪者のアジトがあるとされている場所だ。……知っているなら多少の反応は現れると思っていたが……そうではないようだな。

 

 ……飄々としていて掴みどころがない。

 あぁクソ、別に俺は情報収集に長けてるわけじゃねぇからな……こういう時どうやって情報を引き出せば良いのかまるで分からねぇよ……!!



☆☆☆


 なんかあんまり会話続かなくて気まじ〜〜!! 


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