第19話 悪役とメイドは、いいコンビ
時間というのは楽しいほどあっという間に過ぎていき……。
「アトラクション結構回れたな」
「はい」
俺と雲雀は、最後に観覧車に乗っていた。住んでいる高層マンションの最上階の景色も凄いが、観覧車から見る景色も、街全体を見渡せて綺麗だ。
「観覧車は大丈夫なのですね」
「ゆっくりだからな」
ちなみに、真上に思いっ切り上がってからの真下に落ちたりするやつや空中ブランコでは、また酔ってしまってヤバかった……。
ゆっくりと回る観覧車がてっぺんに差し掛かった時だった。
「雄二様。今日はありがとうございました」
「楽しめた?」
「はい、とても楽しめました」
雲雀は膝に手を添えて、俺の目を真っ直ぐ見つめて答えた。
「なら、良かった」
俺は笑顔で返す。
今日は楽しくて満喫できたよい一日とお互いに思えて良かった。
あと半周すれば、遊園地で遊ぶのも終わり。……なんだが急に寂しくなるなぁ。
「雄二様」
「ん?」
「私の話を少し……してもよろしいでしょうか?」
「どうぞ」
俺は姿勢を伸ばす。
雲雀は一息つき……語り始めた。
「私は昔から優秀だけどつまらないと言われました。理由は……表情がいつも真顔だからです。嬉しいも悲しいも楽しいも……全部感情が表にでない真顔だから、人の輪に溶け込めませんでした」
雲雀が膝に置いた手をぎゅっと握りしめる。……その小さな動作だけで、過去の苦労が伝わってくる。
「私自身も、自分がそういう人間だと割り切って、我慢して……過ごしてきました。そんな私が真顔で淡々とできる仕事に就きました。それが……メイドでした」
「………続けて」
「メイドは優秀であれば文句は言われない。たとえ真顔でも仕える方にはなんの影響もない。興味を向けられない。私も真顔で、ずっと仕事をするだけの……はず、だったのに……」
「?」
急に声が震えてきて……
「貴方という人は、最初。私のことを道具としか思ってなかったのに……」
『メイド』
『はい、なんでしょうか雄二様』
『その……いつもありがとうな。高校入ってからも世話を頼む』
「ある日、突然。人が変わったようにお礼なんて言ってきましたね」
……転生して直後の話か。あの時は、お世話になるであろうメイドさんに何か言っておこうと思って掛けた言葉だったけ。
「その何気ない一言から私は、雄二様と関わりたくて仕方なかったです」
「………!」
雲雀の口からまさかの言葉が出て目を見開く。
「人にお礼を言われるなど、初めてでした。今まで、優秀な私ならできて当然のように扱われてきましたので。私は雄二様に興味が湧いたのだと思います」
一息つき、続ける。
「雄二様も私に興味を示してくれて話しかけてくれましたよね。……さすがに、ちんちんはどうかと思いましたけど」
「あれ、結局心の中では引いていたのかよ!?」
「いい思い出ですよ。そして今日の遊園地も。だからこそ、今改めて思います」
「何を?」
「心の底から、仕える方が雄二様で良かった、と」
ハッキリと告げる声は、感情のこもっていない冷たいものではなく、いろんな感情がこもった明るい声。と、言っても声のトーン自体は低いので微妙の差だが。
「雄二様は私がメイドで良かったですか?」
「そんなの……」
「はい」
「当たり前だろ!」
はにかんで親指を立てると、雲雀が少しだけ口角が上がった……笑みをまた俺の前で見せてくれた。
遊園地を出てからは、電車を乗り継ぎ、マンションまで歩いて帰っていた。
「そういえば雄二様。近々学園のイベントがございますね」
「イベント? なんの?」
「クラスの親交を深めるイベントです」
「えっ、そんな俺に向いてないイベントとかあるの?」
なんのことか分からず首を捻っていると、雲雀が呆れたように言う。
「あと2週間ほどで林間学校があります。覚えておいてください」
「りん、かん、学校?」
あー、あったなぁそんなイベント。ゲームでも。
大きな出来事といえば………
『おい誰だよ! 担任にサプライズプレゼントするためにみんなから集めたお金が入った封筒取ったの!!』
プレゼント代金紛失事件。
犯人は別にいたが、美人姉妹と仲が良い主人公のことを不快に思った笠島雄二が、主人公に罪をなすり付けようとしたあの出来事。
二度目は俺が主人公に罪をなすり付けるようなことはしない。
しかし、事件自体は起こってしまうだろう。ゲームでは犯人は音声もなく、文字だけで話していたので未然に防ぐことができない。
事件が起こってしまえば、真っ先に疑われるのは、クラスからの好感度が一番低い俺であって………。
…………あれ? 美人姉妹の問題よりやばくない?
「なぁ、雲雀」
「はい」
「……林間学校を休むいい言い訳思いつかない?」
「何をバカなことを言ってるのですか。ちゃんと行ってください」
「はい……」
やっぱり自力で頑張らないといけないですよねぇぇぇぇぇぇ!!!!
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