僕らは永久不変のあいが欲しい

七春そよよ

先輩

 

 春、入学式。

 初日早々私は、門の前に転がっていた小石に躓き鞄の中身をばら蒔いてしまった。焦る私に、彼は優しく声をかけてくれた。私は基本的に優しくしてくれる人なら誰でもいいのだ。他に目立った理由も無いが、私は一目で恋に落ちた。

 だが、私はまだ彼の名前も学年も知らない。好きになったからには、全てを知らなければならない。式が始まる時間まではまだ余裕があった。私はそのまま距離を取りつつ、彼の後をつけた。入学式だからと張り切って早めに登校した今朝の自分を有難く思った。彼は友人達と楽しそうに会話しながら、二年の教室にするりと入っていった。クラスを把握した私は、式が終わったあと適当な理由をつけて職員室に行く用事を作り、暇そうに座っている管理人に声をかけて二年の名簿を見せてもらった。彼の名前は簓木望向というそうだ。こうして私は、彼の学年とクラスと名前と年齢を把握した。

 その日の放課後。「資料の整理を手伝ってほしい」と、草臥れたシャツを着た冴えない男性教師に頼まれ、私は同行した。連れられて入った空き教室にはなんと、今朝助けてくれた彼が居た。「あれ、君は今朝の…偶然だね」と嬉しそうにしている。「本当ですね。驚いちゃいました」と、私も嬉しそうな笑顔を作った。

 

 ちなみにこの再会は、全く偶然などではない。先輩がこの空き教室で手伝いをしているという情報を事前に得ていた私は、この冴えない教師に意図的に接近し、声をかけやすそうな絶妙な位置に突っ立っていたのだ。私の姿をふと視界に映した教師は、案の定声をかけてきたというわけだ。

 冴えない教師は資料の束を机にずしりと置いて「すまないね、後は頼んだよ」と、そのまま職員室へ帰って行った。先輩は「仕事を押し付けやがって」と不満そうにしていたが、私にとっては好都合だった。

 彼と二人きりで話す機会を得た私は、少しでも好意が伝わればと精一杯愛想良く振る舞った。私が誉め立てる度、彼は嬉しそうにした。狙い通り、先輩は健気な私のことを気に入った。彼も私と同じく、自分に好意を抱いている女であれば誰でも構わないという適当な貞操観念の持ち主だった。そうして私達は、お互い断る理由も無く、ごく自然な流れで恋人同士になった。お互い単純で、お互い誰でもよかった。

 

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