05 神級魔法の継承








 話し合いを終え、一同は懇親会がてらイージェプト王都の飲食店で食事を摂ることにした。

 イージェプト名物の魚料理の店らしい。

 グリルされた白身魚や小魚のフライ、海老料理などが次々と運ばれてくる。


「美味しい~~~~っっっ」

「スパイスが効いてマジ美味い……」


 元の世界ではもちろん食べたことのない外国の料理に、2人は舌鼓を打つ。この世界に来て、美味しいものを食べてばかりだ。

 光莉はモロヘイヤのスープをすすりながら言う。


「こっちの世界には、お刺身はないのかな?」

「元の世界でも、生魚を食べる文化って海外じゃ珍しかったりするもんね」

「魚を生で!?考えられん……」

「魚を新鮮に保つ仕組みがないと、難しいですよね」


 2人の発言に、マイヤは驚いた様子で言う。

 マイヤの反応に、光莉は嬉しそうに話す。


「うふふ、こっちの世界の人は損してるね。

 お刺身もお寿司もだーいすき」

「な。回転寿司とか超テンション上がる」

「智希の好きな寿司ネタは?」

「マグロ、ハマチ」

「私はヒラメとタイ…貝類もいいなぁ」

「な、なんだそのカイテンズシってのは!

 貝を生で食べる!?正気か……!?」


 マイヤに聞かれ、2人は幼い頃に行った回転寿司の記憶を辿る。


「寿司が……寿司ってのは、お酢を混ぜた白飯を一口サイズに握って、その上に生の魚を乗せて醤油をつけて食べるんです。

 めちゃめちゃ美味いっす」

「そのお寿司を乗せたお皿が、動くレールの上に乗ってお客さんのテーブルを順番に回るの。

 食べたいお寿司が席に来たら、それを取って食べる」

「食べ物がテーブルを回る……!?なぜそんなことを……」

「なんでだろ。回った方が楽しいから??」


 興味津々のマイヤに、光莉は絵を描いて寿司や回転寿司の説明をした。

 マイヤの反応が面白いようで、光莉は寿司ネタの種類まで説明し始めている。

 スィラージュはケバブのようなものを頬張りながら、智希に言う。


「トモキ達の世界は、随分と技術が進歩してるんだな。

 この世界にいても、つまらないだろう」

「そんなことないです。こっちは知らないことだらけで、毎日楽しいです。

 それに元の世界では…俺たちの国は比較的裕福だったけど、貧困や差別に苦しむ国も多くあった。

 技術が進んだぶん環境破壊も進んで、地球はあと何年もつんだろうって思ったり…」


 特に中東やアフリカ大陸の人たちは、豊富な天然資源があるからこそ長く続く戦争に苦しんできた。

 今もなお戦争が続き、食糧難となっている地域も多い。


 毎年のように起こる異常気象も、地球温暖化も。

 便利な生活と引き換えに環境汚染を続けてきた人間たちの誤算だった。


「だから、先祖のしてきた成功も失敗も知ってる俺らが、ここに連れて来られたのかもしれませんね。

 同じ失敗を繰り返さず、世界を発展させるために」

「心強いよ!新しい提案があったらどんどん教えてくれ。

 その代わり俺たちも君たちの助けになるよう手を貸していく」


 スィラージュの言葉に、智希はほっと胸を撫でおろす。

 この世界の大人たちは、本当に優しい。

 自分たちが召喚者だからだとは思うが、こんな風に真剣に話を聞いてくれることが嬉しかった。







 食事会を終え、智希と光莉は帝都へと戻ってきた。

 午後は、神級魔法の引き継ぎのためにナジュドのもとを訪ねることになっていた。

 訪れた皇宮の魔導訓練場には、ナジュドとロブルアーノの他に3人の若者がいた。


「今日はよろしく頼む。

 息子たちも同席させて欲しいのだが、構わないか?」

「もちろんです、よろしくお願いします」

「第一皇子、ザイル・ギルガメシュだ」

「第二皇子のリドワーン・ギルガメシュです」


 既に風格のある第一皇子のザイルに、智希たちと同い年くらいの第二皇子、リドワーン。

 2人はそれぞれと握手を交わし、自己紹介を返した。


「初めまして。第一皇女のジュリです」


 そして恐らくリドワーンの妹と思われる、第一皇女のジュリ。

 ジュリも2人とそれほど年は変わらないか、少し下に見える。


「お父様!ジュリも見学したいわ」

「ダメだよ。神級魔法は、皇位継承者だけに与えられる魔法だ。

