64 かたすかし

 ダンジョン、ユウヴィーはこの場所を天然の巨大な洞窟という認識だった。入口こそ広く、中の広さや通路なども均一化されておらず、足場も悪い。人為的な箇所が見受けられず、ダンジョンという名前の洞窟だろうという結論に至ったのだった。

 

 ただ、壁や地面などは薄暗く明かりが灯されているかのように明るかった。

 

(光る鉱石が作用しているのかしら?)


 好奇心がユウヴィーを刺激していた。その間、光の魔法で浄化フィールドを自分自身を中心にドーム状に展開している。突然の魔物が襲い掛かってきても瘴気は浄化され、弱くなり騎士たちが容易に退治できるというわけだった。

 

 とはいえ、このダンジョンに出てくる魔物は弱かった。

 

「瘴気が生まれる場所、というのはまだ先なのですか?」


 ユウヴィーをエリーレイドがもしかしたら知っていると思い話しかける。

 

「そうよ、下層に行けばそこだとわかるように黒い靄の塊がそこに存在しているはずだわ」


 エリーレイドが断定して言えるのは、ここに一度来たわけでもなく、前世の記憶を覚えているからだった。もちろんそれを口にするわけはない。騎士の人たちもいるため、不要な情報を発言をしない。

 

「病魔の巣窟という割には、あたりの瘴気がそこまで強くないのですがもしかして外に出る事で凶悪化する、とかなのですか?)


 ユウヴィーはもし仮にそうだとしたら騎士が定期的に間引きをしているから瘴気が外に漏れないようにしていると思ったのだった。

 

「違うわ、もうちょっと進みましょう。そしたらわかるかもしれないわ」


 エリーレイドも疑問に感じているかのように表情がどこか浮かなかったユウヴィーを見逃さなかった。さらに、より奥へ一同は進んだ。騎士たちは二人を止める顕現はなく、安全面からもユウヴィーが邪龍エボラァーションを浄化させたこともあった。何かあった場合は時間稼ぎに身を挺し、死ねという命令が下っていた。

 だが、ユウヴィーはそれを知らない。

 

 特に脅威となるものが現れるわけもなく、難なく進み天井が高い空洞が何か所もあるが、大型の瘴気汚染された魔物がいなかったのだった。

 

「おかしい」

 

 エリーレイドがぽつりとつぶやき、さらに奥に進んでいくとそこには、狼の死体が大量にあり、腐乱しているのを見つけるのだった。

 ユウヴィーも近寄り、見てみるとどれも大きくなく、3メートルほどの大きさの狼で瘴気汚染された中では中型に属するものだった。


「うーん、共食い……しているような痕がありますね」


――GYUUUUUUU!!


「あら、やっとお出ましね。やっておしまいユウヴィー」

「かしこまりまし……ました」

 思わずノリで返事をしてしまったユウヴィーではあったが、すぐさまに浄化フィールドドーム状から瘴気汚染された狼たちに向けて放った。


 光の魔法による浄化に当たると動きも鈍くなり、先ほどの唸り声も出せない程弱まった。それを好機と見た騎士たちは剣でとどめをさしていった。

 流れるように処理し、腐乱している狼に積み上げていった。いったん、狼の死体を数体地上に運び、研究班が回収する事になり、騎士の一人が人員を呼ぶため地上へと駆けていった。

 

 エリーレイドは首を傾げていた。

「どうしました?」

「いや、おかしいのよね」

「何がですか?」

 定期的に間引きしているため状態が一定に保たれていると思っているユウヴィーだった。また瘴気汚染された狼の強さも彼女の中では、この程度だった。ダンジョン内も間引きされているのなら過度な生体変化もなく、魔物が住み着き、瘴気の変化もないものだと思っていたからだ。

 

 エリーレイドはユウヴィーに対して、耳元で他の者に聞こえないようにつぶやいた。


「ゲームの時とまるっきり状況が違うのよ」


+


 いったん浄化された狼を地上に運ぶと同時にユウヴィーとエリーレイドも地上に戻る事にした。

 地上でエリーレイドはユウヴィーと共に、前回、前々回の報告資料を確かめることにしたのだった。ダンジョンそのものの生態状態を確認し、それでこれが「普通」だとわかったのだった。

 

 つまり異常はないのだった。

 

「邪龍エボラァーションの難易度がおかしくなり、ここの難易度がまるで初心者がくるような場所に変わっている、という事になるわね」


「逆に、もう危ない瘴気に侵された魔物はいないってことじゃない?」


「そうだといいのだけど、聖剣使いと聖龍が各地で浄化をしていたから、という理由にはならないと思うのよ……ね」


 エリーレイドは口にしながらも、以前彼女が引き金となった些細な事で大きな影響を及ぼしたバタフライエフェクトを思い出し、口をつぐんだ。


「何か思い当たる節でもあるのですか?」


 ユウヴィーは怪訝な表情でエリーレイドを覗き込んだ。


「うーん、わからないわ」


 思い当たる節がなく、憶測すら出ないエリーレイドだった。ユウヴィー自身は、自分がそういったバタフライエフェクトを起こしているとは微塵にも考えてはいなかった。何せ、前世の記憶を思い出せないからだ。

 ただゲームの時と明らかに違い、聖龍の時と今回のダンジョンは何かが変わっていた。それが何なのか二人の中に不安だけが心を巣くっていた。

 

「とりあえず、また明日深く潜って、瘴気が発生するところに向かいましょう。朝から向かえば昼過ぎ頃にはいけると思うわ」


 ユウヴィーは頷き、自分のテントへ向かった。


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