08 魔力制御
◆◆◆
初代皇帝の蔵書の模造品を入手し、ようやく作戦を進められる───そう思っていたが。
「《冥界》の女神よ、一体どういうことだ」
「ぁん? なんのことだ?」
拠点に戻ると人質にした子どもの姿はなく、それ以前に捕まえて暴魔化させておいた子どもまで居なくなっていた。
「捕えていた子どもをどうした……!?」
「あぁ。自力で逃げ出していったぜ」
持ち物は調べ、魔法陣を持っていないことは確認していた。
『解析』しても異様な魔力の痕跡は一切ない。
「どうやって……!!」
「知らん。見張ってろとは言われたが、逃がすなとは言われてねーからな」
出口から出たとしても、そこは魔族の巣窟。幼い子どもが簡単に出て行ける環境ではない。
(子どもだからと、油断しすぎたか……)
こんなことなら暴魔化の安定など待たず、早めに『服従』魔法をかけておくべきだった。
地上に長居しすぎた、と思わず舌打ちをする。
やはりいつまでも、この《冥界》と地上の時間の流れの違いに慣れることができない。
「勘違いするなよ。アタシの目的は《冥界》の繁栄だ。
お前の目的のために協力してるわけじゃねぇんだよ」
「……わかっている」
《冥界》の女神の機嫌を損ね、出て行けと言われては困る。準備が整うまでは、この拠点が必要だ。
(まぁいい……蔵書の内容さえわかれば、どうとでもなる)
これまでの歳月を思えば、暴魔の一人や二人失ったとて大した痛手ではない。
積年の恨みは骨身に沁みつき、もはや憎悪と執念によって生き長らえているといっても過言ではない。
悪しき皇室を裁き、その血を途絶えさせる―――その目的を遂げるまでは、宿怨の炎で命を灯し続ける。
◆◆◆
一行は再び、軍基地へ戻る。
ナジュドは一旦皇宮へと戻っていった。
厳重な警備と結界のもと、フェルモとカイリはしばらく軍基地で保護されることになった。
早く2人を休ませてあげたかったが、その前に『解析』をさせてもらう。
「魔力容量は……フェルモが950万、カイリが350万。元の状態に戻ってそうだな」
智希が言うと、フェルモが頷いた。カイリの代わりに、リオンとリイナも頷く。
暴魔化したフェルモの魔力容量が13億6800万だったことを考えると、暴魔化により魔力容量が約140倍に膨れ上がっていたことがわかる。
「……俺たちに共通する技能ってのは、これか」
そしてようやく見つけた、智希・フェルモ・カイリに共通する技能。
「《魔力制御》が、フェルモは12、カイリは10だ。俺も……まぁ似たような数だ」
魔導師の平均は3~5と聞いていたが、フェルモは12、カイリは10、智希は無制限となっている。
《魔力制御》が10を越える者は珍しい、と以前ナジュドが言っていた。
その後も『解析』を続けるが、その他に3人が共通する要素は見当たらなかった。
『解析』を終えたので、カイリとフェルモ、そして2人の家族は医務室へと移動することとなった。
室内は、3人の皇級魔導師と智希、光莉の5人だけとなる。
トゥリオールは、自身の髭を弄りながら言う。
「《魔力制御》は、同時に発動できる魔法の数と言われていたが……」
「それもあるんでしょうけど、魔導核が暴走しても自我を保てるという意味での“制御”なのかもしれませんね。
例えば、《魔力制御》が10以上だと自我を保てる……みたいな法則があるのかも」
同時発動数などの言葉ではなく、わざわざ《魔力制御》という言葉で表されることがずっと引っ掛かっていた。
魔力の制御───つまり魔力のコントロールに長けていることを表す数字だと言われると、納得がいく。
「《魔力制御》が10を越える者は本当にごく僅かだが……2人を連れ去った者は一体どうやって2人の《魔力制御》が高いと見抜けたんだ?」
「……エレシュキガルは蝶を調教して、特定の技能を持つ者を引き寄せたと言っていました」
「れ、例の黒い蝶か……!!」
トゥリオールは驚いた様子で声を上げる。
フェルモ、カイリ、そして智希はいずれも、黒い蝶に引き寄せられるように行方不明となっていた。
「《魔力制御》が関係するかはわかりませんが……
暴魔化しても自我を保てる者を、蝶を使って集め次々と暴魔化させているのは間違いないと思います」
智希の言葉に、トゥリオールとアウグスティンは言葉を失う。
智希は、情報収集を続ける。
「ここ数十年の行方不明者って…どれくらいいるんですか?」
「……世界で、年間150万人程度といったところか。
ほとんどはすぐに見つかるが、2~3%は1年以上見つかっていない」
アウグスティンの説明を聞く限り、年間で45000人程度は見つからないままとなっているということだ。
ワーウルフ族のリーダーの話ではここ数十年に渡り、暴魔化した者が《冥界》と《魔界》の間を行き来しているとのことだった。
「数十年規模で見ると、見つからないままの行方不明者は100万人規模ってとこですかね」
「そのうち、《魔力制御》10以上の者が暴魔化させられ捕らえられている可能性があると……」
「正直、見当もつかんな」
アウグスティンとトゥリオールは口々に言い、項垂れた。
《魔力制御》自体は、皇級以上の魔導師による『解析』でなければ確認できないようで、多くの者は自分の《魔力制御》がいくつなのか知らずに生活しているという。
つまり、行方不明者のうち何人が《魔神》に捕らえられているのか―――《魔神》がどれだけの規模の戦闘力を抱えているのか、全く予想がつかないということだ。
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