 ジュリには全てを見せるわけにいかないんだよ」

「ジュリも召喚者様と仲良くなりたいんだもん……」

「その気持ちはわかるが…」


 うるうると目に涙を浮かべるジュリ皇女。ナジュドは困った様子でジュリを慰める。

 ナジュドは意外と子煩悩なのかもしれない。


「父上。お2人を今夜の夕食に招待してはいかがですか」

「それいいな!元の世界のこと色々聞かせてほしい。

 父上、いいだろう?」


 リドワーンとザイルの提案に、ジュリは目を輝かせた。

 結局智希と光莉が今夜の夕食に招待されることで、話が落ち着いた。

 ジュリはロブルアーノに促され、訓練場を出ていった。







 図書館の蔵書にあった神級魔法は3500種ほどだったが、皇室に継承されている神級魔法はそのうちの500種ほどだった。

 継承されている魔法に関しては、詠唱や術式がこちらの世界の言葉でしっかりと残されており、皇室で代々管理されていたようだ。


(皇室に伝えられてる神級魔法は、世界の統治に必要な最低限の魔法…って感じだな)


 継承されている魔法の一覧を見ると、『収納』『翻訳』などの比較的便利な魔法や『解析』『洞察』『服従』などの人を操るような魔法、それに『特殊結界』は概ね一覧に入っている。


 反対に、地球を滅ぼすような強大な攻撃魔法は見当たらず、『魔法創造』や『魔法陣生成』など新たな魔法を広めるような魔法も含まれていなかった。


「トモキ。ここの術式がわからん」

「これはですね……」


 智希はナジュドに、光莉はザイルとリドワーンに付いて魔法を教える。

 見本を見せ術式を説明し実践、という手順で3人ともどの魔法も問題なく使うことができ、ひとまず安心する。


「『収納』って便利だな!荷物持ちいらねーじゃん」

「容量はどれくらいあるんでしょうね?」

「見る限り限界なさそうだね。水いっぱい流し込んでみる?」


 光莉はさっそく皇子たちと仲良くなったようで、既に敬語が無くなっている。さすがのコミュ力だ。


 神級魔法は大量の魔力を消費するため、途中何度か“マナの混和”を行う。

 ザイルはリドワーンと対を結んでいるようだった。


「妻のエライザ・ギルガメシュだ」

「お会いできて光栄です。

 皇帝陛下と皇子たちを、よろしくお願いしますね」


 ナジュドは妻であるエライザ皇后陛下と対を結んでいるようだ。

 何度かエライザを呼び寄せては、“混和”を行っていた。


 やはり術式と詠唱が読めないナジュド達は魔法の習得に時間がかかるようで(本来神級魔法は5~10年かけ次世代の皇族へ引き継がれるものらしい)、思っていたほどは進まなかった。


 途中、糖分を摂取して効率を上げようという話になり皇室料理人がお菓子を用意してくれた。


「…じゃあ、皇族の中でも魔力が際立って高いのは数人なんですね」

「あぁ。

 同時期に存在する高魔力の者は最大6人…皇帝、その弟、第一・第二皇子、さらに第一皇子の長男・次男というところだな」


 皇族にどのように神級魔法が伝わってきたかを、ナジュドが説明してくれる。

 不思議なことに、強い魔力が引き継がれるのは第一・第二皇子のみで、皇女や第三以降の皇子には強い魔力は引き継がれないらしい。


「それにしても、皇族の方が進んで作戦に加わるとは思いませんでした」

「そんなの当然のことだろ」


 智希の言葉にザイルが答える。

 対ドラゴン戦の作戦を立てるにあたって、現皇帝であるナジュドと、第一皇子のザイル、第二皇子のリドワーンも作戦の要となっている。

 ナジュドも改まった様子で言う。


「我々はこの魔力を“神からの賜り物”と考える。

 我々の世界では魔力こそ全てであり、それを神から与えられた以上は《臣民を守る》という責務を果たさなければならない。


 力のある者はその力を供与し守りながら、人々の為に力を使わねばならぬ。

 そうやって我々の魔法は引き継がれてきたのだ」


 リオンも同じようなことを言っていた。

 力のある者が周囲を救うのは当然だ、と。


 その理念が根底にあるとしても、その力を保身のためではなく人々の為に使おうとする皇族たちは、臣民たちから見ても誇り高いものだろう。








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