第10話 再び現場へ
サンドラとともに再びマドニール平原へとやってきたブラント。
しかし、そこはすでに馬車も回収されており、何も残ってはいなかった。
「改めて見ても、怪しい物は何ひとつないわね」
「そうだな。――うん?」
辺りを見回していたブラントの目に、ある光景がとまる。
「あそこに森があったのか……」
平原から離れた位置に、木々が生い茂る場所が見られる。前回は初仕事とウサギのぬいぐるみという予想外すぎるアイテムがあったため気にならなかったが、かなり大きな森がそこにあった。
「マドニール平原近くの森って……」
そのワードに心当たりがあった。
どうやら、それはサンドラも同じらしく、続けて話し始める。
「これはさすがにあなたでも知っていたみたいね」
「あぁ……例の魔女伝説の森か」
マドニール平原近くの森には、魔女が住んでいるとまことしやかに囁かれていた。王都を含め、この近辺に暮らす者にとっては半ば常識になりつつ話だ。
「もしかして、今回の事件は……あの森に住む魔女が引き起こしたのかしら?」
「……それはない」
ブラントは断言する。
「な、何で言い切れるのよ。本当に魔女がいるかもしれないじゃない」
「すでにあの森は、二度に渡って騎士団による調査が行われているんだよ」
「えっ? そうなの?」
キョトンとした顔で尋ねてくるサンドラ。
同じ騎士団にいながら、その事実を知らないとは――と、一瞬ブラントは思ったが、あれは極秘裏に行われた作戦だったため、騎士団の人間が全員知っているわけではないのかもしれない。
ただ、報告書は残っているはずなので、いつでも閲覧ができる。
「……待てよ」
魔女の住むとされる森を騎士団が調査した――この事実を思い出した時、ブラントの脳裏にある考えがよぎる。
「どうかしたの?」
「いや……戻ろう」
「えっ? もういいの?」
「あぁ。それより、詰め所に戻って目を通したい報告書がある」
「報告書って……何の?」
「騎士団があの森を調査した結果を記した報告書さ。俺の読みが正しければ……興味深いことが分かるはずだ」
ブラントはそう告げて、足早に来た道を戻っていった。
詰め所へ戻ったブラントとサンドラは早速資料室へと向かい、例の森を調べた結果についてまとめた報告書へと目を通す。
調査は四つの分団が合同で行ってもので、およそ三日に渡り徹底的な調査が行われたと記されていた。
その中で、ブラントが気になっていたのは――この調査に参加した騎士の名前だった。
「あった!」
資料にある名簿には、グローブル分団の名があり、団長であるダグラス・グローブルをはじめ、意識不明となっているクリストフ・コーナーの名前や聞き取りを行った騎士たちの名前も並んでいる。
「あの森の調査メンバーにグローブル分団がいたってことね」
「それだけじゃない。――こっちの資料を見てくれ」
ブラントが取りだしたもうひとつの資料。
それは、大規模調査が行われたあとにもう一度実施された小規模調査についての報告書であった。
「気になるのはこの日付だ」
「大規模調査をしてから一週間後にまた同じ森を調査? どういうこと?」
「どうやら、二度目の調査は森に不審な魔力を感じたというタレコミがあったために行われたらしい。そのタレコミをしたのが――」
「っ!? メルツァード商会!?」
「驚くのはこれだけじゃない。二度目の調査を行ったのは……グローブル分団なんだ」
マドニール平原の調査依頼を出したメルツァード商会が、それ以前に森の再調査を依頼していた。しかも、どちらもグローブル分団が絡んでいる。
「これはもうただの偶然じゃない」
「そうね……ただ、この事実とあのウサギのぬいぐるみがまったく結びつかないんだけど」
「確かに、な。もっと調べてみる必要がありそうだ」
まだまだ真相には程遠いが、着実に答えへと近づいている。
ブラントとサンドラはその手応えを感じていた。
※明日以降も17:00に投稿します。
終了までは毎日投稿の予定です。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます