06 魔神竜









 次の瞬間、《クイーン》と数匹の従魔は魔導訓練場にいた。


「謀ったか……!」

「あぁ。ただでは通さないさ」


 《クイーン》と同時に訓練場に転移した智希と光莉が、《クイーン》に対峙する。

 智希はわざと結界を破らせて結界内に誘い込み、結界の内側に『特殊結界・転移』を張っていた。クイーンらが結界内に入ると訓練場に転移するように仕組んでいたのだ。


「……フン、どちらにせよお前たちを倒さねば先へは進めんようだな」


 こうして対峙してみると、《クイーン》は4000年以上生きているようには見えなかった。見た目は精霊王と変わらない、もしくはそれよりも若い10代後半くらいに見えた。


「手塩にかけ育てたドラゴンを、ここまで蹂躙されるとはな」

「……悪かったよ。どいつも責任もって面倒見るから、安心しろ」


 《クイーン》の表情は読めない。対峙する2人に対しての、強い殺意のようなものはあまり感じられない。


「『召喚・従魔』」


 …が、このまま終わらせるつもりもない様子だ。《クイーン》は再び従魔を呼び寄せた。

 ワイバーンの大群が一気にこちらに押し寄せてくるが、智希たちの周囲には結界があるため近付けない。


「『粉塵爆発(ダストエクスプロージョン)』」


 かわりに攻撃を仕掛けるとあっという間にワイバーンは倒れてしまう。『失神(スタン)』の魔法をかけ、外に転送する。


「ちっ……『召喚・魔神竜』!」


 再び召喚を行うクイーン。これまでのドラゴンとは桁違いに大きい真っ黒なドラゴンだった。

 黒い炎を吐くと、炎が触れた壁にドロドロの液体が付着し煙を上げている。


「まだドラゴンいたのか…!!」

「な、なんかよくわかんないけどヤバそう…!」

「あれには絶対に当たるな!」


 絶えず黒炎を吐き続ける魔神竜。

 その間に、《クイーン》も2人に向かって攻撃を放ってくる。智希と光莉はそれぞれ、自身に『回避力上昇』をかけた。


「うわ、またMP吸収されてる…!」

「『透過』!」


 魔神竜も闇ドラゴンと同様にじわじわと2人のMPを吸収しているようだったので、智希が光莉と自分自身に『透過』をかけ身を隠す。

 同じ術者が『透過』した者同士であれば互いの姿がうっすら見えるので、智希と光莉は互いの位置がわかる。


 『透過』により魔神竜からのMP吸収は停まった。

 《クイーン》は2人の位置がわからないのか、先程までとはうって変わって闇雲に攻撃を放っている様子が見て取れる。


(《クイーン》はなんで『心眼』を使わないんだ? 使えないのか…?)


 『心眼』を使えば、『透過』した相手の姿も捉えられるようになるはずなのに。

 …と思ったら、数秒後に舌打ちをして「『心眼』」と唱え、再び2人の位置を捉えた様子で攻撃を仕掛けてくる。


(この間はなんだ……?あ、もしかして……)


 智希は、先日のナジュド達との会話を思い出す。《魔力制御》―――同時に発動できる魔法の数。

 ナジュドらは5~6とのことだったが、智希と光莉は『無限』だった。


(《クイーン》にも、同時に発動できる魔法の上限があるのかもしれない…)


 《クイーン》が『心眼』を発動させるまでに、幾秒かの間があった。

 それは、同時発動数の限界だったために他の魔法をどれか解除しなければならなくなり、迷っていた可能性がある。

 つまり《クイーン》は、、という仮定ができる。


(この状況で解除するとしたら、あの魔法だろうな…)


 こうして考えているうちにも、魔神竜と《クイーン》は間髪入れずに魔法攻撃を放ってくる。


「あのドラゴン、いい加減うっとおしい~!!」

「でかいの、ぶち込むか」


 そのために、《クイーン》をこの部屋に呼び寄せた。魔法が吸収されるこの部屋なら、周囲を気にすることなく強大な魔法が使用できるからだ。


「『絶対零度(アブソリュートゼロ)』『猛追』」


 防戦一方だった智希が、二つの魔法を重ねて唱えた。飛び回る魔神竜を追いかけるように、氷の波が押し寄せる。ようやく捕らえると一瞬で身体を凍らせ、身動きがとれなくなる。


「『融解』!」

「『爆豪波(デストネーションウェーブ)』」


 氷を溶かすべく《クイーン》が唱えるが、それよりも早く火属性の神級攻撃魔法を放ち、魔神竜を蹂躙させた。


「『隕石落下(ミーティアストライク)』」


 さらに智希が隕石を落下させると、魔神竜は完全に意識を失った。

 訓練場は魔法吸収のおかげで被害は無いが、結界があっても衝撃を感じるほどの巨大な魔法だった。《クイーン》も結界でなんとか持ち堪えている。


『光莉。とにかく四方から攻撃しまくって、《クイーン》を部屋中動かしてくれ』

『了解!』


 光莉に『念話』で指示を伝える。

 魔神竜が倒れてからは、《クイーン》との撃ち合いの連撃戦となった。


「『火炎地獄(インフェルノ)』」

「『大津波(タイダルウェーブ)』!」

「『暴風雨(テンペスト)』」

「『聖なる大剣(ホーリーグレイトソード)』!!」


 《クイーン》は俊敏に動きながら、留まることなく攻撃を撃ち続ける。智希と光莉も、同程度の攻撃力の魔法を撃ち続けた。


(やっぱり《クイーン》は、神級攻撃魔法は使えないんだな…)


 『服従』『召喚』などの高度な魔法や防御魔法、罠魔法、属性魔法などは使用できても、地球破壊規模の攻撃魔法は使えないようで、智希らに向けられる攻撃も皇級魔法レベルだった。


 一部聞いたことのない魔法もあったが、威力はやはり皇級レベルだ。…それでも連発されれば十分な攻撃力になるが。


 ただ、魔力だけは無尽蔵に高い。だから何万人もの魔族を率いて戦えていたのだろう。








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