49 国の紋章を背負う者
ユウヴィーは図書館でイクシアスの国について調べ、そこでどんな瘴気が発生しているのか調べていた。貿易が盛んな国であり、比較的暑いエリアであること、香辛料など豊富であり、特産品もある。また様々な瘴気が存在するものの、どれも対策してきているがコチニ・シラノーラという瘴気に汚染されたものが国特有として指定されているとのことだった。
「コチニ・シラノーラ……?」
ユウヴィーはそこに描かれていた絵が、身体の一定の場所によく出る症状として描かれていたのに疑問に感じ、呟いた。
瘴気問題として根強く残り続け、完治しても痕が残ることもあると書かれていて、これは辛いなと思ったのだった。
市井ではそういった症状が良く出ていて、首都がその症状が特に顕著にみられる傾向であるため、次第に瘴気の元が首都にあるのではないかとされていると書かれていた。思わず、どこが書いた本なのだろうと著者と発行元を確認したら、聖教公国と書かれていた。
(とりあえず、読み進めておいて他にも同じ事が書かれているか確かめてみてからにしよう……)
重症にはなるわけではなく、長年放置されており、他国から浄化作用のある聖水を購入している事によって、瘴気対策を行っている。
(聖水……これの購入費用は国から支出しているのかな?)
「さすがですわね、しっかりと調べていますわね」
声をかけてきたのはエリーレイドであり、集中していた為か、まったく気づかずにいた。
「ごきげんよう、エリーレイド様」
ドキドキする心臓を落ち着かせながら、なんとか挨拶をするユウヴィー。
「ふん、ギルドフリーデン国と各国の貿易はなくてはならない存在、くれぐれも――わかっていますわね」
「……」
ユウヴィーは黙ってうなずいていた。エリーレイドはそれを肯定と受け取った。
「よろしい、ギルドフリーデン国から近々、旅の一座と呼ばれる者たちが学園都市にやってきます。そこで本ではわからない事を知る機会があります。精々、がんばってください」
「え、どうして?」
エリーレイドは何も言わず、ただ去っていった。
ユウヴィーは彼女が何か心変わりでもしたのか、それとも何か企んでいるのではないか、疑問がわき、またしても答えが出ない事にモヤモヤさせられていた。
(罠でも、行って確かめる価値はある。少なくても知らないよりは知った方がいい。それにもしイクシアス王子と出くわしたとしても、問題はない……よね。それにしても旅の一座?)
一度読んでいた本をそのままにし、「旅の一座」について記載がある本を探し、そこからどういうものか調べることにした。
(わざわざ言う、ってことはイベントに関連する事のはず……こういう時に思い出せない自分が腹立たしいわ)
司書などに頼み、何冊か積み上げ席に戻るとそこにはユウヴィーが書き留めたノートを興味深く手に取り読んでいる男がいた。身なりが学生ではなく、れっきとした貴族であり、着ている服から自分の国のかなり位が高い存在とわかったのだった。
鋭い眼光であるものの、慈愛に満ちた瞳をしていた。うっすらと激務であることを示唆するクマが目の下にあった。白を基調としたコートに金と銀の刺繍と金属レリーフが施され、腰には帯剣をしていた。背中にはサンウォーカー国の紋である太陽が描かれていた。それを羽織る事が出来るのは重要な役職に立つ者のみが許される。
そのため、ユウヴィーは気軽に声をかけることが出来ずにいた。爵位が上、役職が上、などに該当する相手であるため、下手に動けずにいた。そんな気配を相手は感じ取ったのか、その男は振り返り、ユウヴィーの目をジッと見た。
「おっと……すまない」
手に取っていたノートをテーブルの上に戻すと一礼し、ユウヴィーもそれに応えて一礼をする。
「サンウォーカー国の外交責任の長ではあるが。君とは個人的な関わりがない。だが同じ国の仲間でもある。一介の役人という訳になるか」
意識を手放し、卒倒したかったユウヴィーだった。自国の外交責任者、つまり諸外国との関係を取り持っている存在でありエリートの中のエリートである。自身がもたらした各国への瘴気対策は自国にとって興味深い対象である事をやっと自覚しはじめ、血の気が引き始めていた。
(エ、エ、エリーレイドが事前に何かある際は連携とか連絡とか報告とかあわわわわわ)
何かあれば事前に話しておかないと各国の摩擦が強くなり、その調整を行うのが外交責任者である。その事にようやく気づいたのだった。瘴気問題を解決すれば、根本的な解決になる。それが自分一人で動いていても国対国だった。
「緊張することはない。これからも頼むぞ」
「は、はい」
絞り出すように声を出し、頭を下げる。
するとふわりと頭を撫でられ、ユウヴィーは思わずその手を掴んでしまったのだった。
「うん……。無様な事をした、つい一生懸命なところが似ていてな。許してくれ」
「え、あ、あひ……はい」
ユウヴィーは自身が無礼を働いたと思ったのと頭を撫でられた事が相乗し、緊張のあまり噛んだ。
するとフッと笑い、外交責任者は去っていった。
手には思わず握ってしまった相手のごつごつとした手のぬくもりが残っていた。
(あ、あんなキャラ居たっけ!? 居たっけ!? えぇぇうぇえええぇえ!?)
そのあと、勉強には手がつかなかったのは言うまでもない。
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