綱渡り


 冬崎柳白に出会ったその日から、ようやく一つになりかけていた私の世界は、また真っ二つに分断されてしまった。

 正義のヒーローよりも悪役が好きだ。人気者よりも、皆に嫌われている日陰者が好きだ。何故ならその方が愛しいから。私に似ているから。だから私は冬崎柳白のことが大好きだ。

 人間は結局、自分のことが一番可愛い。自分が一番愛おしい。よく耳にする言葉だけれど、真理だ。そんな理屈でもって、私は彼を愛している。もう死のうという気すら起こらない。ここ最近は生きる活力に満ちていた。大変喜ばしいことだ。いつも陰気な顔をして暮らしているよりも、生き甲斐を持ちながら日々を過ごしている方が私も周りも幸せだというものだ。唯一の欠点は、そのたった一つの大切な生き甲斐を失ってしまうことは、同時に私の死を意味しているということだけだ。多分、恐らく、いや確実に、私の最期は自殺だと決まっている。それは昔からそうで、誰がなんと言おうと揺るがぬ事実なのだけれど、どうにも柳白と一緒に居る時はその感覚が薄れるようだった。なんだかメルヘンな御伽噺のように、二人は幸せに暮らしましたとさ、めでたしめでたし、なんて、もしかしたらそんな浮かれたハッピーエンドの様に人生を終えられるんじゃないかという予感すらしてしまうのだった。自分でも馬鹿馬鹿しいと思う。だが、この綱渡りのような人生において唯一の足場ともいえる存在が、今は冬崎柳白だった。いつから彼は、私の中でこんなに大きな存在になってしまったんだろう。思い返してもきっかけが見当たらないのは、結局私は、彼の中に見つけた私自身を愛しているのであって、柳白本人のことなんてちっとも見ていないということになる。自分の非情さと残酷さに反吐が出るけれど、これもまた事実だということは認めざるを得ない。

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