66.『お詫び』と『お礼』
———お揃いのペンケース。
それを聞いて、さっき消えたはずのヤキモチが高田の胸の中で再びムクッと顔を出した。
「・・・ふーん、川田君とお揃いにするつもりだったんだ」
女の子はお揃いが好きだ。真理も例に漏れずそうなのだろう。
自分はそういう事に興味があるわけではないが、そのお揃いを川田が持とうとしていたことを考えると、何となく良い気はしない。
「え、えっと・・・」
真理は余計なことを口走ったことに気が付き焦りだした。
そんな真理を見て、高田は改めて自分のヤキモチに呆れ、自嘲気味に笑った。
思い直して、真理に手を差し出した。
「おじさんにあげるなら、俺が貰うのは?」
「え!?」
「だって、真理とお揃いなんだろ?」
その提案に、真理は驚いたように紙袋を遠ざけると、
「ダメ!」
そう叫んで、背中の後ろに隠してしまった。
高田はビックリして、また目を丸めた。
「何で? 俺とお揃いは嫌なの?」
折角、打ち消したヤキモチがまた湧き上がる。
川田はよくって、自分がダメってとういうことだ?
「違う! だって、これは高田君を想って買った物じゃないんだもん!」
真理はブンブン首を振った。
「プレゼントするならちゃんとその人を想って買った物じゃないと価値が無いの! パパはいいのよ、価値が無くても。どうせパパだから。でも、高田君はダメ!」
高田は再び口元を押さえた。自然とにやけて止まらない。
「そうだ! そうだわ! ねえ! 全く違う、新しいペンケース買おう! お揃いで!」
真理は身を乗り出した。
「そうよ! そう言えば『お詫び』も『お礼』もまだだもん! お揃いのペンケース私が買う! ね? それで丁度良くない?」
「まあ、そうだね。それもいいね・・・」
高田は口元を隠したまま、頷いた。
ふふっと笑って、高田の顔を覗き込むように見る真理に、高田は一瞬息を呑んで、思わず目を逸らした。
そして、コホンとわざとらしく咳払いをしてから、チロリと真理を見た。
真理は相変わらずにこにこ笑って高田を見上げている。
その可愛らしい顔に、高田の心臓がドクンと鳴った。
「・・・いや、やっぱり『お詫び』と『お礼』は別の物がいい」
「え~、どうして?」
「どうしても」
高田は真っ直ぐに真理と向かい合った。
真理は高田の目の奥に小さな熱が宿っているのを感じて、急に緊張が走った。
胸がドキドキして、頬が赤くなるのが分かる。
それなのに、高田から目が離せない。
スッと近づいた高田の顔に、思わず目を閉じた。
名残惜しそうに、ゆっくりと唇が離れ後、真理はそっと目を開けた。
高田が赤い顔で真理を優しく見下ろしている。
真理は高田を瞬きしながら見つめた。
じんわりと唇に感触が残る。
(夢じゃない・・・!)
真理は途端にボボッと顔が赤くなった。
茹でダコのように赤くなった真理を見て、高田はニッと口角を上げた。
「今のは『お詫び』。『お礼』はまた帰りに。その時は真理からね」
「!」
高田は、口をパクパクさせて何も言葉を発せない真理の手を取り、
「昼休み終るよ。もう教室に戻ろう」
無理やり立たせると、意地悪そうな顔で真理を覗き込んだ。
「じゃあ、また帰りに」
そう言うと、手を振って特進科の棟へスタスタと歩いて行ってしまった。
その後ろ姿を真理は真っ赤な顔でボーゼンと見送った。
その後の午後の授業にまったく集中できなかったのは、恐らく真理だけではないだろう。
完
苦手な人の許嫁になってしまいました・・・。 夢呼 @hiroko-dream2
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます