三年目 し恋(れん)、それは果たし愛

47 強制力

 新たな転入生や新入生、そしていなくなっていった卒業生。ユウヴィーは上級生との交流がないためか、また新たな一年が始まったという感覚しかなかった。転入生や新入生を見てもどれが攻略対象者なのか都合よく思い出すわけでもなかった。

 

(私の前世の記憶がモヤがかかったように思い出せないのって乙女ゲームの強制力が働いているからなのかなぁ)

 

 学園内の並木道を歩きながら自身の記憶が中途半端に思い出す原因を考えていた。答えが出るわけでもない事に思考を割いているのも、彼女の瘴気問題に対しての行き詰まりがあってのことだった。入学してから二年間、図書館にほぼ毎日のように通い瘴気について調べ根本的な解決に繋がる糸口を探してきたのだが、見つかる気配すらなかったのだった。

 彼女が持つ光の魔法により浄化してしまえば、跡形もなく瘴気は消えるが、そもそも光の魔法を使える者は少なく、何年に一度、何十年に一度、それも危機的状況に陥る時に現れるという存在であるのもあった。どれも危機的状況を打破するために、犠牲になっている事が確定していた。

 

 そんな似たような文献を二年間読み続けているのもあり、行き詰っていた。

 

 気分転換に並木道を歩き、何か変わるかもしれないと思っていたが彼女の心は晴れないままだった。並木道を歩いていると庭園があり、誰もが休憩できるベンチや憩いの場のような庭がそこにあった。時間的にも日が差し掛かってるのもあり誰もいなかった。

 

(ちょうどいいから、散歩してみよう)

 

 普段図書館くらいしか積極的にいかないユウヴィーにとって、はじめての行動だった。草花を愛でるという行為は前世の記憶をとり戻す前もしていなかったし、前世でもそういった趣味はなかった。

 庭園に入り、ふらふらと当てもなく歩いていると草花の香りが鼻孔をくすぐり、穏やかな気持ちにユウヴィーはなっていた。気分点検に庭園に足を踏み入れたのは正解だったと感じていた。

 

(また明日も来よう)

 

 鬱々としていた気分も晴れ、図書館に向かった。

 

(きっとまだ何かやれる事があるはずだわ)

 

 だが、その日も図書館で行き詰まりを感じてしまっていた。次の日も気分転換に庭園で散歩する事にし、ふらふらと歩くことにした。だが、いつも綺麗な庭園にはゴミが落ちていた。大量の破かれた紙だった。

 

「これはひどい」

 

 位置的にも丁度見えない位置に散乱しており、掃除がすぐにされる事はないだろうとユウヴィーは思って破かれた紙を拾い集め、ゴミ掃除する事にした。

 

(誰よ、こんな所にポイ捨てする屑は……)

 

 ユウヴィーはそのゴミを拾いながら、そこに書かれている文字が目に入り、驚いたのだった。

 

(瘴気対策に関して……)

 

 瘴気対策に関する論文だと知り、あたりに散らばっている紙を拾い集め一枚一枚つなぎ合わせて読むことにしたのだった。幸いにも敷地は広く、周りに誰もいないので、パズルのように組み合わせて確かめるのには他の人への迷惑にならなかった。また、並木道からは影になっているため、人目を気にする事もなく、彼女は没頭した。

 

 完成したゴミだった紙は書類になり、読みづらさはあったもののユウヴィーは熱中して読んだのだった。ただ肝心な部分だけ見つからないままで、わからない部分があったのだった。書かれていたものは瘴気対策が市井においての視点と生活習慣やその文化が紐づき発生している事が彼女の興味を掻き立てられていたものだった。

 

(うーん、足りない。ってことはどこかに落ちてるのかしら?)

 

 あたりを再度探してみても破られた紙は見つからず、ユウヴィーは仕方なく執筆者に聞きに行くことにした。

 

(こういうのは本人に聞くのが一番よね)

 

 集めた種類から持ち主が誰か特定できないか読み直す事にした。

「ねぇ、ちょっと貴方何をしてるの?」

 声がする方に振り向くと褐色肌の銀髪の切れ目のお姉さんのような令嬢がいた。ユウヴィーは素早く立ち上がり、貴族としての挨拶をおこない、事情を説明した。

 

「そう、書いた人なら知ってるけれど、貴方、本当に誰が書いたか知らないの?」

「はい、存じ上げません。研究区画の方でしょうか?」

 

 ユウヴィーは何度か研究区画に行き来しているものの、会ってない人が存在すると思っていた。

 

「ふぅん、まあいいわ。会わせてあげるわ、ちなみに私の婚約者よ」

 

 +

 

「イクシアス、お客さんよ。貴方の書いた論文について質問だって」

 

 お姉さん令嬢に連れられて来た場所は、王族専用の区画の屋敷だった。ユウヴィーは屋敷に招かれ、中に入り、独特なスパイスの香りとフルーティなお香から今まで生きてきた中で嗅いだことのない、新鮮な気持ちになっていた。

 

「はぁ? 論文についてだぁ? どうせそれを口実に近寄ってくるようなヤツじゃないだろうな?」

「ちょっと、言葉遣いには気を付けなさい。もう招いているのよ?」

「はぁ……それは失礼しました。えーっと、君か……俺はイクシアス・ギルドフリーデン、知ってるだろ? 商会連合国家ギルドフリーデンの第三王子だ」

 

 めんどくさそうに眼鏡にかかった銀髪をかき上げたイケメンがそこにいた。ふわっと甘いフルーツの香りがユウヴィーの方に漂ってきたのだった。

 

「は、はじめまして、サンウォーカー国のユウヴィー・ディフォルトエマノンです」

 

「え、あなたあの光の魔法使いの?」

 

(ああ、この人は攻略対象者だ……思い出した)

 


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