75 大人げないこと

 研究区画の浄化システム実験場でユウヴィーとリレヴィオンは言い合いをしていた。

 

 事の発端は、ユウヴィーが自分の身を使って人体実験したからだった。

 

 カーペット型の浄化システムの動作確認を行うために、瘴気に汚染された魔物に対して実験検証中に魔物が苦しみだしていた。魔物は暴れ、カーペット型の浄化システムを破壊してしまっていた。

 その騒動に駆け付けたユウヴィーは瘴気汚染で凶暴化して、浄化システムの上でうまくジッとしてくれない魔物を光の魔法で拘束させたのだった。


 リレヴィオンは余計なお世話だと文句を言いながらも、データの検証が出来るため別の浄化システムで試したのだった。しかし、出力をあげないとそもそも効かない事が判明した。

 

 うまくいかない中で拘束した魔物そのものにダメージを与えてしまっているのを感じ、ユウヴィーが浄化システムに近寄って確かめるのだった。

 

「お、おい。何やってんだよ!!」

「うーん、ピリピリするわね……浄化とは何か違う感じがするわ」


 浄化システムは人に対して使用してないのに、ユウヴィーが試した事に驚き、信じられない目をしているリレヴィオンだった。


「あんた、血迷ってるのか!?」


「大丈夫ですよ、なんたって聖女ですから」


 相手がシーンドライヴ帝国の王子だろうと年下相手ならドヤっても問題ないだろうと思うユウヴィーだった。最初こそは王族相手だからと思っていたが、リレヴィオンの言動から自分の領地で面倒を見ていた背伸びをした子どもと変わらないと思ったからだった。

 

+


 一度、打ち解けてしまえば、二人でどう改良すればいいのか熱中する。


「そもそも瘴気と魔物の対象をしぼってないからうまくいかないのでは?」


「全ての瘴気と魔物に対して有効でないと意味はない」


「でもまずは特化型を作って共通する出力や波長を見つけて、そこを対象に合わせて変化させるようにする方がよくない?」


「はぁ? なんでそんな遠回りなことしなきゃいけないんだよ」


「瘴気も魔物も地域によって分布が違うから、まずはその場所に合わせた物を作っていけば、拡張性や汎用性など――」


 ユウヴィーは図書館に通い詰めた知識と職人肌の思考回路をリレヴィオンに語るのだった。

 圧倒的な知識と実際に貧乏子爵家として浄化を使って領地を立て直した幼少期の経験もあり、説得力の深みが違った。

 

 リレヴィオンは真剣に聞き入れ、目も見開きながら一言一句も聞き洩らさないとしていた。

 

 瘴気には種類があり、魔物にも種類がある。

 

「光の魔法の浄化は確かに万能だけど、浄化システムも万能さを求めるのは違うと思うわ。人が魔法を使うのと、道具が魔法を発動させるのは違うもの」


 ユウヴィーは話し終え、口を尖らせながら聞き入っていたリレヴィオンを見た。

 

(あ、しまった……一方的に喋ってしまった)


 オタク特有の早口になっていたのだった。


「ふーん、や、やるじゃん……」


 リレヴィオンはプイッとユウヴィーから視線を外し、悔しそうな表情を浮かべていた。

 

(や、やばばば、泣かせてしまうっ!?)


 ユウヴィーは焦った。

 

(な、泣くな……泣くなよ)


「ふん、オレは負けてないし、次は絶対に勝つからな」


 彼はそのままどこかへ去っていった。ユウヴィーは特に引き留めるような事をせず、見送ったのだった。

(な、泣かしてしまうところだった……)


+


「魔物の浄化が可能になれば、人への瘴気汚染が軽減される」


「ええ、そうなるわ」


 リレヴィオンとユウヴィーは浄化システムの仕組み、目的をすり合わせていた。


「魔物そのものも撃退する機能もあればと思っていたけれども、そもそも浄化と同時にするからいけなかったのか」


 カーペット型の浄化システムがうまく瘴気汚染された魔物に機能しなかった理由に気づいたのだった。


「魔物だって痛みを感じるとその場所に留まりたくないものよ、浄化は痛み、苦しみなどを和らげたり、無くすものだしね」


 二人は浄化システムの改良をするために、互いに意見交換し合っていた。


 その姿は仲のいい姉弟のようにうつっていた。

 すでにユウヴィーは学園の中では各国の王族と仲つつまじい様子を幾度となく見られ、噂されている。

 現にどの王族からも告白されていることから、今度はシーンドライヴ帝国の王子を狙っているのか、という声も上がっていた。


 今回も図書館と研究区画を行ったり来たりしているユウヴィーはそのことを知らず、シーンドライヴ帝国の王子であるリレヴィオンも知らなかった。


「あのリレヴィオン様……」


「――ん? ああ、今は聖女とこの浄化システムについて話し合ってる。後とで構わないか?」


「あ、わかりました」


「リレヴィオン王子、婚約者をそんな蔑ろにするものじゃないですよ」


「ふーん、あんたにはこの浄化システムが完成されるのが怖いのか?」


「いやいや、この状態だと何年かかっても完成は遠いわ。この浄化出力の波動が――」


 リレヴィオンの売り言葉に、ユウヴィーは買って浄化システムの事を話し込む。

 リレヴィオンの婚約者はそっとその場から離れていき、二人の邪魔にならないように去っていったのだった。

 


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