52.親友に相談
「真~理ちゃん! おはよう~! ふふ、見ちゃったぁ~!」
教室の自分の席に着いてカバンから筆記用具などを出していると、奈菜が傍に走り寄ってきた。
「? おはよう、奈菜ちゃん。どしたの?」
「んもう~! 『どしたの?』じゃないでしょっ! 川田君と仲良く登校してたじゃない!」
「!」
「あんまり仲良く楽しそうに話しているから、声掛けづらくって掛けられなかった~! 良かったわね! 真理ちゃん!」
にこにこ笑う奈菜に、真理はドバババーッと罪悪感が噴き出した。
「えっと・・・、奈菜ちゃん・・・、そのですね、その件なんですけどね・・・」
「なになに~!! 進展あった?!」
奈菜はぐぐっと真理に顔を近寄せてきた。
「・・・い、いいえ・・・」
「なんだぁ~。もう、真理ちゃん! ここまで来たら押して押して押しまくらないとっ!」
「・・・う、うん・・・」
奈菜に鼻息荒く捲し立てられ、真理は素直に言い出せない。
(無理・・・。言えない・・・。もう川田君のこと好きじゃなくなったって・・・)
とは思うものの、この親友二人に黙っていられるほど、真理の忍耐力は強くない。
あっという間に罪悪感で潰されてしまうだろう。
(駄目だ! ちゃんと相談しよう! いつも力になってくれているのに。黙ってるなんて失礼だ)
それでも、今は止めておこう。
昼休みに・・・。
真理はそう決心しながら、今は奈菜の言う事を苦笑いしながら聞いていた。
★
「大変申し訳ございません!!」
とあるファミレスで、奈菜と梨沙子を前に、真理はテーブルに額を擦り付けていた。
真理は昼休みの時間もその後の休み時間も、なかなか切り出せず、結局、放課後になってしまった。
帰り際、あまりにも挙動不審でモジモジしている真理に見かねた梨沙子が、
「さっきから何? 話聞いて欲しいならちゃんと言って!」
と怒り、いや、助け舟を出してくれたのだ。
「ど、どう言う事? 真理ちゃん! もう川田君の事好きじゃないって! 今朝、あんなに仲良くおしゃべりしてたじゃない?」
テーブルに額を付けたまま頭を上げない真理に、奈菜は驚き目を丸めている。
「うん・・・。意識しなくなった途端、急に気軽に話せるようになって・・・なぜか話が弾んでしまいました・・・」
「ああ、あるあるだわね・・・」
梨沙子が目を細めてアイスコーヒーをチューっと吸った。
「で、理由は?」
「へ?」
真理はやっと顔を上げて、梨沙子を見た。
「理由よ、川田君の事が冷めた理由。何かあるんでしょ? いつまでも話しかけられないでいるうちに冷めちゃったなんていうのは通用しないわよ、言っておくけど」
(す、鋭い・・・、さすが梨沙子・・・)
「真理ちゃんの言う通り、川田君って楓ちゃんが好きなの? それで諦めちゃうの?」
奈菜は悲しそうな顔で真理の顔を覗いた。
「ううん。それは違ったの・・・。川田君から聞いたわ。花沢さんとはそんなんじゃないって」
「え! そこまで聞き出せたの? 本人から?」
奈菜は目を丸めた。
梨沙子は黙って、足を組んでアイスコーヒーを片手にストローを銜えたまま、じっと真理を見ている。
「うん。今日聞いたの・・・」
「じゃあ、何で・・・? 川田君の何が嫌になったの?」
「嫌になんかなって無いわよ! 嫌いじゃないもの! 相変わらず今日も超良い人だった!」
「じゃあ、何で・・・?」
首を傾げる奈菜に、
「他に好きな人ができたからよ。そうでしょ? 真理?」
梨沙子が目を細めて真理を見たまま答えた。
「う・・・」
「え!? うそ?! 本当? 真理ちゃん!」
じっと見据える梨沙子の視線に耐えきれず、真理は小さく頷いた。
「きゃあ! そうなの? もう、真理ちゃんったら、恋多き女なんだからぁ!」
「奈菜ちゃん・・・、怒ってないの? 川田君の事、あんなに協力してくれたのに無駄にしちゃって・・・」
真理は恐る恐る奈菜に尋ねた。
「別に怒ってないわよ! だって、あの時は本当に川田君の事が好きだったわけだし。私は楓ちゃんから話聞くだけで、何もしていないもん」
「お人好し、奈菜って。私だったら怒るけどね」
「はい・・・。そうですよね」
ピシャリと梨沙子に言われて、真理は子犬のようにシュンっと項垂れた。
「で? 誰? 新しい人は」
「そうそうそう! 誰誰誰? 早く教えて、真理ちゃん!」
冷めたように背もたれに寄り掛っている梨沙子とは対照的に、奈菜は興奮気味に前のめりになって、真理の顔を覗く。
二人からそれぞれ非常に大きな圧を受け、真理は後ろにのけ反った。
「えっと・・・、ですね・・・。その、非常に言い難い人と言いましょうか・・・」
「答えないという選択肢は無いわよ」
「そうそう! それはダメよ、真理ちゃん!」
「私の事、嫌いにならない?」
「は?」
「へ?」
「私、二人に嫌われたくない~~」
「嫌われるって・・・。まさか、私の彼氏じゃないでしょうね・・・?」
半泣き状態で俯いている真理に、梨沙子は詰め寄った。
「違います~~。それだけはありません~~」
「じゃあ誰よ? 私たちが知っている人?」
「はい・・・。知り合いではないけど、知ってる人・・・」
真理は、顔を上げて二人を見た。
もう、仕方がない。覚悟を決めた。
「高田君・・・。高田翔。あの特進科の王子様・・・」
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