97 氷狼王の聖棺

 ユウヴィーは、禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスを研究区画の実験場まで誘導できたものの、学園の被害は甚大だった。


 途中、エリーレイドが救難活動をしているのを見て、自分自身の行動に胸を痛めたのだった。


 実験場の上空にいる禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスは降りてくる気配はなく、優位性を維持したまま、青白い炎の玉がユウヴィーを狙い続けていた。


 ユウヴィーは結界を貼り、禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスを逃さないようにしながら攻撃を避け続けた。縦長の円柱のような形になった結界の中で彼女は奮闘していた。


(結界事態を縮めていけば、降りてくるしかなく、殴って倒せるはず)


 結界そのものを狭くしていったが、そこから逃れるように足掻く禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスに思った以上に力を使うことになったユウヴィーは、次第に体力を奪われていった。


 また、禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスの表面は燃えているため、その熱気を浴びることによって、更に体力を削られていた。


(こ、これ以上近寄れない。これじゃ殴ることもできない)


 肉体、対物理、対魔法、耐熱、対瘴気など自身に光の魔法による強化をしていても辛い状態だった。


(こ、これじゃ――)


 打つ手が思いつかなく、どう戦うか思案した隙を禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスは見逃さなかった。


 特大の火球を口から連続でユウヴィーをめがけて放ったのだった。


「し、しま――」


 ユウヴィーに着弾し、爆発。

 後方の実験場の壁に叩きつけられ、めり込むのだった。


「かはッ」


 光の魔法により強化していた為、死にはしなかった。火球によって肌が露出している部分は黒く火傷していた。

 死にはしなかっただけであり、重傷だった。

 口から出たのは血であり、体の内部にもダメージが入っていた。


 意識を失いそうになる前に自身に回復の魔法を施し、大きく息を吸うユウヴィー。


 火傷も完治し、激しい痛みそのものを消し去ったのだった。


 めり込んだ壁からすぐに移動すると追撃の火球が着弾し、間一髪で避けた形になった。

 しかし、爆発と熱波がユウヴィーに伝わり、吹っ飛ぶのだった。


 うまく受け身を取りながら、すぐに回避行動に移りながら、ユウヴィーは思案した。


 どうすれば倒せるのか考えながらも、近寄ろうにも熱くて近寄れず、ダメ押しに光線で攻撃してもダメージを与えられなかった。


 その事に自身を犠牲にし、光の魔法を暴走させれば倒せるのではないかと思うのだった。


 光線以外に魔法はそもそも発動させてもあたりに飛散してる炎によってかき消されてしまうのだった。かろうじて、結界だけが禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスをとどめているようだった。


「あーん、ピンチじゃねーの」


「ユウヴィー!! 各騎士たちよ、包囲し浄化システムの起動させろ!! 急げ!!」


「水魔法使い隊、降雨の魔法を重ね掛け急げ」


「今度はオレが盾になるぜ!!」


「ふーん、まだまだだね」


「おい、チビは自衛力ないんだから、下がってろ」


「なんだと?」


 実験場の外周には、フリーザンネック王国のフォーラズ王太子、ハマト国の皇子リンク、商会連合国家の皇子イクシアス、聖教国の聖剣士マックス、シーンドライヴ帝国の皇子リレヴィオン、そして多数の騎士と魔法使いたちがいた。


「ユウヴィー嬢、遅れて申し訳ない!!」


「一人で無茶するな、共にやるぞ」


 自国のサンウォーカー王国のアライン王太子とレイバレットも来ていた。


――ワンワン!!


 そして、まさかのユウヴィーの使い魔のスナギモも来ていた。


(いやいや、国の重要人物たちが来ちゃダメでしょおおお!?)


 ユウヴィーは至極冷静な思考をしていた。


(え……まさか、強制力?)



――KYEEEEEEEEEEEEEEE!!



 禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスは、大気を震わすほどの叫びを上げ、実験場に青白い炎をまき散らした。


――ワンワン!!


 場違いな小さな子犬のようなユウヴィーの使い魔が青白い火の海となっている実験場に降り立ち、火の海を掻い潜りながら近くにやってきたのだった。


「ちょ、スナギモ!?」


 ユウヴィーは巻き散らかされた火の中で肌が焼け続けているものの、回復の魔法をかけ続けて無傷を装っていた。

 着ている衣類だけは魔法の重ねがけにより、丈夫でスス汚れる程度だったが、肌身はそうはいかなかった。


――KYEEEEEEEEEEEEEEE!!


 禍々しい陽光鳥サンアールフェニックスの悲鳴にも似たような鳴き声と同時にドロリとした火の塊がユウヴィーに向かって放射された。


 その矢先にまさか使い魔のスナギモが身を挺して守るという行動をとったのだった。


 ドロリとした火の塊が使い魔のスナギモにかかり、ユウヴィーは使い魔が死んでしまったと思った。


 本来それはユウヴィーが気合で連続回復の魔法をかけてどうにかしようとしていたものだった。


「ス、スナギモォォォォ!!」


 ユウヴィーは叫び、使い魔のスナギモがドロリとした粘着性のある青白い炎の塊に飲まれてるのをどうにかしようと近寄ろうとした。


 もふもふが丸焦げとなってもう永遠に触ることができないと悲しみとなぜそんなバカな真似をしたのか気が狂いそうに叫び続けていた。


――GRAAAAAAAAAA!!!!


 突如、あたりの火が一斉に鎮火し、熱かった大気は瞬時にひんやりとした冷気へと変わった。

 目の前に死んだと思った使い魔の小さな子犬スナギモは、巨大な狼になっていた。


「え、スナギモ?」


「あーん、伝説の氷狼王だと?」


「知っているのか、フォーラズ!!」


「オレ様の国では伝説の神獣として崇められていた。おもしれー女だ」


 フリーザンネック王国のフォーラズ王太子とハマト国の皇子リンクの二人が言っているのがユウヴィーの耳に入ったのだった。


(え、まじで?)


「大聖女となると、神獣を使い魔にするわけか、すごいな」


「オレの出番はなさそうだ」


「ふーん、やるじゃん」


 商会連合国家の皇子イクシアス、聖教国の聖剣士マックス、シーンドライヴ帝国の皇子リレヴィオンが賞賛し、ユウヴィーは混乱していた。


「今だ!! 火を封じ込めた今こそ、力を合わせるとき!!」


 アライン王太子が号令をかける。


「首を、飛ばす!!」


 レイバレットは太刀を構えていた。ブチギレていた。


 騎士や魔法使いたちもアライン王太子の号令によって、攻撃を開始したのだった。

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