63 病魔の巣窟

 邪龍エボラァーションの一件が収束し、学園に戻ったユウヴィーは気を引き締めて生き延びようと思っていた。同室のハープに大丈夫だったか心配されたが、至って健康である事と今後の事も踏まえて、図書館へ向かった。


 残念そうな表情をされたが、結婚相手を探す前に瘴気がどこからやってくるのか、調べる事にした。


 どのような瘴気が存在しているのか、どういった対処が有効だったか、瘴気が起こした災害や惨事について書かれている書物や資料はあった。しかし、瘴気がどこからやってくるのかは見つからなかったのだった。


(ふぬぬぬ……って、ないということは争いの火だねになるから?)


 ユウヴィーはこの学園にきて、諸外国との関係やこの殉愛ルートがどういう意味を持つのか感づいてきていた。

 図書館で妄想をしていると、学園長室に来るように言伝があり、ユウヴィーはすぐさま向かう事にした。


+


「課外授業……ですか?

 学園長のスターロード卿が笑みを張り付けた表情をしていた。

 その場には、アライン王太子、エリーレイドがおり、二人とも疲れたような感じがしていた。

「病魔の巣窟、と呼ばれるダンジョンが存在する。そこに各国の騎士団を派遣する事になった。ダンジョンの場所については、別途情報が開示される。そこで授業の一環として、ユウヴィー嬢が行き瘴気について見識を深め、可能ならそのダンジョンを浄化する。という事だ」


 ユウヴィーは頷く。質問は受け付けられないのが雰囲気で伝わってきたからだ。アライン王太子もエリーレイドもどことなく不機嫌さが出ていた。

 

「あとは私の方から説明を致しますわ」

「エリーレイド嬢、よろしく頼む」

「どのような結果になっても単位の方は融通していただける、という認識で相違ないですよね、スターロード卿」


 アライン王太子に言われ、学園長のスターロード卿は頷いたのだった。


(あ、これ茶番をさせられているんだ……)


 異を唱えさせないように仕立て上げられ、言質をとり、向かわせる前置きだった。


――数日後


 瘴気の元が生まれる場所、病魔の巣窟と呼ばれるダンジョン近くの野営地にユウヴィーとエリーレイドは居た。数十名の各国の騎士団も在留し、物々しい雰囲気の中で、二人のプライベートは守られていた。

 瘴気が生まれる場所の多くは立ち入り禁止区域であり、国が厳重に管理している。国によっては聖域結界で出入り不可能にしたり、出入り口を埋めたりしていた。その一つの病魔の巣窟と呼ばれるこの場所はレイバレットの計らいで、聖教公国の管轄してるダンジョンだった。


 大きな借りで行ける場所となったのだったが、またとんぼ返りのように聖教公国かとユウヴィーは思うのだった。


「余裕だと思いますけれど、実力を見させていただきますわ」

(普段、監視してる癖に……)

 と思っていても口には出さない。

「はい、お手柔らかにお願いします」

 

 実家の領地で猟をしつつ、瘴気を祓っていたのもあり、大丈夫だろうというユウヴィーは思っていた。

 ダンジョンへ入る支度を行い、ユウヴィー、エリーレイド、騎士団五人という構成で計七人で行くこととなった。

 

 公爵令嬢が課外授業として出席する場所ではないのではないかとユウヴィーは思うのだった。だが、彼女の兄であるレイバレットの根回しから考えるとそこまで危ないところではないと思っていた。

 

 そして、中に入るとダンジョン内は浅い階層では何もなく、瘴気は若干あるものの、出てくるのは小型の瘴気汚染されたカエルくらいだった。

 

「病魔の巣窟、って瘴気が何か弱く感じるのですが普通なのですか?」

 ユウヴィーは自分自身が持つ光の魔法により、魔物を浄化していくものの、脅威となるような魔物がいない。そのことに疑問に思いつつ、エリーレイドに確認したのだった。

「奥にいかないとわかりませんわ」

 エリーレイドも訝しげな表情をし、何か思うところがあるような口ぶりだった。


 騎士たちの護衛を元にダンジョンをさらに深く入っていくのだった。

 

(もしかしてエリーレイドという公爵令嬢が来るから間引きされた後だからなのかなぁ?)

 

 課外授業の実地での授業のため、騎士団がある程度安全に間引きされたから、外に多くの騎士たちが在留していたのかもしれない。ユウヴィーはそう思いながらも、出てくる魔物が弱い状態なので、首をかしげる

 

(いや、間引きされていたとしても……)


 エリーレイドはユウヴィーの光の魔法による浄化が跡形もなく、瘴気が消滅するため、次第に警戒心が低くなっていた。

 瘴気に対する特攻が過度過ぎて、別の代替策やら代替品の開発するための仕組みやらができないのはどう思うとユウヴィーに話題をふったのだった。

 

「何かいいアイディアないかしら?」

「エリーレイド様、私のこの光の魔法そのものもよくわかっていないから図書館に籠ってるんですよ。代わりとなるものなら聖水とかじゃないですか?」

 

「あの仕組みはわからないのよ、あんたのチート魔法と違って一般人は瘴気に対して物に頼ったりしないといけないのよ」

 

「いや、今までものも光の魔法をメインで解決してませんよ……」

 

「鑑定やら解析とか、構造分析みたいなチート持っていたリしない?」

 

「そんなチートヒロインではないですよ。図書館で地道に仮説と検証してます。もちろん光の魔法は使っていたりはしますが、似たような効力がある代替品は目星つけながらですねぇ……」

 

 ユウヴィーは試行錯誤の回数や図書館であーだこーだと考えてる時間を思い出しているとドン引きした表情をエリーレイドはしていた。

 

 ユウヴィーは職人研究者気質だった。

 

「あ、あんたすごいわね……」

 

「命がかかってるから当然です」


 ユウヴィーは勝った気がした。何に勝ったかわからないが、そんな気がし、誇らしくなった。


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